第77回原宿句会
平成8年1月17日

   
  平成8年新年句会
兼題 百人一首本歌どり


            東 人
鎮魂の朝に霜おく神戸かな
久方の雲居にいどみ武将凧
弱りもぞして餅減らす三日かな
白雪の夜や呑みあます吟醸酒
そののちの除目は知れず実朝忌

            白 美
初便り雲居に浮かぶ友の顔
祖は八幡海人の小舟に初茜
初晴や淡色好む内親王
初東風を渡せる橋に島田髷
山の尾にスキーの佇ちて朝ぼらけ

           法 弘
後朝や雪は吉野に舞ふころか
捨小舟水漬く渚や実朝忌
白波のちぎれちぎれに冬鴎
長らへてけふ風に散る枯れ芙蓉
渡り廊をねずみす走る霜夜かな

            京 子
沖へゆく小舟巻き取る冬の霧
降りやまぬ雪を肴に大吟醸
雲居漏る薄き陽の色雪時雨
人の居ぬ浜白々と寒の月
雪橇の鈴渡り来る「忍ぶ川」

            希 覯 子
鵲や注連貰ひする肥後童
寒灸や弱りもぞする盆の窪
患者診て常にもがもな医務始め
妹を姉とまがひぬ小正月
大寒や有明の月摩天楼

            千 恵 子
沖を指す一丁櫓の舟に冬日照雨
欄干の影しめらせて霜の橋
西行に捨てし恋あり雪女郎
鎌倉は谷戸多き町藪椿
玉石を踏む初草履紅鼻緒

            義 紀
世の中に義理立て始め事始め
外房の沖つ白波冬の虹
朝刊を配りし跡か霜白し
ビル街に降れる白雪疾く汚れ


            美 子
母の声常にもがもな大旦
血縁の絶えなば絶えね三ヶ日
初日射し沖つ白波渡り来る
有明の月を見てより受験生
鵲の渡せる橋や初参賀

            萩 宏
渚こぎ初日を拝む木場の海
朝ぼらけ道着冷たき初稽古
白波にボード漕ぎ出す冬の海
新年の客が辞さずに夜ぞ更けり
賀状絶えなば抹消の住所録

            伸 作
生くるとは忍ぶることぞ日記買ふ
窓におく霜に文字書き朝ぼらけ
襟巻きの雲居にまがふ成人式
松かざり降れる白雪払ひのけ
渚漕ぐ釣り舟ぽつり寒風に
立ち小便弱りもぞする冬夕焼

            利 孟
降りつみし雪の鳴り出す夜更けかな
球を追ひ駆け出す犬や若菜摘む
紀州より安房の由良へと春の濤
靴底の黄色のラベル春の野へ

            健 次
竹弾け降れる火の粉やどんと焼き
渚より焚火へ駆ける寒泳ぎ
初神楽大人にまがふ子供舞ひ
初鏡白きを見れば気が急かれ
火も弱り笹竹差し出すどんと焼き

            翁 莞
鎮魂へ忍ぶることの初御空
友来る夜の更けにける年酒かな
ふるさとに降れる白雪母恋し
世の中は辞任破壊の去年今年
大雪に弱りもぞする靴選び