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ゴシカ / Gothika

Mathieu Kassovitz

2003 USA 95 Min. 劇映画

出演者

Halle Berry
(Miranda Grey - 精神科の医者)

Charles Dutton
(Douglas Grey - 精神病院院長、ミランダの夫)

Robert Downey Jr.
(Pete Graham - 精神科の医者、ミランダの同僚)

John Carroll Lynch
(Ryan - 町の保安官、ダグの友人)

Bernard Hill
(Phil Parsons - 精神科の医者)

Kathleen Mackey
(Rachel Parsons - フィルの娘)

Penélope Cruz
(Chloe Sava - 入院患者)

Anana Rydvald (看護婦)

見た時期:2004年3月

要注意: ネタばれあり!

最初からばれます。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

3月頃から次々におもしろい作品を見る機会が増え、この記事を出しそびれていました。ゴシカを見たのはまだ寒くて暗い時期。その方が雰囲気が合います。今は夏時間、その上天気のいい日もあり、ゴシカ〜という気分ではありません。寒々としないとだめなんです、この作品は。今日なんかだめだ・・・天気が良くて花粉が飛び回っています。ところで井上さん今年は花粉どうですか。

いい天気のことは忘れ、話はがらっと変わり、人里離れた刑務所兼精神病院。精神科の医師ミランダは院長の夫と同僚に囲まれ熱心に仕事をする毎日。それがある日ミイラ取りがミイラ、というのが大まかな筋です。この監督は人里離れた所が好きですね。どうも聞いたような名前だと思ったら、先日見たばかりのクリムゾン・リバー  深紅の衝撃の監督です。さてそこへリングを思わせる幽霊話と、実際にベルギーで起こり7年経った今ようやく裁判が始まった若い女の子誘拐殺人事件を絡ませたようなストーリーです。全体はハル・ベリーの美しさを嫌が上にも目立たせ、ペネロープ・クルスの個性的な顔はメイク無しでも見られるところを強調するために作ったような話で、あまり深みはありません。しかし狙ったポイントは上手く出ています。ちなみにこれは推理物というよりホラー映画です。

アラが目立たない程度に皆ティームワーク良く仕事をしており、画面は統一された暗いトーン。この監督の前の作品も暗かったですが、あちらはブラウンを強調。こちらはブルーっぽい暗さで、でき上がりはこちらの方が感じが良かったです。あちらは凝り過ぎという印象。私にはゴシカ程度でいいです。ちなみにクリムゾン・リバー  深紅の衝撃はリュック・ベソン監督、ジョン・レノー主演で続編ができています。このコンビですと期待したくなります。ファンタのパンフレットの広告に出ていました。(後記: 5月中旬現在まだ見ていません。見るつもりだったのですが、ドイツでの評判は今一。後記の後記: ・・・と言いましたが、その後見る機会に恵まれました。)

幽霊の出し方はリング的ですが、邪悪な幽霊ではなく、ゴースト・シップ的に「まだ解決していない犯罪を解決してちょうだい」と、生きている人間に取り付いて頼みに来るという話です。ですからこれは幽霊の専門家の愛弟子、林家木久蔵師匠が言っていた本当の「幽霊」に当たります。「お化け」ではありません。その未解決の事件というのがベルギーで起きた少女誘拐殺人の系統の話。

私にとってホラーだったのは映画館の中。タダ券が貰えたので行ったのですが、公開がこれからという最新作だったので、喜んで行きました。ホラーにはあまりお金は払いたくないけれど見たいというのが本音。長い CM が終わってようやく始まりました。作品自体は100分を切っており、最近の作品としてはやや短め。しかし見てみるとそれほど短いという感じはしませんでした。退屈だから上映時間より長く感じたという意味ではありません。前半ミランダの生活を綴る所がちょっと長くてまどろっこしいかと感じたのですが、見終わってみると、これが無ければ日常と異常の差が充分表現できないと分かり、遅れ馳せながら納得。

