第145回 平成20年11月24日
   比呂
  日暮れても燻る煙麦蒔けり
  窯出しの壷の鳴る音今朝の冬
  山粧ふいういう雲を遊ばせて
  高ゆける風初鵙の声流し
  蔦紅葉洞に鳥居の御神木

   敬子
  MRIの投影冬立つ日
★ 日めくりの今日は友引石蕗の花

   信子
  焼き立てのパンの歯応へ冬はじめ
★ 筆立てに筆の圧し合ひ冬はじめ

   永子
  手びねりの小鉢に盛りし新豆腐
  乗り換えの駅の小走り今朝の冬
  頬かぶり解いてはかぶり舟を待つ
  冬田打つ荒き波音聞きながら
   幸子
  湯湯婆を抱へて母の夢見時
  初時雨軒端の鳥の声掠れ
  サイレンに冬耕の音動き出す

   登美子
◎ 冬耕や日の匂ひする風溜まる
◎ 竹とんぼ小春日和の空に飛ぶ
  人影の見えず冬耕しずかなり

   ミヨ
  雪吊や声で引き上ぐ縄の束
  鶲来て羽打ちせはしく日暮れかな
  冬立り薬研の音のからぶかな

   芳子
  みはるかす古都片隅の烏瓜
◎ 繰り戸引く音の重たく冬立てり
  山頂に雲の切れ端余零子飯

  
  立冬や落葉踏みして並木道
◎ 色失せて山のとろとろ眠りだす
   喜市
  大銀杏散り一隅を黄で照らす
  身動ぎもせぬ鷺のゐて苅田かな
  かわせみの紛るる池の空の色

   昭雄
  柚子の香の嬰の四肢受く破顔かな
  立冬やまるまりたがる鮑屑
  冬耕や腰のラジオにジャズ鳴らし
  冬耕の一鍬づつの大地の香

   ともこ
  空樽の奈落の底の枯蟷螂
  木の肌を擦りて仕上ぐる松手入れ
  雨の寺さくら落葉の香の立てり
  冬に入る明かりの黄ばむ常夜灯

   良人
  束の間の雨の行き過ぎ冬立てり
  尾根越しにあらはる白根山冬立てり
◎ 枝払ひ終へし街路に冬立てり
  冬耕の棚田を染める入日かな

   利孟
  蕎麦を掻く親の仇は無けれども
  柚子熟るる駅に錆びつく予備レール
  冬に入る駅弁の飯冷めたくて
  崩さるる堆肥の湯気や冬耕す
  所場札の屋号と区画酉の市