138回原宿句会
平成12年12月12日


   


  東人
夜神楽や袖に薬罐の沸き通し
お喋りの種は尽くまじ牡蠣割女
年惜しむ未練のひとつ捨ててより
深川の向ふ六軒時雨けり
木枯を躱して耳の穴へこむ

  白美
夜神楽や屋号縫ひたる面袋
木枯しや自販機ばかり唸りたる
投薬で治らぬ頭痛片時雨
行く年や鞄に増えし常備薬
冬銀河眼を病む馬の眠りたる

  千恵子
夜神楽や少年口上淀みなく
秘密抱くやうに蜜抱く林檎かな
年惜しむ村のはずれに小町塚
立て掛けの丸太明るく時雨かな
凩のミニスカートを覗き過ぐ

  翠月
凩や帆柱きしむ漁夫の町
夜神楽の舞台に笛の這ふひびき
一行の重さ手帳に年惜しむ
古庭の夕の紅秘め実南天
夕時雨早き帰宅に置手紙

  筝円
木枯や質の字だけの路地あかり
年惜しむけふあることを喜べり
銀杏散る晶子のうたを口にして
朝刊の少し湿りて時雨ゆく
夜神楽の笛は無窮を諭すごと

  美穂子
出番待つ奏者に回るミニ懐炉
二つ三つ善きこともあり年惜しむ
木枯しや背に幼子の括られて
背に継ぎし布新しき里神楽
時雨るるや女ばかりの昼懐石

  和博
絨毯をめくる如くに落葉掻き
時雨るるや石の洗場慌ただし
木枯しの疎水の橋をくぐりけり
百年の残りを両手に年惜しむ
夜神楽の篝の炎に闇深し

  武甲
極月や子と口ずさむビートルズ
凩やはとバスツアーの富士詣で
手鏡の邪気なき顔や里神楽
下校子を追ひ抜き越して時雨けり
街路樹も無駄切り落とし年終はる

  正
廣重の堅田に港時雨かな
逝く年を惜しむ歓喜の大合唱
凩や雨戸を閉ざす寡婦の家
夜神楽の神は酒食に酔ひ痴れて
車椅子行くや銀杏の落葉道

  希覯子
やがて散る気配も見せず冬紅葉
地下道を抜けて時雨の街に出づ
生き残り無病息災年惜しむ
凩や閼伽桶どれも木の葉溜め
星空のいよいよ澄みて神楽笛

  明
銀盤に鋼の時雨槍の如
鬼籍入る師は夜神楽に出でて舞ひ
凩に追ひ払はれて箒星
年惜しむ世紀の夢に想ひ馳せ

  萩宏
千年の松に千度の年終る
岸壁に一羽動かぬ時雨かな
木枯しや地下道辿り遠回り
発掘の止まりし丘に時雨けり
夜神楽や寝所の窓を開きゐて