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スリル・オブ・ゲーム /
House of Games

David Mamet

1987 USA 102 Min. 劇映画

出演者

Lindsay Crouse
(Margaret Ford - 心理学者)

Joe Mantegna
(Mike - 詐欺師)

Mike Nussbaum
(Joey - 詐欺師)

Lilia Skala
(Dr. Littauer - マーガレットの先輩学者)

J.T. Walsh
(ビジネスマン)

Steven Goldstein
(Billy Hahn - マーガレットの患者、博打狂)

Jack Wallace
(ハウス・オブ・ゲームズのバーテン)

Ben Blakeman
(チャーリーの店のバーテン)

G. Roy Levin
(博打うち)

Bob Lumbra
(博打うち)

Andy Potok
(博打うち)

Allen Soule
(博打うち)

William H. Macy
(Moran - 電信為替の窓口に来た兵士)

見た時期:2005年3月?

要注意: ネタばれあり!

★ 前に見た?

本職はシナリオライターらしい監督の劇映画デビュー作です。見た時期に?がついているのは、以前に見たかも知れないからです。不思議なことに冒頭部分と最後の部分だけ記憶があり、間の記憶がスパット抜けているのです。ですからストーリーがどういう風に展開するのかは覚えておらず、主人公の女性のキャラクター、酒場のシーンと最後の明るい服を着たシーンだけが記憶に残っています。そして何語で見たかすら覚えていないのです。その上私はテレビを見なくなってからもう四半世紀という文明からは完全に取り残された人間化石ですので、家でテレビで見たなどという可能性は無いのです。しかし映画館で見たという確かな記憶も無い・・・そういう不思議な作品です。

そういう作品だとは知らず、タイトルからは何のイメージも沸かないまま友人に見せてもらったのですが、途中の内容をきれいに忘れていたので、その好意は無駄にならずに済みました。

★ 渋い俳優

実は私はこの手の地味な作品が好きでファンタなどにも出かけて行きます。そしてウィリアムHマーシーをひいきにしたりするのですが、何とスリル・オブ・ゲームに彼が出ているのです。マーシーはどう見ても万年脇役というタイプでありながら堂々とメインに登場する珍しい俳優ですが、まだブレークしていなかった頃マメット監督と何度か組んでいます。6度も採用されていて彼が組んだ監督としてはNo.1(タイ記録でもう1人の監督とも6回組んでいます)。

余談ながら J・T・ウォルシュも出演しています。彼は悪役が得意で、以前から注目していたのですが、脇役俳優としては油の乗っている年に心臓麻痺で死んでしまいました。直後には監督が亡きウォルシュに捧げるなどというクレジットを乗せていたりして、マジで映画作りに取り組んでいる監督からは注目されていた職人的俳優 でした。

★ 細かい所に気を使い、バランスがいい

こういった作品は雰囲気が俳優の演技と同じぐらい重要です。家具、調度品、撮影の時の光の様子、町の描き方、全体を統一している色などに神経を使っ た作品で、特殊効果、アクションなどとは縁がありません。それでいて舞台劇をそのままスクリーンに持って来たような安易さではだめ。スリル・オブ・ゲームはその辺が成功していて 映画でないと出せない雰囲気を作り出します。ですから大スターなどは呼んで来ません。パシーノやニコルソンのような印象の強過ぎる俳優は避け、あまり 名の知られていない人を配します。女優の方も美貌が先に立って、演技がかすんでしまうような人を避け、演技力が強過ぎる人も避け、俳優でなく役の印象が残 るように配慮されていることが多いです。

珍しくこのジャンルの映画でありながらスターを起用し、且つストーリーや雰囲気が死なずにできあがった作品がザ・クーラー。オスカーなどと大いに関係のある人たちが出ていながら、このジャンル本来のア ンサンブルが壊れていません。そこに主演として起用されたのが、俳優生活の大きな部分をこういう作品に捧げていたウィリアム・H・マーシー。そして1人で 主演を張れるアレック・ボードウィンが脇に回ってすばらしい演技を見せるなど、俳優が「長く役者やってって良かった」と思うだろうという作品でした。その次の年のファンタに もまたそういう佳作が出ていました。特殊効果総動員の超大作の脇でまだこういう作品が作られるのはうれしいことです。そしてザ・クーラーオス カーのノミネートを受けたというのもうれしい話です。

