景気変動についての議論も自然科学系の人間にとっては奇異に写ると思います。ジュグラー波等さまざまな周期の波と、そのおきる理由について経済学者から説明が為されています。たとえば、生産設備の減耗や陳腐化により更新のための設備投資が行われることを理由に、投資設備の更新サイクルを景気変動のサイクルとして説明した理論があります。設備投資はたしかに総需要を押し上げることによって景気を上向かせる方向に働くことは明らかです。しかし、結果として現れる現象はさまざまな方向のベクトルの総和あるいは結果です。その時点で景気を下向かせるベクトルの方が大きかったり別の要因が別の方向に働けば波にはなりません。過去の経済学者の説明では景気が「波打つ」ことを説明できていません。(自分も今のところ説明できませんが)
自然科学的には「波」が発生するには条件があります。それは下記の2点です。
- 慣性の法則が存在すること
- 平準な状態に戻ろうとする力が働くこと
文系の方のために説明します。 簡単に説明するために「波」とは言えませんが、振り子で説明します。
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まず重りが垂直に垂れ下がっている状態が平準な状態です。この時の重りの位置を「基準点」と呼ぶことにします。 |
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次にこれを右側に持ってきて離します。すると重りは重力により平準な状態に戻ろうとします。基準点に向かって動き出します。その方向へ力が働き続けるため、平準な状態までは加速されて、基準点の位置を通過する時点が最速です。 |
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慣性の法則が働くため平準な状態を通り過ぎても重りは左方向へ動きつづけます。平準な状態よりも左側では、重力により右側すなわち平準な状態に戻ろうとする力が働きます。この力が働きつづけるので、重りは次第に減速され、最後には止まってしまい、次の瞬間には再び右側に向かって(平準な状態に向かって)動き出すのです。 |
以上が振り子が波のような反復運動を行うメカニズムです。
この説明で「波」が自然発生的におきるには上記の二つの要素(慣性の法則と平準な状態に戻ろうとする力)が必要なことがおわかり頂けたかと思います。
さて、経済や景気にはこの二つの要素は存在するのでしょうか? 考察してみましょう。
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慣性の法則について |
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「静止している物体は静止しつづけ、動いている物体は同じ速度、同じ方向で
動きつづけようとする。」というのが物理学上の「慣性の法則」ですが、もち ろん「経済」は物体ではありませんし、さまざまな要素が絡み合った「状態」
です。「同じ速度、同じ方向」と言うわけにはいきませんが、概ね、「慣性の法則もどき」が成り立つものと思われます。 景気が上昇傾向にあるときは、総需
要の拡大〜企業利潤の増大、賃金の増加〜投資、消費の増加〜総需要の拡大と 言う風に景気の上昇傾向のときは上昇傾向が続こうとします。景気の下降局面
では逆のプロセスでやはり下降傾向が続こうとします。すなわち、慣性の法則 もどきです。 |
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2. |
平準な状態に戻ろうとする力 |
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過去の経験則に照らして、このような力が存在するとは思われません。誤解
の無いように敢えて説明しますが、景気拡大局面が一定期間続いた後で、ある 時期に(株価の暴落などをきっかけにすることもある)下降局面に転じるのは
その時点で何らかの下向きの力、ベクトル、またはしくみが作用した結果です。それにもかかわらず、そのような力が無いと言うのは、ここで言う「平準な状
態に戻ろうとする力」とはその時点で特別に働く力ではなくて「平準な状態に 無いときに常に掛かりつづける力」だからです。このような力が存
在するとすれば、景気が上昇局面にあるときは、一本調子に上昇するのではな く、徐々に自然と景気は減速して、結果として下降局面に転じるようなイメー
ジになります。(放物線のイメージ)しかし、いろいろと思考を重ねても、過 去の経験則に照らしても、たとえば景気が上昇局面のときに、常に景気を平準
な状態に押し戻そうと言う力が働きつづけていているとは思われません。 |
結論
(1)「慣性の法則」もどきは存在する (2)「平準な状態に戻ろうとする力」は存在しないと推測される。(過去の景気変動の観察から)
とするならば、景気が波打つまたは循環するように見えるとすれば、景気の局面転換(拡大ー縮小 縮小ー拡大)の時点において、その時点にだけ特有の力、または、ベクトル、または、しくみが働いたことになります。これは、景気循環が自然科学的な「波」のイメージではなく、「壁に当たって方向転換する」イメージになります。(もちろん 壁に当たったときほど鋭角な変化を示さない場合もあるでしょう。)この景気の局面転換の時点に働くシステム、または「力」のしくみを解明することが経済政策の立案に大変重要になってきます。それを解明できれば景気の縮小局面を拡大局面に変えたり、景気の過熱状態をソフトランディング的に安定または縮小局面へ変化させることができるようになる可能性があります。
この景気の局面転換時に働くシステムを解明せずして経済政策を立案して、総需要刺激策などを行っても「慣性の法則もどき」のもつベクトルの方が大きければ、その場だけの需要拡大に終わり、景気の下降を止められない事になる訳です。
=局面転換時に働くシステムまたは力=
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大変重要な問題です。これから研究していかなければなりません。過去の景気
循環に学ぶことも大切です。この問題についてご意見のある方のメールを募集
します。とりあえず、理由の一因らしき仮説を一つだけ申し述べます。 |
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仮説 |
(1) |
景気上昇〜下降 |
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景気の安定および上昇期には生産活動が活発に行われ、賃金も上昇します。お
金も多めですが物も豊富で結果として消費財の価格はあまり上がりません。平 成景気の経験では高級品指向が高まります。安定 上昇期が続くと最後には人
々の購買意欲が一服します。この時点で生産活動は活発だが消費は相対的に過 小な状態になります。このため企業は生産代金を回収できなくなるばかりか、
在庫負担も抱えます。そのため生産活動の縮小 投入労働力の減少 労働 者(消費者)所得の減少 総需要の減少と連鎖していきます。 |
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平成景気を振り返ると以上のようなあらすじが読み取れるのではないでしょう
か |
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=まとめ= |
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景気上昇〜下降の局面転換 |
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「消費の一巡」「消費の一服感」が引き金となって需要と供給のミスマッチを
起こし、局面転換する |
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