第107回 平成17年7月31日

   耕
★香水の一滴をもて身を鎧ふ
★仏桑花地図の台湾赤きまま
 くれなゐを夕日に譲り仏桑花
 二階へと上がる足音夜の秋
 この町の風に乾かす洗ひ髪
 役者絵の眼きりりと夏座敷
 髪洗ふ鏡の吾に頭垂れ

   一構
★暑気払ふ昔大工の指の胼胝
 諍ひてあとは寂しき夜の秋
 夜の秋時計の鳴るを数へゐて
 島唄と煙草の酒場仏桑花
 静かさや黄菅湿原朝の雨
 校庭の蛇口上向き梅雨明ける

   芳子
★民宿の魚の看板仏桑花
 父に似し後姿の白絣
 鈴なりの新馬鈴薯に足踏ん張りて
 薫衣香乾び形見の畳紙解く
 手習ひは婦唱夫随や心太
 広縁に風を拾ひて午睡かな
 お囃子の音の重なる路地の奥

   ともこ
★仏桑花小瓶にひかる星の砂
 高きより垂るる火色の凌霄花
 細切れにつづく隧道合歓の花
 鎌の刃をするりと躱し蜥蜴出づ
 宿下駄をからころ鳴らし洗ひ髪
 半錠を母に割りやり夜の秋

   昭雄
 胸厚き漢手荒に髪洗ふ
 掛け算の九九繰り返し夜の秋
 萬緑や一人に広き露天風呂
 公園の蛇口直飲み裸んぼ
 香水や弓に肩脱ぐ袂より
 ハイビスカス挿し幼子の長き髪

   石田
 湯上りのうなじに捉ふ夜の秋
 仏桑花沖にうねりの一渡り
 香水やただ今熟年真盛り

   信子
 愛でとほす一香水のかをりかな
 通り雨軒の風鈴泣かせ止む
 洋服を着慣れてけふの藍浴衣
 仏桑花宿の主の島言葉
 仄灯す納骨堂や法師蝉
 ストレッチの二の手二の足夜の秋

   伊藤
 初蝉の声をふたりで確かむる
 庭下駄に染みきたりたる夜の秋
 耳たぶの香水の香に酔ひにけり

   岩崎
 寄せ返す土用の並みの高しぶき
 薄衣母の香りの畳紙
 雲の峯頂上見えぬ登山口
 佩香を帯に忍ばせ魂迎へ

   植竹
 風入るる天窓ひろし夜の秋
 シーサーの見守る空や仏桑花
 日日に増えゆく皺や梅を干す

   登美子
 夜の秋傘のゆがみしランプの灯
 香水や人それぞれにある温み
 仏桑花髪に揺らしてハワイアン
 夜の秋厨にかたき水の音
 巴里の旅香水点に買ふ石鹸

   鴻
 柔道の肘の擦り傷髪洗ふ
 香水の淡き匂ひの誘ふ夢

   清子
見せたくてまた見せに来る兜虫
塗下駄に足裏が滑る素足かな
縁側に夕日のぬくみ熟れトマト
嬌声の三人三様浴衣の娘
鉄棒の少女逆さに夏の雲
洗ひたてられし夕空冷素麺
ハイビスカス島の浦道地熱持つ

  敬子
ゆくりなく葉蓋の雫酷暑点て
緑蔭に舞ふや卆寿の武田節
足指で描く油絵仏桑花
再会のリキュールの黄や夜の秋
夏木立少年院を包みたり

  比呂
山百合の一花もて濃き風の筋
声明の廊に染み入る涼しさよ
万巻の経転読の声涼し
爪切りて手足睦みぬ夜の秋
夕涼や瞬くごとき山家の灯
猪独活や墨絵仕立ての山の雨
外つ国の正座は胡座夏座敷
毎夜死ぬ歌劇のプリマ仏桑花
まづ鶏の出て人の出て夕立あと

  美代子
丸む背を反して今朝のオーデコロン
揺らしては蜘蛛の手足を伸ばしけり
黒揚羽悠々閑々日暮れけり
戦跡の遠き島影仏桑花
灯籠や戦火の夜の音耳朶に

  良人
雨止みし朝のくちなし匂い増す
湯の宿の軒端吹く風夜の秋
掃き清むさきより散れる凌霄花
しらじらとあけ咲き競ふ仏桑花
元結を解きて明日の髪洗ふ
香水瓶青き思ひの詰まるかな

  利孟
トラックの窓に足掛け三尺寝
心経で埋めゆく半紙夜の秋
客無くて音の高まる冷房車
山鉾巡る稚児の刀に四本の手
朝秋の唸り相打つ角力部屋