第33回原宿句会
平成5年2月8日

   
兼題 連翹 東風 鬼やらひ
席題 初午


            東 人
連翹や腰から朽ちるドラム缶
灯をすこし消してはじまる鬼やらひ
路地奥のさらの幟や一の午
朱で塞ぐ石狐の耳や東風の河岸

            利 孟
連翹や鋳物の脚の庭机
東風わたる蛇の玩具の竹の節
鬼やらひ目尻の墨につぎし紅
初午やセロファンかさと林檎飴

           英 樹
東風吹くやをんなの耳に金の鍼
初午や出雲来間屋生姜糖
連翹の雨に覚めたる川面かな
金星の見ゆる大窓鬼やらひ

            白 美
鬼やらひ父の眼笑ふ紙の面
連翹やダビデのレリーフ美術室
初東風やゆっくり新聞めくる音
蒸し饅の立ちのぼる湯気午の市

            美 子
強東風や路地の地蔵の白化粧
節分の焼鰯買ふ列に入る
丹田に気を貯めて立つ鬼やらひ
黄の連翹皇太子妃の現わるる

            希 覯 子
初午や幟新たな屋敷神
追儺豆電気掃除機丸呑みに
強東風や潮待ち船の双錨
連翹や展示ハウスの小庭持つ

            千 尋
初午や碧眼美女の売る腕輪
東風ふくむスカーフに頬よせてみる
面のひと恐ろしく見ゆ鬼やらひ
乳母車の子をあやすなりいたちぐさ

            千 恵 子
鬼やらひ鬼に抱かれて泣く子かな
映画館出て強東風に吹かれけり
連翹や人待つ座敷の端居かな
初午やビルの谷間に祠置く

            武 甲
鬼やらひ声張り上げて照れ隠す
強い東風や大願成就の声届く
節分や単身解除の声弾む
初午や社の杜の旅一座

            京 子
初午や眠る子の背に狐面
年女ここ一番の豆を撒く
鬼やらひ鬼打つ豆の乱調子
明りゆく山潔し東風渡る

            香 里
初午や尻からかじるリンゴ飴
強東風や母の戸締りもう一度
連翹や掛け声そろへランニング
鬼やらひ面の下まで恐い顔

            千 里
朝東風や大和三山雲渡る
夕東風や片膝立てて酒二合
連翹の一枝抱く無縁塚
初午や二拍一礼白き足袋

            梅 艸
節分と知る入院食の乳ボーロ
日の丸の燕返しや東風一陣
東風に狎れ白雲に溶け道をゆく