第90回 平成15年12月14日
寒夕焼け埴輪に赤き耳飾り
煮凝りや青磁の皿の色深かむ
幸一
洗顔の指先固き冬の朝
木枯らしの甲斐駒岳の雲払ふ
里の灯の瞬きの増え冬近し
カラビナの音登り行く三つ峠
美代子
煮凝や母の襷の横結び
小爪ほどの富士の確かに寒夕焼
仕上げ砥に滑る刃音や足冷ゆる
蟷螂の卵に風の紋刻む
建具師の掃ふねんねこ日の暮るる
煮凝りのたちまち吸はる熱き飯
星粒のごときジェット機寒夕焼け
ともこ
牛の鳴く那須野ヶ原の寒夕焼
寒夕焼ビルの間に立つ白き富士
深眠りしたる史跡や朴落葉
ベランダの陽を遮りて大根干す
憲巳
畦をゆく農夫は見ずや冬桜
煮凝りの食道伝ひ胃の腑へと
煮凝りにあつきご飯の祖母の膳
利根川照らす寒夕焼けの中の富士
郁子
興亡を重ねし土塁藪柑子
郡役所後の記念碑紅葉散る
辻の奥古りたる医院蜜柑黄に
陰陽師渡り行く橋冬の靄
入れし刃を拒む手応へ冬林檎
師走かな歩く歩道をなほ歩き
利孟
寒夕焼江戸の古地図のままの町
煮凝りや代はるがはるにとる昼餉
蛇穴に首魁の厚く白き鬚
凩や爪立てて剥く飴の皮
目ばかりとなり角巻の歩み出す