第30回記念琵琶湖吟行会 |
東 人 時雨るるも霽るるも湖国山低し 流れ行く崩れえり簀や初時雨 対岸に足をかけたる冬の虹 「信長」といふ酒湖国時雨けり 芦刈の近江の風に吹かれけり みづうみに落つる冬日やえりの舟 凩や南蛮菓子の欠片喰み 一雙の幅の水尾あり蘆刈舟 芦原や湖国の橋は弓なりに 黄昏れて峰より颪す比良比叡 美 子 冬の旅手に持ち歩く小さき菓子 振舞ひにカステーラあり背に時雨 比良山を正面に据ゑ寒茜 櫨紅葉信長公の緋の合羽 湖の彩吸ひ上げし冬の虹 ひつじ田の中に現はる歴史館 シェフの焼く南蛮菓子や初時雨 蘆眺む旅の身なりも様々に 時雨るるや兵もまた旅人も 再会の話に沸けり鴨の鍋 |
杜 子 しぐるるや信長着たる革袴 寒夕焼空に切り入る裏比叡 淡の湖浮きたる鳥の背に時雨 鴨鍋のほこほこ煮ゆる座敷かな 晩菊や比良も比叡も黄昏るる 時雨るるやフロントグラスの守り札 よき人のよき声響く冬の虹 枯れ葦を見し夜は葦のざわめける つかれ目に枯葦原のそよぎかな 末枯やぽつんと見ゆる近江富士 利 孟 刈葦の束寄せ積みや比良暮るる ごろた石積む舟溜り番鴨 閘門の重き鉄扉や水涸るる えりの網越ゆる大浪鳰の湖 肥後守出し悪童のよしの笛 焙烙で焼く南蛮菓子柿紅葉 鴨の影よぎりポプラの並木かな 冬の虹安土土産の金平糖 竹の春シェフ帽が焼くカルメ焼き 逢坂へ車の列や枯木星 |
千 恵 子 冬の虹近江の湖に突き刺さる 昏れなずむ仕舞田に犬黙し立つ 降り立てば時雨迎への大津駅 冬映えの湖に浮寝の鴨の影 南蛮の菓子に安土の秋深む 葦原を飛ぶ鳥冬の風に散る カルメラや安土城趾の大銀杏 葦原に風の光りて冬来る 初時雨昏れゆく湖に舟もやる 近江富士頂きに重き冬の雲 梅 艸 野洲川を越えて冬野となりにけり 着ぶくれて湖岸の影の十余り 万歩計三千と九歩で葦に会ふ 虹を見る雲井の彼方の越の冬 湖の波綱手緩みし冬霞 風に揺る蘆火の烟鳰の海 墨染めの袖抜けし風葦搖れる 葦戦ぐ落ちる義仲裏比叡 冬霞安土城址の金平糖 冬の月湖西の人を映しけり |
玄 髪 鴨鍋や葛切り入れる細き指 風止みて雄松ヶ里の冬の虹 信長の野望の跡に山もみぢ 左手で切るカステイラ時雨やむ おおみ荘なにわ銀行の隣なり 暮れ早し近江大橋有料道路 短日や雲が峰はふ火事のごと 白 美 湖昏れて西に傾く蘆の花 銀杏散る南蛮菓子の軽き味 鉄冑を屋根に置きたる冬館 冬近しほうろく鍋の菓子厚し 寒夕焼人影もなき船溜り 芦刈の田に残りたる黒木立 天のなきコックの帽子暮の秋 枯木立数へしあとの黄のリボン 近江富士叡山を背に冬夕焼 蘆の花古き木舟の揺らぎをり |
京 子 鐘楼を影絵に剪りて秋夕焼 法堂の柵に閑居の冬の蜘蛛 去りがての陽を追ひかけて鰯雲 月一つ動かず夜景飛びすさる 雲誘ふ比叡の山や暮早し 枯野行く薄暮の中に近江富士 刈田行く畔に群れたる青き草 俄雨上がりて落葉音を消す 由 朗 豊作の田を移り行く雲の影 暮れゆけば灯のごとし黄落葉 残照の高きに映る近江富士・ おおみ荘騒ぎの中の菊の花 琵琶湖畔車窓に流るる芒の穂 はるかなる嶺より高く鳶舞ふ 電車過ぎし線路の土手に虫の声 |
