第45回原宿句会
平成5年10月19日

   
兼題 秋の暮 新酒 焼き芋
席題 曼珠沙華


            東 人
噴霧器で塗るカンバスや曼珠沙華
升の香も含みふくみて新酒かな
愛嬌を素面で流し焼藷屋
墨汁を足して墨する秋の暮

            法 弘
秋の暮捨て縄で拭く鍬の泥
焼芋をスプーンで食ふ薬師かな
たましひの洗はれ白花まんじゅしゃげ
ぐいのみへ口の近づく新走り

            千 尋
固結ぶ木綿風呂敷新走り
合はぬ靴履き通したり秋の暮
ひとつはぜ芋焼く燠の白さかな
道行くやまた曼珠沙華そこの丘

            美 子
戸口にてまた立ち話秋の暮
新酒下げぶらりと来たる碁打ちかな
門限のごとくにくれし秋の暮
焼芋を割りても与ふ者のなし

            英 樹
秋の暮プレスの音の洗濯屋
ふくみみる新酒に酔いてしまひけり
秋の墓石を切り出す父の島
焼芋屋いつもの角に来てをりぬ

            利 孟
曼珠沙華石組み確と一里塚
息かけて袋を開く焼き藷屋
秋の暮尾燈の埋めるシャンゼリゼ
杉の栓せし裸瓶新ばしり

            千 恵 子
蔓珠沙華地蔵の口の小さき紅
焼芋の売り声テープのかすれがち
声だして絵本読む子や秋の暮
一応は味はい顔して新酒かな

            白 美
焼芋をくるむ競馬の新聞紙
緋の袴擦れて社の新酒かな
煙草喫む農夫の影や曼珠沙華
積み上げしポケットアルバム秋の暮

            千 里
億ションのちらしで包む八里半
歩きつつ人と離れし秋の暮
石舞台八間離れ曼珠沙華
新酒飲む去年の苦さを碗の底

            京 子
焼芋や薪の太さもたのもしき
開演を待ちつつワイン秋の暮
杜氏らの苦労思はる今年酒


            武 甲
利き酒の舌でころがす今年酒
病廊に妻の声あり秋の暮
山門の朽ちて苔萌ゆ曼珠沙華
焼芋や常連客の伊達紳士

            梅 艸
焼き芋を包む軍手の飴の色
ヌーボーと酔ひ駆け巡って新酒かな
秋の暮れ都市窯変の2秒前
天蓋の鳥ひたぶるに秋の暮れ