第168回 平成22年12月5日


   利孟
 霜柱車掌から買ふ乗車券
 玄関に常備の認印年の暮
 凩や湯の華小屋は屋根ばかり
 桜鍋隣の壁のふさぐ窓
 洞に銭納まる銀杏黄落す

   郁子
☆風の音木の音残し山眠る
○霜柱光返してくづれけり
○遠山の昏れてむらさき冬来たる
△足湯して話のはずむ年の暮
△男体山の風を待ち受け掛大根

   恵子
☆霜柱列を乱さず兵馬俑
△丈比べ伸びて土割る霜柱
△聖夜待つ納戸に隠す布袋
 往への強者でさう虎落笛
 聖観音拭ふ手赤し霜柱

   信子
○歳晩の大路を縫ひて救急車
△一服の後きびきびと松手入
△はや暦一枚となる寒さかな
△霜の朝庭師鋏の音高く
△霜柱踏み来て市に選る野菜

   敬子
○屋上に鳩の居並ぶ冬日和
△霜柱矢場にひびける的の音
 冬紅葉交換日記懐しく
 山峡の橋桁晒す年の暮
 外燈をすべり廻りて落葉かな

   美代
○剥ぎ板に供物凍てつく朝かな
△柑皮干す縁の余り日年の暮
 隠沼の何かにさはぎ暮の鴨
 霜柱水音にほろぶ岬端
 兎罠掛けて大樹に打つ鉈目

   聖子
○霜柱子馬撫でては足す寝藁
△商店街の錆びしシャッター年の暮
 霜柱机の隅の書き損じ
 畦道を転ばぬやうに霜柱
 霜の夜に読み継ぎ平家物語

   良人
○飛び石を平らに沈め霜柱
 霜柱踏む音ほかに風の音
 霜柱眼に迫り来る男体嶺
 霜柱柔な土ほど高く上げ
 野良猫の子猫居着くや年の暮

   比呂
△新聞に包(くる)む棒パン毛糸帽
△冬の浜傾く松の防風林
△絵屏風の虎の咆哮冬の雷
△商売気無くて古書店年の暮
 霜柱沼舟泥を積み傾ぐ

   昭雄
△霜柱鉄路の軋み始発ベル
△こぼれたる画鋲を探し年の暮
△ポスターの巻き癖直し年の暮
△雪婆越後杜氏の櫂合はせ
 早立ちの歩幅に軋む霜柱

   尾下
△思ひ切り捨てたきものや年の暮
△霜柱さくさくとつけ下駄の跡
△突然に光の一つ冬の雷
 触れし指のあつさに崩る霜柱
 邪な心捨てたき年の暮

   登美子
△小春かな地蔵の涎掛け替へて
△霜柱うす暗がりに育ちけり
 冬木の芽鳥の重みにゆれもなき
 山茶花の初花ほのと温みをり
 年暮るる目覚まし時計常の位置

   一構
△数へ日や炎の伸びる登り窯
 さりげなく光る朝や霜柱
 信玄の国の歳晩うどん食む
 苔庭の苔をもたげて霜柱
 木の葉雨涙のごとく散り急ぐ

   深雪
△霜柱やさしく溶かす日差しかな
 霜の道踏み鳴らしては鳴らしては
 大掃除猫の逃げ出す年の暮
 熱燗の温もり染みる店の壁
 初雪の夜の青凛々と青き空

   健
△さくさくと足音の立つ霜柱
 真似したい凛々しい姿霜柱
 いつもより指折り数へ年の暮
 年の暮れ白髪増えしまた悩む
 走馬灯年の暮れには回顧する