問題は別な所に。カソヴィッツ監督は確かに観客に恐がってもらいたくて作ったのですから、観客がキャーっと言うのは喜ばしいことでしょう。ところがこの日異常な客が私の真後ろに来ていたのです。尋常の叫び方でない上に、叫べる場所は1箇所も無駄にせず、全部叫ぶのです。キャーっでなく、けたたましいギャーっ。映画の登場人物よりずっとずっとずっと大げさな叫び方で、鋭い。それが耳に刺すように飛び込んで来るのです。館内の観客も最初の2、3回はそのまま聞いていましたが、あまりしつこいのでぶーぶー言う声があちらこちらから聞かれ、私は間もなく館内で本気で喧嘩が始まるかと心配しました。叫ぶ勢いは最終絶叫計画のブレンダが映画館で騒ぐシーンぐらいの迫力とパワー。本人曰く無意識に声が出てしまうんだそうです。うそダ〜。彼女に刺激されて前の方でも2人ほど大騒ぎする女性が出ました。それだけではありません。シーンとしてキャーっとなるはずの映画なのに、上映中他の人は結構大きな声でおしゃべりを続け、マジで映画に集中したい人はいい迷惑。しかしマジで見たい人はいなかったらしく、そういう事で文句を言う人はいませんでした。私もプロットは軽そうだったので、画面を見て楽しむだけ。多少誰かがおしゃべりしても怒る気にはなりませんでした。それにしても後ろの席のギャーっは凄かったです。

ではあらすじ行きましょう。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

いつものように、刑期に服す代わりにウッドワード精神病院に収容された重傷患者たちの治療に当たっているミランダ。アイデンティティーの犯人程度をご想像下さい。電気椅子の代わりにここへ来たという人たちもいます。ミランダは理路整然と物を考える人で、冷静に辛抱強く患者の言う事を聞いています。しかし患者が妄想を抱いているのだという結論は割に簡単に出してしまいます。患者の言う事が現実離れしているので、医者を責めることはできません。

ある雨の夜仕事帰りにあわや人を轢きそうになり、かろうじて避けたミランダですが、路上で傷を負った半裸の少女を見ます。車でぶつかった傷ではありません。記憶はここで途絶え、次に気づいたら自分の働いている精神病院に患者として収容されています。これだけでもびっくりですが、夫殺しの罪が追って来ます。同僚の話ですと、少女に出会った夜、ミランダは家に帰って斧で夫をばっさりやったことになっています。

徐々に自分の立場を理解し始めたミランダはこれまでの外側からの見方では問題が全然解決しないことに気づき、これまで患者だったクロエの立場を理解し始めます。超自然現象などはこれまで一笑にふしていたミランダですが、確かに彼女が見たのも幽霊。少女は同僚の娘で、4年前に死んでいます。クロエは悪魔に暴行されていると主張し、ミランダは信じませんでしたが、ある日現場を目撃してしまいます。犯人とおぼしき男には刺青がありました。刺青をした悪魔?時々登場する「1人ではない」という文字。伏線は引いてあり、1人以上の人間が関わっている事件が見えて来ます。

ゴースト・シップ同様幽霊に手助けされ、病棟を抜け出すことができたミランダは病院内を歩き回り、いくつかの手がかりを得ます。また閉じ込められますが、理性と本能の両方を総動員して考え始めます。クロエの態度もだんだん理解できるようになります。幽霊などという超自然現象もある程度受け入れないと問題は解決しないという風に考え、徐々に幽霊が何かを解決してもらいたくてミランダを誘導しているのだという解釈に傾きます。で、事件現場へ。正気だった頃評判が良かったからなのか、見逃してくれる人もおり、守備良く脱獄に成功。取り敢えずは自宅に戻って見ます。

記憶がやや戻り、斧を夫に振るったシーンを思い出します。しかしなぜ最愛の夫を?自分に抑圧があると極端な形で出ることがありますが、ミランダには思い当たらないのです。チラッと記憶にあった別な家を探します。そこの地下室で見たものは・・・。とここでセンセーショナルな事実がプログラムされています。その事実というのがベルギーの事件を思わせるような内容で、重罪です。こういう事件が未解決ですと、幽霊は出た方がいい。悪い幽霊ではなかったのです。ご丁寧にこれから殺されることになっていた瀕死の少女まで登場。ベルギーでも最後の犠牲者、少女が2人危ういところで救出されています。裁判で何人殺されたか正確な数が判明することはないでしょうが、かなりの数の子供が消えています。

