第229回 平成28年2月14日
兼題 三椏 鰆


 瀧凍てゝ水にねむりの刻もどる 重次







  利孟
 やうやくに乗れた自転車二月尽
 縁者皆逝きし夫の里鰆食ぶ
 三椏や水音著き紙の里
 春一番崩れ土塀の土つもる
 なまはげにつききて闇に立つ子かな

  昭雄
★三椏や石で押さへる軍鶏の籠
・三椏を蒸すや土呂部の深廂
 春の字の清く正しき鰆かな
 三椏や白煙上げて湯気あげて
 鰆買ふ百日参りの宮を辞し

  敬子
▲碁会所の窓辺三椏花明り
▲三椏を花簪に青春期
・鰆釣る名人漁夫の三代目
 とちおとめてふ名の苺道の駅
 波しぶき漁師の胸に鰆はね

  信子
▲東西に島見ゆ灘の鰆船
・ひと振りの塩を塩梅鰆焼く
・出帆の水尾曳き朝の鰆船
・好晴の影の旋律冬木立
 三椏の花母の忌の夕明り

  比呂
・早春や小津の映画に原節子
・大寒やシルバー大学蕎麦クラブ
・雪匂ふ卒都婆小町の半跏像
・鰆焼く出世無縁の老教師
・三椏や魯迅の小さき薬草園

  聖子
・三椏や山あげまつりの神宿り
・自家製の味噌をたつぷり鰆漬け
・漕ぎもせで下る自転車空つ風
・三椏や殺生石の風に揺れ
 旬告げる鰆のパック届きけり

  良人
・三椏の花にやはらぎ通り風
・瀬戸内の潮に傾き鰆船
 三椏の花にやさしき小糠雨
 雨けぶる野に三椏の花咲けり
 三椏の花垂れ咲くも憂ひなし

  ミヨ
・煮くづれる程に味しみ冬キャベツ
・岬より帰り来婆の水仙花
 大皿の鰆取り分け安房泊
 空きがちの床屋の椅子や三椏花
 渓流の水音沈め寒晒

  健
・炭で焼きこの上なしの鰆かな
・本命に義理だと言ひてチョコレート
 散歩道小川の瀬音水ぬるむ
 三椏や幾何学模様に似たりけり
 山路来て三椏の花に迎へられ

  輝子
・大皿に盛り特売の焼き鰆
・眠たげな車窓の山の浅き春
 風ゆると焼いた鰆の味噌の焦げ
 風吹きてみつまたの花頭振り
 イニシャルでバレンタインの贈りもの

  木瓜
・渦潮に直の一文字鰆跳ぶ
 梅の花十人十色といふけれど
 三椏や大和を語る柔心地
 立春や幾たびなれど皆新た
 壺焼きや螺旋の思考蜷局巻く