東人 夜神楽や袖に薬罐の沸き通し お喋りの種は尽くまじ牡蠣割女 年惜しむ未練のひとつ捨ててより 深川の向ふ六軒時雨けり 木枯を躱して耳の穴へこむ 白美 夜神楽や屋号縫ひたる面袋 木枯しや自販機ばかり唸りたる 投薬で治らぬ頭痛片時雨 行く年や鞄に増えし常備薬 冬銀河眼を病む馬の眠りたる 千恵子 夜神楽や少年口上淀みなく 秘密抱くやうに蜜抱く林檎かな 年惜しむ村のはずれに小町塚 立て掛けの丸太明るく時雨かな 凩のミニスカートを覗き過ぐ 翠月 凩や帆柱きしむ漁夫の町 夜神楽の舞台に笛の這ふひびき 一行の重さ手帳に年惜しむ 古庭の夕の紅秘め実南天 夕時雨早き帰宅に置手紙 |
筝円 木枯や質の字だけの路地あかり 年惜しむけふあることを喜べり 銀杏散る晶子のうたを口にして 朝刊の少し湿りて時雨ゆく 夜神楽の笛は無窮を諭すごと 美穂子 出番待つ奏者に回るミニ懐炉 二つ三つ善きこともあり年惜しむ 木枯しや背に幼子の括られて 背に継ぎし布新しき里神楽 時雨るるや女ばかりの昼懐石 和博 絨毯をめくる如くに落葉掻き 時雨るるや石の洗場慌ただし 木枯しの疎水の橋をくぐりけり 百年の残りを両手に年惜しむ 夜神楽の篝の炎に闇深し 武甲 極月や子と口ずさむビートルズ 凩やはとバスツアーの富士詣で 手鏡の邪気なき顔や里神楽 下校子を追ひ抜き越して時雨けり 街路樹も無駄切り落とし年終はる |
正 廣重の堅田に港時雨かな 逝く年を惜しむ歓喜の大合唱 凩や雨戸を閉ざす寡婦の家 夜神楽の神は酒食に酔ひ痴れて 車椅子行くや銀杏の落葉道 希覯子 やがて散る気配も見せず冬紅葉 地下道を抜けて時雨の街に出づ 生き残り無病息災年惜しむ 凩や閼伽桶どれも木の葉溜め 星空のいよいよ澄みて神楽笛 明 銀盤に鋼の時雨槍の如 鬼籍入る師は夜神楽に出でて舞ひ 凩に追ひ払はれて箒星 年惜しむ世紀の夢に想ひ馳せ 萩宏 千年の松に千度の年終る 岸壁に一羽動かぬ時雨かな 木枯しや地下道辿り遠回り 発掘の止まりし丘に時雨けり 夜神楽や寝所の窓を開きゐて |