これでようやく事件が片付いたかと思えますが、気になるのが「1人ではない」というメッセージ。犯人役を演じたチャールズ・ダットンがあまり悪人の雰囲気を備えていなかったこともあり、何か物足りないなと思っていたら、いました、2人目が。

2人目を演じたジョン・キャロル・リンチは悪役とは言え、自分のショー・タイムを貰い、そのシーンはワンマンショー。監督が俳優に見せ場を作るチャンスを与えています。リンチは全体では演技の弱い作品にちょっとしたインパクトを与えています。この人は1度ファーゴでも個性的な主人公の夫、切手のデザイナーの役を演じていました。ちなみに私がリンチを見たのは

警察関係、制服を着る役が多いです。

ベリーは演技のどこがオスカーに匹敵するのか未だに分かりませんが、絵になるスターということですと、バービー人形みたいでちゃんと絵になります。恐怖映画でも過剰演技にはなっておらず、適度に控える術は知っています。クルスはこれまで男を惑わす魅力的な女という役を見ていましたし、ゴシップでもそういう話を聞いていたのですが、ゴシカはイメージチェンジです。ゴシップのせいで上にのし上がるためには何でもやるという先入観が入ってしまい、その上トム・クルーズの率いるドイツで評判の悪い宗教に入ったとかいう話まで出ているので、あまり良いイメージはありませんでしたが、ゴシカではそういう話抜きでもちゃんと見ていられる演技です。

余談ですが、クルスと別れたはずのクルーズは今ベルリンの横っちょのポツダムに住んでいて、クルスとデートというすっぱ抜きもありました。住んでいる家というのが、ベルリンではちょっと問題になった人物の家だった物件。その上この間は町の名物になっている連邦政府の建物の中で映画の撮影をやろうとして断られ、元奥方に抜かれました。元奥方は国連の建物の中で撮影してもいいという許可を取りつけています。

監督は俳優としてフィフス・エレメント他日本でも名の知れている作品に何本か出演。監督としてはドイツでは La Haineクリムゾン・リバー  深紅の衝撃で有名で、ゴシカはその次の作品です。本数は少ないですが作った作品は人に知られています。

ベリーは Bulworth あたりから見始めていますが、その後とんとん拍子で X−メンSwordfishチョコレートX2 といった具合。しかし選んだ作品が悪かったのか、彼女の演技はこれだ!というような作品にはまだ出会っていません。

ダウニー・ジュニアはサタデー・ナイト・ライブの出身。ベルーシの二の舞かと心配しましたが、どうやら最近は安定した生活を送っているらしく、奥方がゴシカのプロデュースをしています。今回はコメディーではありません。演技の上手な人だと聞いているので、ジャーナリストもちょっと静かにして、彼に演技をさせたらいいのにと思っていたので、こういう展開ですと、今後に期待できるかも知れません。

まあ、そこそこの仕上がりですが、1つだけ教訓を得ました。ミランダのような窮地に追い込まれると、脱走できたらすぐトンズラと素人の私は考えましたが、彼女にはその気はなく、即事件現場へ急行し、調べ始めます。逃げない。クルスの演じているクロエは自分を投げ出してはいないけれど、救いに来る者がいないので、状況を受け入れています。「魂だけは売らない」それだけが彼女を生存させている。ベリー演ずるところのミランダはそれを1歩進めて調査をするのです。私だったら幽霊騒ぎだけでも恐くて逃げ出しそうになるところです。饅頭は恐くないけれど幽霊は恐い。

ちなみにゴシカというのはゴシック・ホラーを狙ってついた名前と言われているようなのですが、ゴシック・ホラーでしたら、少なくともセットやロケの景色などではヴァン・ヘルシングがお勧め。ゴシカはちょっと小粒です。

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