第32回原宿句会
平成5年1月18日

   
兼題 寒蜆 金縷梅 隙間風
席題 寒晒


            東 人
センター試験了る
せつせつと自己採点や隙間風
殻の斑の湖ゆづりなり寒蜆
黒板に残る符牒や寒晒
金縷梅の彩裏がへす風のあり

            梅 艸
寒蜆黒き肩寄せ砂吐けり
寒蜆湖泥豊穣太き腹
隙間風憎みて窓を開け放つ
逢へぬまま金縷梅尽きて午睡かな

            白 木
手秤の一掴み足し寒蜆
寒蜆笊よりこぼす日の光
まんさくの父の山より咲き始む
隙間風乞うて少しの酔とあり

            京 子
まんさくは残りの雪を画布にして
身の末はいかなる化粧寒晒
「小言の座」背を這ひ昇る隙間風
気ぜわしき朝の箸先寒蜆

            希 覯 子
金縷梅や不老の井戸は竹圍ひ
寒晒干すもの多き蜑の家
仮通夜の霊安室や隙間風
寒蜆軽トラックの売子かな

            千 恵 子
水底の闇吸ひ上げて寒晒
隣室の祖母の独語やすきま風
金縷梅や土蔵白壁暮れ残る
寒蜆かこち顔なる羅漢かな

            利 孟
寒晒滑車を残し閉ざす井戸
レコードのうねりのゆるく隙間風
谷水で沸かす紅茶や金縷梅花
石積に手つきて拾ふ寒蜆

            内 人
寒晒祖母の手水にためらはず
酔ひ醒めの汁にくろぐろ寒蜆
綿埃ころりころころ隙間風
寒蜆唐崎の松老いにけり

            重 孝
空澄みて目にしみわたる寒晒
ひとしきり金縷梅の花子等のこへ
またひとつ虚勢を張りぬ隙間風
升のなかぬくもり詰めて蜆売り

            白 美
半時の早起きをして寒蜆
落ち針の曲がりたる糸隙間風
界隈と呼びたき街の寒晒
金縷梅のこぼれる獄舎煉瓦塀

            美 子
寒蜆艶々として掻き出され
顔面に薄き闇あり隙間風
寒蜆洗ふ指より目覚めけり
盆植ゑの金縷梅眺む武家屋敷

            英 樹
金縷梅や蓑笠かかる飛騨民家
ふつふつと寒蜆煮る微酔かな
三人の姉のゐし部屋隙間風

            香 里
寒晒突掛捜す勝手口
寒蜆ボウルの中の舌つつく
隙間風久しぶりなる母の家
下宿先夜通し話す隙間風

            武 甲
隙間風雑魚寝してゐる四畳半
金縷梅を愛でし父逝く雨の朝
寒蜆藍のもんぺの行商婦
殻の斑の湖ゆづりなり寒蜆