蔵の街栃木・渡瀬遊水池吟行 ホテル鯉保・割烹思水荘 |
晶 春陰や土蔵の窓の嵌め殺し 春雷や胎内ほどの蔵あかり おぼろ夜の土蔵の根ッこ生えてゐし 農耕車優先道路山笑ふ 馳けたがる炎宥めて畦を焼く 白 美 身幅ある皮半纏に菜種梅雨 三椏の猫の手のごとあまた咲き へた残る柿の裸木峡の里 春時雨寄附で購ふ花車 濡れしまま蘂小紫節分草 千 恵 子 寄付帳の日付は明治春の雨 マネキンの祭法被や春館 どの家も蕎麦の生業春みぞれ 理髪屋の灯うつして春の川 のぞき込む花と私に雨しとど 杜 子 往きもどる山の辺の径節分草 かたくりを教へし人の指の泥 三叉路に三椏の花雨しとど 杉花粉赤ぐろく山迫り来る 木の芽雨堀の緋鯉の腹太き |
京 子 仕立屋の止った時計花の冷え 白梅や蕾は紅の衣着て 春寒やブタの蚊遣りを売る小店 山茱萸のほつそりと咲く雨の山 山静か節分草の濃紫 希 覯 子 異国種の節分草は室の中 色恋や県庁堀の水温む 芽柳や巴波川にも悲話ありて 紅梅と言へど濃淡ありにけり 春雨や一夜の宿り蔵の町 利 孟 首の無き踊り人形春の雨 髭抜けし関羽の頭春の雨 濡れそぼち縮みあがりし犬ふぐり 目を残す防塵マスク山笑ふ 雨粒を溜め三椏の蕾かな 良 子(堀江) 雨露の重みにうつむくせつぶん草 荒梅林枯草の中花白し 春雨や県庁堀の鯉しづか 野の花に小さきしづく春の雨 春雨をついて群れ交うしじふから |
利 孟 春泥や煎じ薬の湯気甘し 春燈や海の香あふる乾物屋 緑錆をまとふ四神や春の雨 筆ペンの穂先整ふ孔子祭 使者捧げ持ちたる幣や杉の花 春の夜の扉をたたく訃報かな 地粉で打つ蕎麦山茱萸の花盛り 杜 子 春愁や色鉛筆の赤き粉 訃のメモの文字の不揃ひ鳥雲に 春おぼろ深き廂の勅使門 てんぷらの種物にしてふきのたう 三鬼忌や筆ペンの腰頼り無き 目薬を片目づつ点し花の冷え 雨けぶる緑の中の節分草 千 恵 子 幸薄き友の訃報や鳥帰る 羽根たたむ天使の姿白木蓮 紅筆の落ちてる道や春おぼろ 首に刷く水白粉や春座敷 薬包紙母の手先で蝶遊ぶ 白壁に柳緑の巴波川 菜の花やほのぼの物言ふ人と居る |
京 子 取り廻す粉引の鉢の桜餅 筆筒に桃の浮き彫り春季展 筍を盛りて伊万里の使ひ初め 花見客物見やぐらを取り巻きて 蔵の町屋根に緑青木の芽立つ 春浅し婚約の娘の薬指 金縷梅や師の訃を聞きし季めぐる 白 美 物置に糸くづ運ぶ孕み鳥 三鬼の忌干したる木皮目の薬 花冷や知らず目で追ふ訃報記事 春浅し九分ほど入れる緑茶かな 春深し手伸べパイ皮強力粉 例幣使街道今日も暮れ遅し 仲春や父によく似る筆遣ひ 希 覯 子 蔵の町緑十字の春灯 巴波川物の芽多き狭庭かな あぢさゐの芽ぐみ大筆小筆かな 受験子に訃報のごとき電話来る 粉薬いささかこぼす春の風邪 春一番使ひ古りたる天眼鏡 薬局の女主人や猫柳 |
ま り も 山越えて光あたたか薬売 土筆の子片目つむりて顔を出す 漁夫の利の怪物現る春の海 夏近し忘れたき訃報忘れられず 緑の羽根コインの代はりに桜貝 我忘れ散らす小麦粉春深し 冴返る使ひ古しの実験台 |
法 弘 やはらかく踵しづみぬ若草野 父が娘へ言葉素直に犬ふぐり 白椿思水に橋のありどころ 廃村の廃寺の墓石囀れり 妻と来て土筆摘み尽したりし罪 京 子 鳴き終へて風に身を乗せ揚雲雀 刻々に点となりゆく揚雲雀 点々と野辺に土竜の散歩跡 墓守りは桜の一樹廃れ村 鳥曇り空を分け合ふ熱気球 利 孟 春霞音追ひ現るるラジコン機 春霞抜け色戻る熱気球 摘み草の午餐に拡ぐ布の椅子 鉱毒の池散兵の鴨の陣 囀りにもがきを重ね揚げ雲雀 晶 枯葦原入りて忽ち神隠し 葦原の光かへさずにはたづみ 浅春や凋落といふ風の葦 長堤の日を渾身のつくしんぼ さへづりへ一つ近づく熱気球 |
杜 子 青き踏む広さ深さのはかられず 土筆挾み句帳に緑にじみけり 野の蒜や旧谷中村役場跡 草萌える遺跡保存の基金箱 春浅し芦原ささやくごときかな 登 美 子 休み田に人の出入りや芹生うる 遊水のはぐくむ区画ほとけの座 遊水池萌える堤が囲んでる うす曇る地に屈みこみ土筆摘む 句帳より植物図鑑春の土手 千 恵 子 捨てられし共同墓地や鳥交る ここにもと足で教へてつくしんぼ 緑踏む谷中公害原点地 上空に気球いくつも末黒野 芦原に入って童心揚雲雀 白 美 揚げ雲雀賽銭箱はブリキ缶 捨てられし僧都の墓に鳥曇り 山桑に背中もたれて揚雲雀 白杭は村役場跡春浅し 春光やせはしなく押す空気入れ |
希 覯 子 鉱毒は昔語りや草萌ゆる 宿あるじ杉風が末裔猫柳 一本の土筆に六の瞳かな 廃村の役場跡なり裸木林 春の土起して土竜何処へやら 郁 子 春寒や空に動かぬ気球かな ほとけのざ咲くひとところ風光る 藪椿咲いて囀りの声あらた 良 子 枯葦の穂の向く先は利根川か 葦焼に耐えてしたたか原中の木 春がすみ熱気球の色淡し 緑なす堰堤間近か葦の原 葦焼きを知ってか知らずかひばり舞ふ |