第24回原宿句会
平成4年7月15日

   
兼題 夕立 カンナ 蛍
席題 蠅叩き


            東 人
点滅を地に伏せてをり蛍篭
夕刊の来ぬ祖父の郷蝿叩き
夕立や俄かに老けし遅れ客
カンナ咲く堀の向かふの麹室

            千 恵 子
藁筒の蛍土産に佐渡帰り
眼帯の奥で夕立聞いてをり
無人駅カンナ駅守る如く立つ
道黒く染めて夕立去りにけり

            千 尋
診療所縁のほつれし蝿たたき
グラウンドの隅で球音吸ふカンナ
社まで連れ添ふ道や初蛍
夕立やゐしまま目凝らす針仕事

            希 覯 子
状差しに蝿叩きさす山の宿
白雨来る寺の廂の深からず
国境や彼我にカンナの咲き乱る
蛍飛ぶ椿山荘の近ければ

            英 樹
蛍火や少女のうすき掌の中に
夕立や橋のむかふにけふの宿
一ト振りに腰頼りなき蝿叩き
黄のカンナ咲かせて犬の美容室

            利 孟
白線の薄れし走路カンナ咲く
編み終へし青き棕櫚葉の蝿叩き
借り物の長靴湿る蛍狩
下着着ぬマヌカン人形夕立かな

            白 美
蛍火を追へば刃となる闇の草
諍ひの突然止みて蝿叩き
夕立や相席客と蕎麦湯飲む
白川郷家深閑とカンナ燃ゆ

            玄 髪
藤原の雅の屏風に蝿叩き
大夕立袖すり合はす南大門
放課後の夕陽に燃えるカンナかな
阿闍利谷闇に群れ飛ぶ蛍かな

            京 子
ぎこちなく着初めの一歩蛍舞ふ
廃鉱に陽は降り積みてカンナかな
夕だちの蹴散らす人波法被の子


            内 人
夕立や単身赴任碗洗ふ
夕立や梳る髪すなおなり
眠る子の背をさする手に蛍かな
教へ子の帰りたる教室カンナ咲く

            明 義
夕立やタワーの灯り天を染む
夕立や葉の浮く侭に露天風呂
夕立や稜線遥か田舎駅
夕立や待つ人想ふ軒の下

            美 子
蛍来て大きな息の火を放つ
七夕の真ッ赤な月へ紙の鶴
それぞれの眼の明暗へ追ふ蛍
鳥の眼の激しさをもちカンナ咲く