第23回 平成10年4月24日
アーバンしもつけ


森利孟
生け垣の躑躅の朱色にじみ初む
名を呼ばれ応へぬ子供入学す
上水は立入禁止蕨摘む
寄居虫の砂を手探り足さぐり

会田比呂
分校に入学児無く日暮けり
マネキンの胴で真二つ夏に入る
瀧音のしきりに散らす濃山吹
ちぐはぐの鋏争ふがうなかな

田仲晶
やどかりの一つごろんと朝渚
伏せ椀のごとき城跡穂麦畑
復元の城を真芯に木の芽風
飛花落花風土記の丘を越えにけり

岩本充弘
深閑と言ふ空間に芽の仕度
本島へ艀舟にて入学す
落武者の裔てふ女将木の芽宿
身を寄せて寄居虫小さき貝に入る

茅島正男
寄居虫や似た者同志我が社宅
木の芽摘み上へ下へと目を配り
制服のやや大きめに入学児
キジ鳩の古巣を隠す若葉かな

川村清二
孫家族並びて過疎の新入生
片栗が含羞むやうに俯いて
三分咲き出端を挫く菜種梅雨
食卓に小さき賑はひふきのたう

佐藤美恵子
寄居虫や越すたび増ゆる荷物かな
入学や父の手垢の英語辞書
穀雨かな古木の緑匂ひたつ
口ゆがめては伊予柑の皮を剥く

田中鴻
寄居虫の雄雌殻をはさみ合ひ
枯植木寄居虫上らせ露店商
制服に正札残して入学児
制帽のあみだにあまり新入生

永松邦文
正門でポチに別れて入園す
駄菓子屋のガラス戸のぞき入学す
縁日の寄居虫売りや大あくび
推敲の筆の進まず遠蛙

仁平貢一
母のゐるあたりを探り入学児
戦ひて殻を抜け出す寄居虫かな
海女小屋に孫のみやげの寄居虫かな
東北路埴輪のロマン花の宿

福田一構
木の芽雨風道づれにいろは坂
職をひく妻の化粧や花の朝
父母と雨ともなひて入学す
春ひとり鏡のまへの素振りかな

堀江良人
山櫻散りて彩どる水田かな
駆け回る児を目で追ひて寄居虫売り
入学の案内図貼られ歩道橋
霞敷く茜うすれて入り日浮く

三澤郁子
寄居虫や少し歩みてかくれ顔
Vサインで写真撮り合ふ新入生
門燈を早めに点し花の雨
風の音伝へるごとく沙羅芽吹く