第296回 令和3年9月25日
兼題 水澄む 秋海棠


  利孟  
 湖の水澄みて毬藻の揺れ太る  
 燈火親し輪ゴムで束ね文庫本  
 望の夜の唸り谺す動物園  
 雨戸繰る音の軽やか野分後  
 お百度を踏み積む小石秋海棠  

  昭雄  
☆水澄むや硯に海といふ窪み  
△帰省子の四肢を投げ出し大昼寝  
・秋日傘傾げ優しき遠会釈  
・木々の影深く沈めて水澄めり  
 水澄むや流れに空が降りてきて  

  木瓜  
△うつすらと母の引く紅秋海棠  
△赤とんぼ風に吹かれて風に向く  
・水澄むや正直者のため息の  
・朝ぼらけ鳴きては息のすがれ虫  
・長考の閉ぢては打ちて秋扇  

  比呂  
△露けしや杜氏の狭き仮眠室  
・秋海棠耳には母の子守歌  
・鉦叩き鳴き出せば耳欹てて  
・水澄むや底まで青きカルデラ湖  
・新涼や足に張り付く竹の下駄  

  ミヨ  
△秋明菊棕櫚縄ゆるぶ四つ目垣  
・燕去ぬ文字の擦れる伝言板  
・蓑つりし庵の裏の鹿おどし  
・年古りし大黒柱冷ゆるかな  
 利根の口戻る木船の水澄める  

  信子  
△水澄むや貴婦人と呼ぶしらかんば  
・人けもの物にも寿命鰯雲  
 水澄める水面ゆるがせ風の道  
 父母の商ふ記憶秋海棠  
 朝刊の涼しき折目届けらる  

  美恵子  
・登校児つぎつぎ揺らし芒の穂  
・庭隅の陽を集めをり瓔珞草  
・天高し男体山の赤き薙  
・水澄むや湖畔のカフェの写真展  
 水澄むや橋より放つ紙の蝶  

  英郷  
・秋海棠雌雄は知らず寄り添ひて  
・仔犬連れ朝の散歩や秋海棠  
・長雨のものみな洗ひ敬老日  
 水澄みてせせらぐ底の姿川  
 鳥の目となりて見下ろす秋海棠  

  良人  
・秋海棠野寺の風に面上げて  
・水澄むや野川の底に草揺れて  
 水澄むやせせらぎの音しづもりて  
 四万十の水澄む流れ四国嶺  
 那須の風秋海棠を撫でゆけり  

  雅枝
・大地震来るぞ来るぞと猫じやらし
 皺の掌に転がす胡桃夜寒かな
 水澄みて写る我が顔怖怖と
 友逝くや秋海棠の花揺れて
 マスクにも隠れぬ瞳心なり