第83回原宿句会
平成8年7月3日

   
兼題 金龜子 巴里祭 川床
席題 蓮


            東 人
こと切れてより黄金濃き金龜子
短夜や病む子の爪の伸び易き
空よりも手元が暗し川床料理
散華するまで日の晴れぬ蓮かな
三色の光に溺れ巴里祭

            利 孟
巴里祭や肩を露はに大鞄
かなぶんの埃おこして灯に止まる
釘先の飛び出すままに川床組まる
梅雨湿り桶にふはりと糸紡ぐ
梅雨晴間バスを自在に笛の音

            法 弘
蓮開く大極拳の指の反り
船旅のデッキに婦人巴里祭
廣重の大磯の宿虎が雨
淡彩の濡れ色涼し川床料理
総理府の賞勲局の金龜子

            千 恵 子
指先のときに触れ合ひ涼み川床
かなぶんで遊ぶ子もゐて夜の塾
木道の根太のゆるみや遠郭公
窓過ぎる口笛細くパリー祭
風の来ていつせい裏葉となる蓮田

            白 美
川床や崩せし足に風の寄る
巴里祭や寡黙な妻の口答へ
過ぎし刻皺で計りて夏の服
独逸語の辞書の厚さや金龜子
朝の池人声なくて蓮の花

            希 覯 子
羅や猫背を隠す術失せて
蓮見舟携帯電話届く距離
かなぶんを闇に放ちて通夜の客
銀座裏にルイビトンの店パリー祭
提灯に銘酒の名入り川床料理

            美 子
切々と春蝉の声滝の口
同じ香のシャンプーばかり巴里祭
やみくもに耳掠めくる金龜子
俤に匂ひに川床のうへに酔ふ
香聞きて肩先に吐く梅雨晴間

            義 紀
ユーラシア大陸の果て蓮開く
川床や三十六峰機嫌良し
パラソルに隠れし佳人東慶寺
憚らず接吻交はし巴里祭
富むもゐて貧しきもゐて黄金虫

            健 一
口笛の夜空に交差巴里祭
掌に取ればやをら飛び立つ金龜子
白髪僧川床に座禅の夏行かな
香の淡き黒百合木々に埋れをり

            萩 宏
かなぶんのちぎれし脚の軽さかな
床涼み緊張解けし蹠かな
子等遊ぶ断頭台や巴里祭
女が去り闇にたたずむ蓮の花
川床を眺む郵便配達人

            梅 艸
金龜子目の隅で追ひ長電話
金龜子フリーフォールの二次曲線
刃のまろきペーパーナイフ巴里祭
繁閑も和も洋もあり川床涼み

            正
酔ひ醒めの水の旨さや金龜子
カンバスにをさまり切らず蓮の花
せせらぎの一品添へて川床料理
招かざる客の名も告げ巴里祭
緑蔭に沈思黙考ロダン像