第五十回記念句会 兼題 鴨帰る 北窓開く 涅槃 席題 梅 |
重 次 声たてず嘆き寝釈迦の目覚め待つ 紅梅を過ぎて流れの力抜く 鴨引きし後湖の真ッ平 北窓を開けグランドの声入るる 東 人 北窓を開いて父の忌を修す 梅東風や出世稲荷の通学路 膝曲げて嘆く鳥獣涅槃絵図 肉叢を胸乳につけて鴨帰る 白 美 引鴨やひとりで括る下宿の荷 北窓を開け摺りはじむエッチング 色褪せし発願の文梅二輪 指折りて十二支数ふ涅槃絵図 利 孟 壁を蹴る馬の不機嫌北開く 身をかばふやうに捩れて臥龍梅 風の中なる澪に乗り鴨帰る 山積の金の供物や涅槃寺 |
希 覯 子 引く気配微塵も見せず鴨群るる 北窓を開き滑車を慣しけり 涅槃図や伸び縮みして絵解竹 柴又は寅さんの里臥竜梅 武 甲 涅槃会や素足に軋む寺回廊 ありったけの水音たてて鴨帰る 五分咲きに襟元ゆるむ梅まつり 北窓を開けて遥かに河光る ま こ と 涅槃像耳朶にいのちの虫が這ふ 枝垂梅風にいささか怠けをり 綺羅しぶき沼覚ましつつ鴨帰る 北窓を開き風なぞ喜ばす 千 尋 モヘアーの編み目くぐるや梅の風 鴨いくやその先もまた都あり 涅槃会や寺町ひそと賑へり 北窓をあけて半日過ごしけり |
法 弘 涅槃図の搖るるは象の鳴けばなり 梅剪れば塔の裳層の雪しづる 北窓を開けんとすれば谿の音 行く鴨に大日如来磨崖仏 秀 峰 週刊誌の散らばる番屋鴨帰る 北窓を開け白粥のややかため 大靴の人も来てゐる涅槃会かな 早梅の一木だけを嗅ぎてをり 翁 莞 刺繍の手休めて開く北の窓 城跡を巡るが如く鴨帰る 晩鐘の尾を引く部屋の涅槃像 渓流に突き出す枝に紅き梅 千 里 ごろりして裾の正しき寝釈迦かな 北窓を開きて髭を剃りにけり 梅の夜屋台の酒の温めなり 方寸の地上げの跡の梅の花 |
梅 艸 北窓を開けてチラシの目張りかな 涅槃西風いま土佐堀を遡上せり 掌中の湖臨界して鴨帰る 梅だより「未開」の里の二つ三つ 美 子 北の窓開けて訛の晴ればれと 仏徒より餓鬼の顔見る涅槃絵図 高層の窓拭き帰る鴨を待つ 開けきらぬ梅林の香を我が物に 英 樹 トラックの一座フェリーへ鴨帰る 襖絵に唐子の遊び涅槃雪 北窓を開けて港の倉庫群 金色の靴ひも結ぶ梅まつり 健 次 引鴨の動きに合はす遠眼鏡 梅林や茶釜の鳴りが聞こえけり 北窓を開けて大気が満ちあふれ 見上げれば笑みをたたへる涅槃仏 |
玄 髪 うたた寝の極楽妻の涅槃像 北の窓開く日暦まだ浅き ビル乱立狭まる空に帰り鴨 梅三分鳩に餌を撒く老夫婦 白 木 引き際の耳打ちをして鴨と鴨 一ト本の梅を囲みし野点かな お涅槃や五体投地の足のうら 北窓を開くは父の決むること 千 恵 子 行く鴨や料金不足で来る手紙 大き足持つ僧もゐて涅槃寺 北窓を開けて覚えの山と会ふ 見上げれば日差しに固き梅蕾 京 子 我ここにありと咲きぬく梅一輪 飛び梅の香もそこのけに受験絵馬 北窓を開く朝の陽のなごみ 涅槃雪こんもり眠る二軒宿 |
香 里 梅まつり湯島過ぎ行く羊かん屋 腕まくりして母開く北の窓 梅白く合格祈願の絵馬重し 涅槃寺とぎれず続く僧の声 明 義 白梅や銀の世界に幹黒し 唐紙の捲れる裏に涅槃図や ヒナ壇の更地に残る梅二本 孫を待ち北窓開く里の親 |