第64回原宿句会
平成6年12月22日

   
   平成6年忘年句会
兼題 鴨 敷松葉 年の内
席題 寒の水   


            東 人
かをり良きリップジェリーや年の内
育ち良き栽培セット寒の水
ハンターの息のむ高さ鴨群飛
風やんで組みのほどよき敷松葉

            千 恵 子
ポケットに触れるメモあり年の内
尼寺に音なき昼や敷松葉
ひらひらと月の張りつく寒の水
鴨の来る川あり家居の日々静か

            利 孟
年の内ピザの切れ目に垂るチーズ
薬鋏の赤の散らばる鴨猟場
鴨汁の土鍋おろしてなほ煮立つ
池底に一円玉や敷松葉

            希 覯 子
年内を約す職人気質かな
銅の龍が吐き出す寒の水
茶庵まで数歩の距離に敷松葉
鴨料理自ら任ず鍋奉行

            京 子
鴨の頚青を深めて風の中
乾物屋路にせり出す年の内
敷松葉天目茶碗の釉溜り
敷松葉「残月亭」へ石づたひ

            美 子
敷松葉茶杓の銘に「捨小舟」
鴨食べて肌をしつとりさせ眠る
寒の水突つく鴉の嗄れ声
帰宅時の庶民溢れる年の内

            杜 子
ひたひたと水を押しゆき鴨の陣
寒の水見るさへ体ふるへけり
不義理二つ三つほどありて年の内
敷松葉塩瀬の帯のお正客

            英 樹
年の内オープン近き歯科医院
戻り来し紙ヒコーキや鴨の池
鴨の池パントマイムの手風琴
堂裏の濡縁高し敷松葉

            武 甲
去年よりも餌の嵩増す鴨の池
小坊主の朝告ぐ声や敷松葉
アメ横に殺気だつ声年の内
覚めやらぬ我身を冷ます寒の水

            香 里
寒の水絞る茶巾が音をなす
年の内テレビの裏の埃とる
年の内郵便局で並びをり
鴨を決め息をひそめて狙ひ撃つ

            白 美
衣擦の音遠のきて敷松葉
一滴も余さずに呑む寒の水
随行も主もなくて鴨の群
宝くじ求める列の年の内

            博 道(吉野)
敷松葉雨音消えて軒しづく
母も来て障子張りかへ年の内
友が来て酒と炬燵と鴨の鍋

            千 里
年の内京都西陣機の音
ひそひそと塀越しの声敷松葉
新党の五つ六つあり年の内
尼寺の飛石白し敷松葉

            法 弘
鴨吊るや針金通す鼻の穴
来ぬ人を待つはゆかしき敷松葉
年内や寅さんを観て旅にあり
みちゆきのけふを末期の寒の水

            玄 髪
作務僧の箒走りて敷松葉
考へる前に動けや年の内
品書きに墨黒々と鴨料理


            梅 艸
CDの列長々と年の内
落日や湖面に鴨の金環蝕
飛び石を洗ふ樹海や敷松葉

            萩 宏
月影も音なく封ず寒の水
双眼鏡横切る鴨にピントずれ
躙口赤い鼻緒に敷松葉
いつの日か個人会員年の内

            伸 作(伊東)
寒の水歯槽膿漏朝六時
鴨肉の数をかぞへるうちの鍋
初雪ですべってころんで敷松葉
ぶつからず歩けぬ通り年の内