第176回平成23年08月21日
兼題:吾亦紅 新藁


   利孟
 城山へ抜ける馬の背吾亦紅
 ときに面拭ひて雨の中の蟇
 法師蝉寺の朱塗りの斎の膳
 新藁を積み荷造りの瀬戸物屋
 お山の大将ジャングルジム灼ける

   昭雄
☆縄文の土器に焔の跡吾亦紅
◎新藁を納め安堵の露天風呂
○新藁の香に埋もれかくれんぼ
○吾亦紅馬居ぬ馬場の飼葉桶
 千年の杉新藁の注連飾る

   ともこ
◎乳牛の強き後足今年藁
○草叢に息づくひかり秋蛍
○鎹の軋む木道吾亦紅
○弁当を膝に広げて吾亦紅
 今年藁犬を相手に火を守る

   信子
◎遠く日の落ちゆく広野吾亦紅
○櫓組む汗光らせて男たち
○夜の蝉や繰り返し読む友の文
○浮く脚の一つを正し茄子の馬
 降る雨のゲリラなす夜の大暑かな

   一構
◎流鏑馬の割れ散る的や吾亦紅
○球場のブラスの響き秋に入る
○義足つけ登る岩壁夏の雲
 原発の是非喧し秋に入る
 木道の傍にとびとび吾亦紅

   聖子
◎新藁の青き匂ひの藁布団
○新藁を食ぶ一頭残る牛
○庭荒れし母の生家や吾亦紅
 残暑てふ二文字重し夜勤明け
 風評や軒の雨音吾亦紅

   良人
◎吾亦紅裾野の風は纏綿と
○山雲の色を受け入れ吾亦紅
 吾亦紅風運び来る渓の声
 新藁を丸め投げ合ふ兄妹
 新藁を納屋に積み上げ遠野郷

   郁子
○新藁の匂ふや納屋の太き梁
○男体山を指す方位盤秋の風
○青空を引き寄せてゐる吾亦紅
○川幅を流るにまかせ秋の水
 芒野や流れる雲と入日かな

   於した
○新藁の匂も縒りて縄を編む
○大花展皆が花材の吾亦紅
○蓮華田に佇ちて独りの浄土かな
○旅先で求む遊印吾亦香
 七竈色づく前の重さかな

   恵子
○吾亦紅歪み茶碗で自服して
○蜩にせかされて掘る化石かな
○菜を刻む音に負けじと草雲雀
○釣針の餌を狙ひてやんまかな
 左撚り掛けて供へし今年藁

   敬子
○女伊達天狗御輿に気勢あぐ
○新藁の的弓鳴りの度香る
○吾亦紅民謡という労働歌
 原爆忌昭和に生きて人去りて
 遠き日の母の戒め葛の花

   登美子
○糸蜻蛉舞ふより休むこと多し
○パリへ発つ朝餉の卓の茄子の紺
○新藁に腰掛けうわさ話かな
 吾亦紅夕陽の色に淵染めて
 夫を撮る後ろにやさし吾亦紅

   健
○野仏に手向ける束の吾亦紅
○ものげなき花とはいえど吾亦紅
 新藁や汚染で泣かす放射能
 見逃すな裏に山あり吾亦紅
 新藁や人も新し物事は

   鴻
○花びらを持たない花や吾亦紅
 懐メロの深夜放送秋の風
 新藁や放射能にも気を配り
 秋立つや原発ニュース去りやまず
 鬼ヤンマガラスの空に行き当たる

   美代
 足半の湿りてほぐれ夏祓ひ
 釘念仏漏れ来る寺やわれもかう
 葺き終えて軒に層なす今年藁
 蜥蜴飼ふ拙き九九の声高に
 取つて置きのワイン酢となり油照り