第119回 平成18年年9月17日
   比呂
★ 仏飯の湯気の一すぢ涼新た
★ 露草の露の一片しじみ蝶
◎ 秋ともし舐めて尖らす筆の先
・ 穂絮とぶ機械が搾る牛の乳
・ 下り簗魚もろともの大飛沫

   良人
◎ 小ぶりなるものほど跳ねて秋の簗
◎ 凪の間の風紋流る秋の浜
  甘き香に出くわすところ下り簗
  高々と夜長に光る高嶺星

   昭雄
◎ 那須五峰の影なだれ込む下り簗
・ 大鮎に拳固めて塩を打つ
・ 字余りの指折つてゐる夜長かな
・ 下り簗手桶にあふる野辺の花
  夜長の灯影絵の遊ぶ二階かな
   美代子
◎ 川面射す日矢絞り込む秋の簗
・ ひねもすを巡りし旅の夜長し
・ 鳥帰る空よりおろす庭梯子
・ 千草の実こぼす翅風や群雀

   信子
◎ 隣家へと訃報回覧ちちろ虫
・ 描き了へ長夜の絵筆納めけり
・ 勢み来る水音緩め秋の簗
  暮れ暮れの日差しに火照る吾亦紅
  昨日とはうつて変りし爽気かな

   聖子
・ 裸電球揺れて煌く下り鮎
・ 隣り田と垂れを競ひて早稲田かな
・ 大鍋に煮物ことこと夜長かな
・ 鈴虫や手習ひの字の父に似て
・ 雨上がり獲物数多や下り簗
   一構
・ 逆光に透ける葉脈秋に入る
・ 手垢染む逆柱や秋暑し
・ 落人の宿の夜長の民話かな
・ 清流に鮎の魚篭漬け川日和
  喉に痣突き応酬の夏稽古

   岩崎
・ 枝折戸を抜け来る風のこぼれ萩
・ 長き夜や鍵盤探り弾きてジャズ
・ 開け放つ窓に無月の仄明かし
・ 手掴みの鱗躍れる下り簗
  朝霧や睫毛濡らして牧の牛

  
・ 山小屋の板打つ窓や鹿の声
・ 川瀬波列を成したる下り鮎
・ 籠にしく杉の葉青く茸狩
・ 黄金色の稲田に鷺の乱れ来て
  長き夜を読書に耽る受験生
   清子
・ 稲の穂をしごきて農業指導員
・ 辞書二冊開き重ねし夜長かな
・ 掘りたての芋と子犬と帰り来る
・ 秋暑し軍鶏の眼の衰へず
  山陰に渦激ち寄る下り簗

   芳子
・ 青みたる光こぼるる鰯網
・ 打ち水を足して帰宅の夫待ちぬ
・ 踏む張りて腰に重たき鰯引く
・ 留守電話の青き明滅夜長かな
  一行で足る旅便り秋立てり

   伊藤
・ 山の名を問ふ指先にあきつ来る
・ わらべ歌校舎に響く月見月
・ 秋気満つ赤き頭巾の道祖神
  秋愁や古き手紙を読み返す
  那須岳へ風追ひかけて夕芒
   植竹
・ 泥水を叩きてみたるぎんやんま
・ 取り忘れ葉陰に育ちすぎの茄子
・ 長電話ひそひそ雨の夜長かな
  下り簗しぶきばかりの撥ね上がる

   敬子
・ 下り簗碧眼の子の鮎掴む
・ 板の間に設ふ床の壺の萩
・ それぞれの夢見る双子夜長かな
  孫が弾くワルツの曲や敬老日

   ともこ
・ 流木の芯まで乾き秋高し
・ 長き夜のタイマー点す炊飯器
・ 近道の踏み固められ草の花
  緩やかに川横たはり稲の秋
  擁壁の亀甲ブロック萩の風
   登美子
・ 鈴虫を鳴かせ銀座の茶懐石
・ 下り簗流れの迅き信濃川
  信濃川村ごとにある下り簗
  霧流れあらはになりし山の形
 



   利孟
  爽やかや看板「質」の一字にて
  暮の秋濡れせんべいの噛み切れず
  さはやかに黒の茶碗の抓み痕
  がうがうの音が魚産む下り簗
  水割りの氷のぬるむ夜長かな