秋季鍛錬会下野吟行 |
利 孟 コスモスや生み立て卵直売所 秋の雨吸ひて井桁に積むほだ木 秋蕎麦や玉藻狐の果てし野に 荒縄をかけ嵩たかき芋茎かな 巻狩の鍋は丸太で担ぐなり 草紅葉梁に墨所の氏子の名 葉を落とし紅を与へるりんごかな 灯油缶積む芦野歯科診療所 丈高く伸び秋茄子の熟れにけり 杜 子 雨に濡れ動く黒牛独活の花 鈴索を引きて時雨の音に和す 秀明菊翁の句碑のくづし文字 鞘堂の下に身を寄せ初時雨 やや寒や鰻食はする蔵座敷 秋の声柳も石も苔蒸して 寛政の寄進の鳥居鵙高音 秋水を湛たへ鎮もる隠り沼 空井戸の網にからまり蔦紅葉 鳶の輪のゆるく大きく秋曇り |
法 弘 秋深む蔵に家紋の二引両 せめぎ合ふ那須の広野を霧と霧 なかんづく野州黒羽百匁柿 秋謐か何も映さぬ鏡池 障子閉づつくづく県警本部長 神鈴の紐の湿りや神の留主 真筆の句碑と伝へて杜鵑草 行く秋や警視に旅の案内受け 秋服に腕章ボランティアガイド 身に入む柳の精は加藤嘉 美 子 右折して枯野へ入れば夫婦岩 脛踵冷えて踏み入る那須の原 シテ僧を心待ちして散る柳 鰻屋に身体丸ごと温めけり 秋湿り頭陀に入れたる菓子袋 内臓を熱くして見る刈田かな 目測のひつじ田広し朽ち柳 稲架濡らす夜雨も風狂風羅坊 捨て車輛足元に生ふ黄の小菊 黒羽路奥のこ暗きぶどう棚 |
白 美 藁塚の雑兵のごとく並びたり 身に入みて台座に小銭阿吽像 枯尾花見渡す限り九尾の尾 肌寒し二服いただく抹茶碗 コスモスの指で梳くごと風通ふ 藁塚に農夫の癖の顕はれる おのが身を池に映して鵙の鳴く 覆ひとるパイプの中の温室トマト 竹笊の貼り紙破れ秋の風 千 恵 子 刈田道下校子三々伍々の影 美女に化けし狐の末期秋の雲 背負籠の老婦の歩幅露寒し 由来記を刻む鳥居や草紅葉 注連縄はYの形に秋深む 北を指す磁石の赤や秋の暮 さきがけの紅葉一葉に露しとど 樒一枝のみの供華や秋社 狛犬の苔むす瞼秋深む |
千 里 鶏頭の鉢一つあり蔵座敷 ショパンのごと遊行柳の秋時雨 雲低く古田の畦の草紅葉 黒羽や歩き疲れて式部の実 これがまあ遊行柳か秋時雨 向き合ひし狛犬二匹苔の顔 くろばねの山紫水明秋の色 勇 紅葉も染め残したり鏡山 半ば枯れし里芋の葉に露宿る 食む人の少なくなりし柿たわわ 白茸の影を乱して鯉跳ねる コスモスの土に伏したり秋の雨 |
千 恵 子 秋光を窪みに集め吊り魚板 風の音水の落として朴落葉 乱組みの石階に鵯の声ささる 竹樋の水は一筋秋光る 大寺の方丈大屋根竹の春 白 美 秋麗ら訛りで説かる輪廻絵図 菊日和筆新しき拾得図 杜鵑草仏頂和尚の花に似て コスモスや閂かたき勅使門 菊一葉畳廊下に落ちにけり 利 孟 水引や禅僧風を捌き座す 陽の照らす辺りへ欅黄葉かな 朝寒の絮に光の芙蓉の実 サルビアの朱や日溜りの門球場 間を伸ばし木魚止め打ちて秋 |
京 子 咲き闌けしほととぎす皆露帯びて 橦木には桜の古木秋深し 秋の寺火焔太鼓の打たれ胼胝 とんぼうの頭の白斑空睨む 秋の寺少し傾げる小さき銅鑼 杜 子 水音の絶えざる響き秋高し 勤行の経ろうろうと花八つ手 衝立の寒山拾得朝寒し 壷一つに秀明菊と実南天 きざはしに蜻蛉のむくろ雲厳寺 |
白 美 身に入むや宇宙は丸の一字にて 団栗の転げて参る八幡社 草の実も投げ入れられて投句箱 朝寒や濃きコーヒーを啜りをり 焼栗の爆ぜて正午の時報かな 嬌声もまぎれる街の子規忌かな 実石榴や奉納されし鬼の面 六甲の屋根よりはじむ山紅葉 ボタン屋の明かりの残る夜寒かな 渡り鳥焦点合はぬ双眼鏡 炉を切りし座敷を開く蔵の鉤 雁啼くやスクランブルの交差点 海の幸山の幸あり秋の膳 空耳で聞く菊人形の語り合ひ 腰太き捕手の走りや秋高し 畦道を紫苑ものせて一輪車 大広間演壇飾る花芒 |
杜 子 一位の実昔犬追物の跡 面取りを丹念にして南瓜煮る 俯きて陽に実を垂らし秋海棠 山車といふ原酒商ふ飛騨の秋 駅員と交はす挨拶十三夜 木の実降る根本中道太柱 特記事項無き填補表ちちろの夜 残菊や光吸ひ込む夜叉の面 朝寒のホームに「あおば」待ちに待つ 赤のまま焦がれ死にせし美女狐 釣り人の影の動かず秋の空 アンテナを宇宙へと向け竹の春 コスモスや奥深く入る蔵座敷 漬物の人参赤し秋うらら 子の駆ける後を母追ふお茶の花 秋気澄む八溝山塊焼きむすび 久濶を叙し車窓より大花野 |
千 恵 子 花野抜け少し心をほどきたり 空瓶の底で秋光遊びをり 秋入陽藏の座敷の鳥剥製 ミステリー読み継ぐ夜や雁渡る 秋深む焦げ目ほどよきクロワッサン 酌み交はす酒白々と良夜かな 篭鳥の良く啼く朝や木の実落つ 島影の一帆動かず秋の海 補聴器の母の寡黙や秋海棠 銅葺きの方丈大屋根秋うらら すれ違ふ車にこぼれ秋の草 きざはしを降りれぬ子犬あきうらら 一人遊ぶ子の独り言木の実落つ 秋風に嵯峨面軽き音たてり 宇宙よりの音よりかすかに木の実落つ 参道は刈田の中よ開墾社 |
利 孟 実紫回せばきしむ経車 秋冷や棹秤り古る蔵座敷 時雨るや補助椅子に置く洋鞄 鵙猛る宇宙より説く転生図 交はりてより蟷螂の太りけり 山茶花の垣や黒羽文化館 悴かめる指のほぐるや参鶏湯 秋彼岸舌に漫画の子供靴 秋の日や東司手拭きの青海波 面篭手の並ぶ縁側秋麗ら 空稲架の広がる割れ目秋の雨 豆殻の豆のくびれのまま焼かる 新米に埋め焦げ甘き鰻かな 朝顔の種子掌にこぼしけり スワトーのハンカチ夜間飛行の香 行き違ひ待てる車やりんごの実 藁少し取り大根を括りけり |
京 子 秋暑し海上空港人の波 苔を置く古木の根方秋桜 人も木も宇内の秋を楽しめり 櫓田に藁焼く人の影流し 欄干を伝ひ歩きの子鶺鴒 |