第65回原宿句会
平成7年2月17日

   
   震災被災者激励句会
兼題 梅 如月 恋猫
席題 野焼き


            東 人
野を焼くや凶器捜して歩くごと
紅梅のうしろ鼻ひる権帥
如月や神戸元町焼き魚
微に入りて闇あたたまる猫の恋

            法 弘
きさらぎや口の端よごす粉ぐすり
農協の倉庫出てくる恋の猫
父の忌を修すすなはち梅で飲む
貝塚の起伏やさしき広野焼く

            美 子
野火の舌酸欠の頭を持て余す
風音の合ひ間合ひ間に猫の恋
如月や母から届く「實母散」
畦を焼く地にゐて司法修習生

            千 恵 子
如月や話題は通夜の女客
デフォルメの女の画像猫の恋
梅ふいに匂ひて闇の遠のけり
草焼きのあとにザクザク茎根かな

            利 孟
如月や香炉の灰にうす湿り
日の当る塀に陣取り恋の猫
白梅や藁かけて結ふ陶の皿
梅の香や長崎出島異人館

            萩 宏
甍をも軽ろく包むや畦焼く香
寝つかれぬ女に切ない猫の恋
避難所の校庭隅に梅香る
如月や洗濯取り込む指白し

            京 子
地を這ふ炎奈良平城の草を焼く
梅一枝ざつくり活けて昼支度
のつそりと垣の破れを通ひ猫
如月やヒールにガラスの光るくつ

            白 美
探梅の地図には載らぬ梅古木
如月のステンドグラス母子像
毒液も棘も煙に野焼かな
恋猫の腰のあたりに噛まれ傷

            英 樹
梅林の空を描き足す少女かな
如月の雪より白き壷を買ふ
切り岸にあかつきを呼ぶ恋の猫
如月や金の茶室に緋の障子

            茶 々
待つといふ形集めて二月の樹
約束を違へて一人愛づる梅
みづみづと野焼終へたる土の黒
手紙燃す夕べ切なき猫の恋

            千 里
山稜に野火走りゆく古都の夜
如月や軽き身を置く車椅子
震度7瓦礫の山の猫の恋
白梅や敢へて団居に加はらず

            健 次
この日だけ停まる特急梅祭
畦を焼くその傍らに消防団
恋猫の啼き声もなき転居先
役割は如月の夜の発表見

            千 尋
老梅の実生のゆくへ問ふ子かな
猫の恋つむじ風巻くにこ毛かな
恋猫やブロック塀の交響詩


            希 覯 子
如月や前金切れの句誌届く
あくまでも夫唱婦随や畦を焼く
剪定の先より梅の綻びて
街燈のまばたく寺塀猫の恋

            博  道
受かつたよ娘の笑顔梅ににて
飼ひ猫も野生にかへる恋をして
きさらぎの海かぜ強く妻が寄る
俳人の梅との対峙窓ごしに

            伸 作
湯気けむる窓に爪痕猫の恋
背をまるめ歩く路地裏梅のかげ
深呼吸二月冬富士近く見え

            香 里
如月やゴルフ延期の知らせ出す
野火の音パチパチ響き怯える子
猫の恋窓を閉め切り本を読む
もう開くちらちら見える梅の色