第回22原宿句会
平成4年5月25日

   
兼題 紫陽花 辣韮 黒南風
席題 夏帯


            東 人
辣韮の瓶のラベルに父の文字
黒南風や手で梳く髪の膨れ癖
夏帯や母に妊る写真なし
あぢさゐや寺には寺の卵塔

            白 美
黒南風や錆の浮きたるカノン砲
夏帯や古地図模様のふれ太鼓
酒まわすアルミ薬罐や辣韮皿
紫陽花や雨音を聞く茅茶室

            健 次
辣韮をはさめぬ箸や幼き手
雲切れて光一条七変化
紫陽花の滴ひんやり石畳
黒南風や汗滲み出る長距離走

            利 孟
陽に透くる独鈷の地紋夏の帯
黒南風や裏にして干すブルージーン
崖を打ち鳴らす大浪辣韮掘り
紫陽花の地を打ちながら吹かれをり

            希 覯 子
単帯締めて晩節穢れなし
黒南風や垂れ幕多き県庁舎
辣韮を漬けて死期など知らざりき
あぢさゐや駆け込み寺に喜捨の函

            重 孝
黒南風や行き交うひとの似た仕種
黒文字の先に辣韮談はずみ
露店商裸電球一重帯
紫陽花のかげに隠れし一文字

            内 人
夏帯を緩めに締めて百度踏む
黒南風や形見の帯をきつく締め
黒南風や足に魚の目哀しけり
夏帯や柱時計の刻む音

            武 甲
遅咲きのあぢさゐ濡れて嫁ぐ朝
箱詰めし砂丘の便りの辣韮かな
幼な子の夏帯淡き浅草寺
黒南風や軒下さわぐ水車小屋

            京 子
ひと鉢にひしめき売らる七変化
黒南風や雲ヶ畑ゆく背負い篭
献上の夏帯きしみ香をたく
店仕舞い急ぐ足もと砂らっきょ

            玄 髪
紫陽花の雨だれに増す青さかな
築地裏今日から仲居単帯
黒南風や二階の夫音もせず
競市で衝動買ひの泥辣韮

            美 子
黒南風に鯛の頭を下げ帰る
辣韮が出回る頃や飯甘し
紫陽花の樹の裏側へ女人消ゆ
黒南風や惣菜並ぶショーケース

            英 樹
江の島の沖に日矢立つ濃あぢさゐ
貝殻の混じる砂地やらっきょ畑
黒南風や鯵網仕舞ふ老夫婦
弁天に卵供へる単帯

            千 恵 子
洗ひ上げしらっきょう艶めく夜の廚
あぢさゐの坂を上がれば湯宿あり
単帯腰細き女と知りにけり
黒南風に指呼する岬もかすみをり

            千 尋
洗い上ぐ辣韮の笊や昼下がり
紫陽花の五色にじみぬ雨硝子
黒南風や薄着で出でし子らのこと


            香 里
らっきょうの甘酢の匂ひ撮み食ひ
あぢさゐの水いっぱいに浴びてをり
黒南風や髪を気にする美容院
夏帯や手みやげ選ぶ母娘

            明 義
黒南風や増さる緑の濁り川
あぢさゐや窓の向こうの雨滴
あぢさゐや根っこの窪の水溜り
単帯胡座かくまま緩みをり