谷根千春期吟行会 連歌師にして弁護士の前田蒼山さん、地元で老舗のおせんべ屋さんの若旦那、鈴木かずをさんのご案内で坂と文学散歩の吟行会 |
東 人 梅東風や低き軒端の氏子札 かご文字のはねのかすれや春燈 はこべらや逢初稲荷ありし跡 円朝の墓に菜の花挿されけり いせ辰を右手に緋寒桜かな 牡丹芽の茎立つ寺やこげら鳴く 団子坂上団子坂下春の雨 利 孟 うららかや手刷り小紋のぽち袋 観音のゆるく膝曲げ花馬酔木 坂裏はなべて寺領や柳の芽 沙羅の芽や文豪の碑の猫の糞 谷向ふまでビルを埋め朧かな 洋樽を並べ三色菫かな 沙羅の芽や坂の中途に由来書 英 樹 古井戸の束子の乾く梅日和 連歌師にして弁護士の黒き足袋 如月の金の仏を仰ぎけり 消火器の粉のこぼるる鳥曇 走り根の太き切り口涅槃西風 燈篭にシャベルの置かれ牡丹の芽 合掌の地蔵の濡るる春すだれ |
白 美 春昼の椅子の足切る漢かな 下谷逢初堀跡を歩けば 紅梅に仕立て札かけへびの道 戸袋の鏝絵鳳凰雁帰る こでまりや唐桟縞を売る小店 リットルで売られる豆や春の風 いささかの憂き気持ちあり花樒 白辛夷和時計の告ぐ午の刻 白 木 如月やガラスケースの江戸根付 牡丹の芽をとき放つ炎のかたち 佗助の花を数へてより無口 春陰や坂の途中の千代紙屋 右書の紺屋の屋号梅眞白 アパートの庭の茎立ちばかりかな 楽しまず倦まず樒の花なりけり ま こ と 仮睡仏下萌ゆる音聴き在す 碑ばかりの笠森おせん梅曇 梅ヶ香や菩薩垂下の御手のもと 借り申す古刹厠の欝金香 いせ辰の江戸千代紙の武者人形 鉄舟の墓に潔白椿侍す なんとまあ沈丁ばかり根津屋並 |
希 覯 子 嬰の掌に似て牡丹の芽ぐみけり 花夷辛小学校は無人なる 鉄舟の墓に供花なし牡丹の芽 樒咲く鉄舟の墓供花もなく 阿仙の碑春信の碑春の供花 団子坂登りつめたる遊蝶花 沈丁や方便の嘘言許されよ 千 恵 子 この先は上野の山よ春の雲 路地曲がる度に沈丁匂ひけり 玄関にパンジー育て路地暮し 朝日湯といふ湯屋ありて春の空 ツンツンと芽吹く牡丹や無縁墓 恋猫や庭掃く僧はうつむきに 若死の陸軍少佐白椿 |
東 人 角に置く石に塗料や朧の夜 額堂の不動の剣春の月 地に丸きものの少なし春の月 霾るや青年国を捨てるころ 草餅や奇行の果の墓の主 春昼や欠目見落す観戦子 収監の後のためらひ春の風邪 利 孟 明王が破邪の剣や忘れ霜 康成が題字の碑文夷辛の芽 弾丸に当てるノギスや春の風邪 楽劇に奇行の騎士や万愚節 舶来のコートを被り収監らる 袖ぐりの欠目数へて毛糸編む 青一滴白の塗料に花曇 英 樹 連歌師の下駄の欠目や春の風 収監の少年の眉利休の忌 龍と成る飛車の駒打つ春の暮 板塀の塗料の匂ふ鳥曇 朧夜の奇行の人と歩みけり 囀や本丸にある鬼瓦 花曇大極拳の剣鳴り |
白 木 手遊びの轆轤の土の雛と成り 春月のそろりそろりと奇行癖 石畳石の欠目のいぬふぐり 奉納の剣の舞や月朧 朧夜の掌に丸薬の三粒かな 収監の報春の夜を騒がせり 並べらる塗料の缶に春の色 白 美 熊楠の奇行を語り蒸鰈 丸ぽちゃの幇間墓や沈丁花 剣なき守りの明王春の鹿 二輪車に蛍光塗料や春の闇 副総理老いの収監更紗木瓜 冴え返り欠目なきひと小言言ひ 成という皇女もありて蕗のとう 希 覯 子 パンジーや塗料売る店白づくめ 春愁や短き剣佩きし時期 春宵や金丸老の収監報 沈丁や欠目に勝負また決まる 春句会選句に丸を重ねけり 絵馬に書く大願成就梅日和 春の月奇行と言わる仕草して |
千 恵 子 収監の報せ届くや春疾風 農具市塗料剥げたる耕運機 剣持ちて舞ふ人のあり夜の桜 口に触れる盃の欠目や春の闇 成り行きにまかせて傍観春寒し 丸窓の古き家あり谷中路 奇行多き人の訃報や春浅し |