兼題 霧 糸瓜 秋灯 席題 凶作 |
東 人 タンカーの夜霧を崩しくづし来る 凶作田青めて山河ひきしまる 秋灯や首にリボンの恋衣 熟れ細り糸瓜の種のづれる音 利 孟 秋灯や紙で蓋する漆桶 雨粒の荒き響きや糸瓜棚 凶年や実習田のつなぎ服 音わづか遠のき霧の谷戸の底 千 恵 子 秋灯影絵のきつね鳴き上手 不作語る若き農夫の国訛り へちま棚急行停まらぬ駅勤め 霧しとど扉の把手も濡れにけり 白 木 秋灯や要かなめの小町針 朝霧のなだるるごとく走りけり 凶作の田に広々と空があり 長瓜のはみ出すままに水漬かれり |
英 樹 スケボーの少年の行く霧の夜 夕霧やゆつくり戻る渡し舟 末成の糸瓜は今朝の酢の物に 秋の燈や螺旋階段登り来て 美 子 髪形を男に似せて秋灯下 廃屋に霧と籐椅子住まひけり 眼も口も塞がれている霧の山 病人の薄き身体長糸瓜 健 次 白線を頼りに走る霧の道 糸瓜揺れ荘子読む目に影動き 凶作や鳥篭の下雀をり 秋燈や渾沌の意を求めたり 希 覯 子 繙くは逆引辞典秋灯下 糸瓜垂れ無人駅舎と思はれず 捨て案山子不作の年となりにけり ランタンを霧に灯して舫ひ舟 |
京 子 へちま水首にはたいて伸びあがる 風に乗る鷺悠々と霧の中 ぽつねんと媼店守り秋灯 不作田の闇突き抜けて家並まで 白 美 贋ダイヤ飾りし瓶の糸瓜水 糸瓜浮くプールの柵の破れかな 秋の燈や児の口の端に細き髪 川霧や戻らぬ家に忘れ物 法 弘 秋灯下法華七喩に親しみて 娘らの美貌を言へり凶作地 使はざる井戸に鉄蓋糸瓜もぐ 「死者の書」を読む声らしき霧の中 千 里 中年の大欠伸して糸瓜かな 寺霧らふ杉木立より鳥の声 秋灯の夢より醒めて眼鏡拭く 秋灯や夢二の描く細面 |
千 尋 波止のごと霧立つビルの谷間なり 絵日記のヘチマを競ふ登校日 秋の灯を頬にともせる家路かな 武 甲 喧噪の去りしペンション糸瓜棚 朝霧や「ランドマーク」の長い列 凶作や高値切り売りする主人 秋の灯の川面に揺るる終列車 |