第177回  平成23年09月19日
兼題:新米 赤とんぼ


  利孟
 ボタ山といふ山々や花桔梗
 新蕎麦粉打粉といふは練らぬ粉
 地図に無き径が抜け道酔芙蓉
 お荷物といはれ賜はり今年米
 次の風来る間を遊び赤とんぼ

  於した
☆もり上がる歩道の亀裂秋あかね
 新米と聞いて惑ひぬ今年米
 伸るだけのび水引の手招きす
 天灯に込める祈りや花芒
 落ち茱萸の音に誘はれ天仰ぐ

  比呂
◎田の神に上げ新米の塩むすび
○九月尽風素通りのポプラの樹
○名月に触れて掬ひぬ神の水
○かまはれぬ児の嘘泣きや赤とんぼ
 お羽黒の沈思黙考石の上

  恵子
◎黄金の夕陽に透けて赤蜻蛉
◎また明日と振りし手を追ふ赤蜻蛉
○新米を供へて皺の手を合はす
 新米を供えて拝む朝餉前
 夕映えの里に集まり赤とんぼ

  良人
◎新米を供へ祠に雀来る
○新米に豆腐の汁と焼海苔と
○単線のレールに降りて赤とんぼ
 満目の水杙にある赤とんぼ
 赤とんぼ後れ毛揺れる肩に付く

  郁子
◎ユトリロの絵の白壁を赤蜻蛉
○風鈴の音も引越してゆきにけり
○新米を研ぐふんだんの山の水
 野は九月地に鳴くものの声澄めり
 赤とんぼ行きて戻りつ鬼怒の橋

  美代
◎ちちろ鳴く阿波の朱印の藍叺
○牛減りて開拓村の星月夜
 台風の連れ来群鳥ながれたり
 新米を横目に計る古米かな
 空つぽの地震の牧野の赤とんぼ

  昭雄
◎新米の輝き握る塩結び
 あかとんぼ谷戸に隠れて珈琲屋
 空を描く子の絵どれにも赤とんぼ
 赤とんぼ落暉に燃ゆる瞳に遭へる
 吾が方につと来て返す赤とんぼ

  ともこ
○枝はなれ風遣り過ごす赤とんぼ
○薬膳の粥に松の実今年米
○弓形に弾む草の葉秋の風
○茶屋街の虫籠格子や実むらさき
 巻き寿司の光る切り口今年米

  登美子
○限りある命の群れて赤蜻蛉
○新米の磨ぎ汁透けるまで代へて
○炊き上がる新米を待ち割る卵
 仏前に新米をもていなり寿司
 雨止んでやぶれた羽の蝉が鳴く

  聖子
○赤蜻蛉訓練犬の荒き息
○故郷に帰る家あり赤蜻蛉
 赤蜻蛉空中停止くり返す
 キャンパスに胴上げの声あかとんぼ
 新米の艶食べて発つ藁庇

  鴻
○音すれど見えぬ姿の蚊の名残
○追はれてはまたも寄り来る赤とんぼ
 ?には実らぬ定めあり悲し
 豊作となり新米の初出荷
 天候に恵まれ出荷今年米

  信子
○立ち尽くし給ふ観音今日の月
 率ゐるはどれぞ山路の群れ蜻蛉
 十五夜の百戸百ある暮しかな
 遠き日の残暑来て待つ児の授乳
 今年米遠く運ばれ売られけり

  敬子
○敬老日手を取られ笑む白寿の師
 新米の着くと異国の娘より
 菊膾夕風招く旅一夜
 コスモスのそよぎそのまま青磁壺
 里山を越えて古刹の赤とんぼ

  健
 新米やどぢを踏むのは新前か
 新米や進まぬ句境いつまでも
 赤蜻蛉至急メールでとんぼ返り
 赤とんぼどこへ行くやら指さびし
 新米や家族団らん箸進む