147回原宿句会
平成13年9月3日

   
兼題「萩・二百十日・秋野」  
席題「虫」



   東人
  刺さぬ虫ばかりが鳴いてつつがなし
  その枝で編みし花籠萩を挿す
  締切りに気づき厄日の稿起こす
  ふくよかな石の置かれし秋野かな
  子の安危確かめてゐる厄日かな

   美穂子
  念入りに磨く鍋底厄日過ぐ
  富士に裾引きて秋野は緩き波
  庭に灯の入りて影濃き萩の宿
  刃に甘き砥石の窪み秋暑し
  汽笛聞く枕辺に虫聞きながら

   千恵子
★ 逆光の秋野に母を見失ふ
  秋冷を岩に集めて露天の湯
  白萩に光こぼして日照雨かな
  厄日かな無人リフトの行き交へる
  部屋の火の届かぬ辺り虫時雨

   希覯子
★ 日めくりを破り厄日の恙なし
  人の住む繋ぎ船あり秋の虫
  引込線錆びて秋野につづきけり
  源平の萩紅白の括り紐
  彩色の道祖神あり昼の虫

   白美
  嬰の顔のなべて豊頬大秋の
  唐紙に唐の引手の萩の寺
  厄日かな写経の一字書き損じ
  風の盆指の触れ合ふ木の手摺
  夜半過ぎて仮寝の床にちちろ虫

   利孟
  こぼれ萩太鼓でめくる紙芝居
  虫の音やネオン一字の灯らずに
  湯の滾るにほひの籠る厄日かな
  安売の牛乳積まれ休暇果つ
  秋の野のブルージーンに皮パッチ

   正
  天災より人災怖き厄日かな
  浮雲の影の移ろふ秋野かな
唐招提寺
  鑑真の見えざる目にも萩の花
木曽興禅寺
  義仲の眠る木曽谷虫かなし
  古寺多き塩田平の法師蝉

   武甲
  調教の仕上り試す秋野かな
  夜を惜しみ急ぐ命や虫時雨
  宿題を仕上げ親子の夏終はる
  徒立ちの二百十日や大号令
  楊貴妃に纏はる逸話萩の花

   筝円
  秋の野のはや夕空と融け合ひて
  一献を曙覧のうたとつづれさせ
  たくましく生きよと言はず萩の花
  秋の潮届かぬ底に眠る船
  下野沃野二百十日の狂詩曲

   和博
  佇みてさてふたたびの虫の声
  白萩を活けて閑居の黄昏るる
  白髪増ゆ二百十日の山仕事
  秋の野や鎮座してゐる石仏
  秋暑し週末不在妻娘

   翠月
用宗港
  二百十日船のひしめく小漁港
  緩やかに流れ池面のこぼれ萩
  落日の淡き秋野に分れけり
  異国もの小粋な品や夜店人
  ペン止めて満ちる余裕や虫時雨

   古川
  溶け切らぬ心のとげやゑのころ草
  風止んで秋野は一面音の海
  胸撫でて二百十日は過ぎ去りぬ
  見渡せば空星くづに萩の紅



今回は、宗匠特選二句、千恵子、希覯子です
最高得点は、美穂子さん、鍋底の句で、ダントツとなり総合でも巻頭
鍋底については、主婦の複雑な思いなどを背景とした句とも(すすで
汚れるような炊事法がある?)、
防災訓練の炊出しの整理とも鑑賞がありました

次回は一〇月二日の火曜日
兼題は「夜長・鯊・唐辛子」