第78回原宿句会
平成8年2月13日

   
    兼題 余寒 若布刈 椿
    席題 目刺し


            東 人
撓らせて肩で鎌引く若布刈舟
椅子固き珈琲店の余寒かな
椿落つ座敷牢めく皇女の墓
酔ひ醒めの看板間近目刺焼く
杼を飛ばす紬の織り子節の忌

            法 弘
余寒なほひきしぼりては鳴る時計
目刺し焼くセリフやさしき小津映画
赤椿膳所の城門錆びて古る
かくれ住むやうに開く窓牡丹雪
沖へ飛ぶ篝の火の粉和布刈舟

            利 孟
若布刈女の靴の荒縄鎌で解く
冴返る刃を添へて剥ぐ魚の皮
崖を打つ土佐の寄せ波紅椿
濡れた手で拭ふ飛沫や若布刈人


            伸 作
駅長の夜汽車見送る余寒かな
大橋を水面に映し若布刈舟
口淋し目刺しあぶりて猫と分け
ひざあはせ答案用紙待つ余寒
日だまりにこぼれる花弁紅椿

            白 美
漆黒の大地の吐きし紅椿
椿満つ地積は猫の額ほど
一節の短き指の和布刈かな
妻妾が荷を持ちあひて余寒かな

            美 子
じふじふと目刺しの皮の噴き上がる
春の沼横目に家を買ひ捲ね
余寒かな乗り換へ駅で飲むココア
担がれし椿の束や競りの声
船舷に妻の休らふ若布刈舟

            希 覯 子
和布刈舟嫁姑は師弟仲
傘立にステッキを差す余寒かな
埋め戻す発掘古墳椿落つ
ほほざしの五連の目刺し粒揃ひ
子と丑の祈願の絵馬や梅の宮

            武 甲
終バスを待つ人の背に余寒かな
若布刈る海女の破顔の浮上せり
白椿にはか庭師の「はるみ節」

            千 恵 子
宇宙へのロケット点火椿落つ
竹串を抜かれ目刺の目の昏さ
舷の傾ぐにまかせ若布刈舟
散薬をこぼして母に余寒かな
野葡萄の蔓ふくらみて冬陽かな

            京 子
若布刈箱の眼鏡の浮き沈み
筆走る音かつかつと初句会
竹林に高々と咲く藪椿
春寒し河原の石も白々と
底冷えに耐へて出を待つ鬼やらひ

            義 紀
四代の女系家族や椿咲く
特急の影移り過ぎ若布刈舟
西日射す軒に干されし若布かな
幼児の赤き手袋余寒なほ

            萩 宏
皮の青海の青汲む目刺しかな
四駆車の轍幅取る雪山道
水半球縁の縁にて若布刈舟
俯いて動かぬ視線に落椿
違へたり薄き肌着の余寒かな

            正
玄海や波に諍ふ若布刈舟
吟醸酒何は無くとも目刺しかな
母死して庵の余寒厳しけり
早春や南アルプス無人駅
紅椿巴里より友の便りあり

            健 次
椿落つ庭によちよち歩きの児
冴え返るMジョンソンのシュートかな
逃げる子と追ふ親ありて余寒かな
頭より目刺食む親あきれる子


            翁 莞
着流しの足に余寒の纏ひけり
海女の勘波間の技の若布刈かな
漁火を数へしあとの懐手
参道に明るさ添へて落ち椿