兼題 紫陽花 辣韮 黒南風 席題 夏帯 |
東 人 辣韮の瓶のラベルに父の文字 黒南風や手で梳く髪の膨れ癖 夏帯や母に妊る写真なし あぢさゐや寺には寺の卵塔 白 美 黒南風や錆の浮きたるカノン砲 夏帯や古地図模様のふれ太鼓 酒まわすアルミ薬罐や辣韮皿 紫陽花や雨音を聞く茅茶室 健 次 辣韮をはさめぬ箸や幼き手 雲切れて光一条七変化 紫陽花の滴ひんやり石畳 黒南風や汗滲み出る長距離走 利 孟 陽に透くる独鈷の地紋夏の帯 黒南風や裏にして干すブルージーン 崖を打ち鳴らす大浪辣韮掘り 紫陽花の地を打ちながら吹かれをり |
希 覯 子 単帯締めて晩節穢れなし 黒南風や垂れ幕多き県庁舎 辣韮を漬けて死期など知らざりき あぢさゐや駆け込み寺に喜捨の函 重 孝 黒南風や行き交うひとの似た仕種 黒文字の先に辣韮談はずみ 露店商裸電球一重帯 紫陽花のかげに隠れし一文字 内 人 夏帯を緩めに締めて百度踏む 黒南風や形見の帯をきつく締め 黒南風や足に魚の目哀しけり 夏帯や柱時計の刻む音 武 甲 遅咲きのあぢさゐ濡れて嫁ぐ朝 箱詰めし砂丘の便りの辣韮かな 幼な子の夏帯淡き浅草寺 黒南風や軒下さわぐ水車小屋 |
京 子 ひと鉢にひしめき売らる七変化 黒南風や雲ヶ畑ゆく背負い篭 献上の夏帯きしみ香をたく 店仕舞い急ぐ足もと砂らっきょ 玄 髪 紫陽花の雨だれに増す青さかな 築地裏今日から仲居単帯 黒南風や二階の夫音もせず 競市で衝動買ひの泥辣韮 美 子 黒南風に鯛の頭を下げ帰る 辣韮が出回る頃や飯甘し 紫陽花の樹の裏側へ女人消ゆ 黒南風や惣菜並ぶショーケース 英 樹 江の島の沖に日矢立つ濃あぢさゐ 貝殻の混じる砂地やらっきょ畑 黒南風や鯵網仕舞ふ老夫婦 弁天に卵供へる単帯 |
千 恵 子 洗ひ上げしらっきょう艶めく夜の廚 あぢさゐの坂を上がれば湯宿あり 単帯腰細き女と知りにけり 黒南風に指呼する岬もかすみをり 千 尋 洗い上ぐ辣韮の笊や昼下がり 紫陽花の五色にじみぬ雨硝子 黒南風や薄着で出でし子らのこと 香 里 らっきょうの甘酢の匂ひ撮み食ひ あぢさゐの水いっぱいに浴びてをり 黒南風や髪を気にする美容院 夏帯や手みやげ選ぶ母娘 明 義 黒南風や増さる緑の濁り川 あぢさゐや窓の向こうの雨滴 あぢさゐや根っこの窪の水溜り 単帯胡座かくまま緩みをり |