兼題 山椒魚 蚕豆 麦秋 席題 老鴬 |
東 人 蚕豆を茹でて長子の客迎ふ 聖者とも木偶の坊とも山椒魚 鳥の輪の央に尖塔麦の秋 梅雨寒やビルのしかかる佃島 老鴬や金文字剥げる大言海 美 子 そらまめの荷解けば湿りたる便り 峰よりの風をたらふく麦の秋 山椒魚やミネラル水を買ふ世代 制帽を脱ぎ捨て越ゆる花の関 間引かれて地に敷く桃の花の艶 利 孟 麦の秋斜め十字の騎士の旗 はんざきや飯盒の飯音で焚く 蚕豆の莢割る指のインク染み 牧の果てより老鴬の長啼きす ひと叩きして活を入れ山椒の芽 法 弘 母の日の母より妻へ電話かな 水路に舟唄ながれ麦の秋 親指の爪の三日月蚕豆剥ぐ 向きかへてより山椒魚の五十年 麦秋や風のゆくての海の紺 |
白 美 老鴬や半日一本バスの便 背を反らす女のトルソー麦の秋 そら豆の蔓巻きてみる空のいろ 万緑や印鑑入れの小さき朱 風ゆるく棚田をめぐり山椒魚 希 覯 子 麦秋や無人の島へ通ひ農 老鴬や里程で示す道しるべ そのかみのはんざきの渓徒渡る ワーテルローの丘に立ちたり麦の秋 蚕豆の莢にインクの染みこぼす 千 恵 子 山椒魚太古の眠り覚めぬ顔 老鴬の高音遺跡の空を撃つ 昏れ色を吸ひ込み藤の重さかな 一輪車スイスイスイと麦の秋 莢を出てそら豆翠の目覚めかな 萩 宏 片耳を失ふ狂気麦の秋 蚕豆や実のなき莢を二度までも 水清く山椒魚の仏頂面 いにしへの武士人も踊れる麦の秋 残鴬の声に忘れし女浮かぶ |
義 紀 眼を閉ぢて山椒魚の思案かな 麦秋や常陸野をゆくローカル線 入梅や玄関脇の三輪車 空豆を剥けばグラブの臭ひして 京 子 蚕豆の緑で計る塩加減 山椒魚ぬんめり背の斑光らせて ゴッホ見し庭に鴬老を鳴く ツンツンと空を指差す麦の秋 麦藁の支柱整へ豆植うる 正 蚕豆の一粒嬉し機内食 はんざきや水の恋しき頃となり 老鴬のひとしきり啼き昼爛ける シャルトルの尖塔二つ麦の秋 アカシヤの大連今や摩天楼 健 一 山椒魚の左右睨みの石の下 沢蟹のつぎつぎ転げ岩の影 麦秋の畝延々と村つなぐ 酔ひ覚めに残り蚕豆つまみ食ひ |