東 人 黄落や唐橋までを力漕す 岩肌にカヌー休ませ峽紅葉 石山に厳つみあげ実南天 杜 子 しじみ飯炊くこつ教へ木の実降る 釣竿の撓ひて瀬田の秋深し 石山の石に嵩足す落紅葉 白 美 照紅葉大津の鬼も染めにけり 枯菊や巨石の群の天を突き 黄落や十三札所納め箱 利 孟 散銀杏艇庫の高き扉かな 実南天石山寺のさゞれ石 式部絵図様々紅葉時雨かな 美 子 二日目は女が残る冬の旅 冬の陽に苔の乾きて多宝塔 他人の撞く鐘を聴きをり紅葉寺 京 子 カヤックの若人まぶしはぜ紅葉 秋たけて丹塗りの水車リズミカル 山里に孤高を保ち吾亦紅 千 恵 子 檜ぶきの屋根の紅葉や旅終る 紅葉の賀石山寺の式部展 病気平癒の絵馬鳴る堂に紅葉散る |
杜 子 山茶花や塀の下なる消火栓 寄進簿の楷書の署名初あられ 黄落やマネキン長きまつげ持つ 襖絵の深山幽谷そぞろ寒 車降り友等と仰ぐ冬銀河 初時雨ややに馴じみし鮒の鮨 東 人 塀越しに見る雪吊りや露天風呂 大友の皇子の湖国や銀杏散る 小春日の常陸訛りのまつげかな 小襖や茶花に瀬田の石蕗の花 鱒鮨や特急雷鳥湖西線 黄落や寄進提燈本堂に 利 孟 紺ショール巻き付けて買ふ鱒の鮨 秋神楽金一封と寄進札 藁屋根をのべ広々と柿襖 まんさくの一葉残りて煉瓦塀 悪友と互ひに呼びて炉辺話 文化祭二枚合はせて貼るまつげ |
京 子 宮参りまつげかすめて散る紅葉 ふな鮨の香り懐かし湖の国 朱夏の友紅葉の峽をかろがろと 塀越しに羽衣紅葉吹きこぼれ 寄進碑に「和泉国」や霰過ぐ 襖絵も共に寿ぐ松の内 千 恵 子 布団敷く男襖を明け放ち 鳰の海しぐれてまつげも濡れそぼる 紅葉照る白塀に猫のひそみ足 友の家訪ふ福井の秋深し 銀杏散る階段手すりの寄進名 鮒鮨の看板にもみじしきりなり 白 美 紅葉散る頼朝寄進の多宝塔 堀割の崩れし塀の薮枯 首白き友の夜ごとの寒やいと 鮒の鮨薄き切れはし冬日かな 冬めきてまつげに白きもの見つけ 草枯れて襖の取っ手こはれたり |
東 人 越前の俄か湯町や冬銀河 葦刈りや旅のはじめの長命寺 老優のオスカートロフィ散る紅葉 湖国にもぽっくり寺や木の実降る 黄落の納経帖干す札所かな 比良比叡二峰跼る冬霞 杜 子 一茶忌や二枚重ねる掛布団 こがらしや万札で買ふ特急券 黄落やミニスカートが先を行く 二十前の男子の書斎冬林檎 旅かばんおろし球根埋めたり ぽっくりの舞妓背高し寒茜 白 美 二の腕の刺青の見えて酉の市 冬の朝児のスカートの寝押しぐせ ぽっくりの鈴の音色や七五三 冬日向旅行鞄を買ひ求む 苔むせし北前船に時雨ふる 黄落や観音模写の札めぐり |
利孟 「冬の旅」ラジオに流れ夕霧忌 越前の蟹を食ふて無口なり 香煙のぽっくり寺や小六月 スカートの余り毛糸で編む帽子 時雨るるや竹田街道札の辻 夢二の忌売り子の白きヘアバンド 京 子 札止めの天覧相撲秋深し 前山の紅葉を分けて奇岩佇つ 小春日にキュロットスカート華やぎて ぽっこいの歩みあやふげ七五三 旅にいて思ひがけなき冬銀河 二の酉の向ふはちまき豆しぼり 千 恵 子 布団敷く男襖を明け放ち 鳰の海しぐれてまつげも濡れそぼる 紅葉照る白塀に猫のひそみ足 友の家訪ふ福井の秋深し 銀杏散る階段手すりの寄進名 鮒鮨の看板にもみじしきりなり |