資本主義経済の所得分配について

資本主義経済についての思考シュミレーション

         1.   アダムスミスは、「需要と供給」すなわち「IS-LM曲線」 「見えざる神の手」に導かれ、「万人が各自の利益を追い求めることによって、自 然に需要と供給が一致し、資源の効率的な配分がおこなわれ、社会全体の利益 が増進される。」と説いた。
「市場経済においては個々人は自由な行動が認めら れ、競争の原理が存在するので創意工夫や勤労意欲が促進される。それが投資、 技術革新、生産性向上などを導き、経済活動に活力をもたらすので、好ましい経 済体制である。けれども所得分配の面では必ずしもすべての人が満足できる結 果は得られない。」と現代の経済学のテキストでは語られている。
         2.  なぜ、市場主義経済は所得分配について不完全なのでしょうか? 思考シュミレーションをしてみました。
                                           
    (思考実験上の仮定)
     
仮定 @ (アダムスミスの「万人が利益を追い求めることによって」より) 

「すべての経済主体は財、サービスを購入し、購入代金以上の価格にて、すなわち利益を上乗せして販売しようとする。」

これは企業だけ ではなくて消費者(労働者)においても、言えることです。すなわち彼らは 労働力を再生産するのに必要な食料品や日常生活用品を購入します。そして 再生産した労働力を企業(マルクス風に言えば資本家)に売却して「賃金」 を得ます。そして一定期間で考えた場合、生活に必要な(労働力の再生産に 必要な)購入代金の合計よりも「労働」の売却代金である「賃金」の合計額 が大きくなければ暮らしていけない訳です。

     
仮定 A  「財やサービスを取り引きする際に
         売買価格=売却価格=購入価格           が成り立つ」

あたり前すぎますが、ある財について
       購入する人が支払う価格=売却する人が受け取る価格=売買価格
と言う方程式が成り立ちます。
                                     
    (思考シュミレーション)
     
  1. 仮定@を不等式で表現すると次のようになります。  

一定期間中の経済全体の取り引きについてすべての経済主体が
            自己が購入した価格の総計<自己が売却した価格の総計
となるように指向する。  ここで
すべての経済主体がこの不等式を実現できたと仮定すれば、経済全体の取り引きについてその総計は
購入価格総計<売却価格総計 - - - B
となる

     
  2.   Aから一定期間中の取り引きの全体については
購入価格総計=売却価格総計   ・・・・・C
が成り立つ。これはBの不等式と矛盾する。 よって前節1.の仮定は否定される。
すなわち
自己の購入価格総計<自己の売却価格総計を成り立たせることができる経済主体はすべてではない。
     
  3.   逆にCの等式を成り立たせるには、
勝ち組みの獲得した利益総額=負け組みの被った損失総額
であることが必要である。
すなわち市場経済は優勝劣敗をもたらす性質を持っている。ということになると思います。
     
  4.   以上は一定期間中において、期初と期末の取り引き規模が同じ状態(すなわち0成長経済または安定成長経済)について述べてきました。
  今度は経済成長の状態について考察してみましょう
     
  5.   各取り引きについて購入価格=売却価格 は恒等式であるが、各経済主体は財を購入してから利益を上乗せして販売するまでにはタイムラグがある。

模式化のためすべての経済主体が期初に財を購入して期末に売却するとする。

期初において発生した取引きについて需要側の購入価格の総計を「購入価格(期初総計)」であらわす。
期末において発生した取引きについて需要側の購入価格の総計を「購入価格(期末総計)」であらわす。これは供給側の売却価格の総計「売却価格(期末総計)」に等しい。

経済成長・経済発展の状況をシュミレーションしているので
         購入価格(期初総計)<購入価格(期末総計)      と言える。
言い方を変えると経済成長しているので期初の需要規模より期末の需要規模の方が大きいと言うことです。

      購入価格(期初総計)<購入価格(期末総計)=売却価格(期末総計)

すなわち経済成長の状態ではすべての経済主体が購入価格<売却価格を達成できる可能性がある。

現実の経済成長下の経済では多くの割合の経済主体が
               購入価格<売却価格
を達成できていることが推察できる。

     
     
この章のまとめ
  経済成長下においては経済全体で
購入価格総計<売却価格総計を達成できる。すなわちすべての経済主体の獲得する利益の総額がプラスになる。
   
  0成長下では経済全体で
購入価格総計=売却価格総計になる。すなわちすべての経済主体の獲得する利益の総額がプラスマイナス0になる。

 


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