★ ジャンル: 詐欺師

このジャンルのストーリーには詐欺師、あるいは詐欺まがいの出来事が登場することが多いです。そして舞台はニューヨークやロサンジェルスの近代的な 高層ビルなどは避けて、ややローカルな、その辺からタバコやごみの匂いが漂いそうな普通の町。

80年代はドイツで生活を築くのに追われ、ほとんど映画などを見る暇が無かった時期で、この作品がこういったジャンルの走りなのか、あるいはそうい うジャンルは前からあって、それを踏襲したのか分からないのですが、監督はこの作品でジャンルの枠をしっかりつかんでいます。

もう1つこのジャンルでありながらスタイルだけは逆手に取って、うらぶれた町の代わりにとても明るい町を出し、主人公の住んでいる家なども現代的、ベルリンのバウハウス美術館のようなモダンな建築、調度品にしていたのが、マッチスティック・メン。視覚的な印象が180度反対なので、騙されてしまいそうですが、これも良く考えてみると同じジャンルに入る物語ではないかと思います。

古い作品なのでネタをばらしながら説明します。日本ではどうやら一般公開はされなかった様子です。 何かチャンスがあり、見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ あらすじ

主人公は出版などもして全米に知られている女性心理学者。患者の治療にあたりながら執筆活動も続けており、本は売れるらしく、有名人です。キャリア・ウーマンの走りですっきりした診療室を持ち、結婚はしておらず、友人と言えば恩師風の年取った心理学者。手に入れたい物はすべて手に入り、美貌と言わないまでもクールな美人で、中年でありながら中年太りもしていないという恵まれた環境にいます。町に出ればその辺の人から「本を買った、サインしてくれ」とせがまれることもあります。

しかしいみじくもその老心理学者が忠告する事が大部分当たっています。マーガレットは外見幸せそうですが、内面は空虚。自分では気づいていません。なぜそういう人が心理学者として成功しているのかは世界の7不思議ですが、現実にはそういうケースはごろごろしています。心理学者のマーガレットにまるで母親のように忠告するリッタウアー博士の言葉は物語の展開で狂言回しのような役を果たしています。

外から見ていると分かるけれど本人には分からない事、それがこのストーリーの重要なポイントです。リッタウアー博士が見通せる事は当然詐欺師にも見通せます。両者の違いは心理学者は患者の不幸を取り除こうと努力し、しかし大部分は診療所の中で論理を中心に運ぶのに対し、詐欺師は心理学を実戦に応用し、患者の利益でなく、自分たちの利益のために使うという点。これでもう映画のネタは半分以上ばれてしまいました。

★ 詐欺師の視点

映画はマーガレットの考え方中心に動いて行きますが、こちらは詐欺師中心に話を進めましょう。昔ある所にスパイ大作戦といい勝負の、しかし一流ではない詐欺師のグループがありました。メンバーは男ばかり。 彼らはチャンスがあれば金を騙し取ろうと虎視眈々。で、町のチンピラでもチャンスがあれば報告に来ます。そして行けそうだとなると全員で役割を決め、仕事 (演技)開始。

ある日、ビリーというチンピラがマーガレットというカモを見つけて来ます。心理的につけ込めそうな弱みがあり、外見は成功した知的な女性。金はたっぷり。そしてどうやら彼女の助っ人をするような男は周囲にいない様子。

で、ビリーが《金で切羽詰まっている》という口実で彼女を House of Games という賭博場を兼ねた酒場に誘い出します。映画なのであまり詳しく説明していません。で、推理小説を読み慣れている人間には、こうもうまく彼女を誘い出せるものなのかとやや疑問。しかしこれが無いと次の話が成立しないので、片目をつぶりましょう。

ビリーは「25000 ドルの借金があって殺されそうだ」と言ったのですが、行ってみると借金は 800 ドル。金を貸したマイクは「奥でやっているポーカーで手助けをしてくれればビリーの借金は帳消しにする」と申し出ます。この時アングロサクソン、あるいは北欧的な雰囲気を持ったマーガレットにイタリア、バルカン風の雰囲気のマイクをぶつけています。これは観客が持っている先入観にぴったり照準を合わせてあり、知的な学者マーガレットとちょっと崩れた男マイクという組み合わせを簡単に納得させてしまいます。映画が詐欺物語だというだけでなく、監督は観客も誘導しています。

ここで 25000 ドルという5桁の借金が 800 ドルという3桁に下がってしまったのが重要な点かも知れません。「ビリーを助けよう、あこぎなマイクを懲らしめよう」と勇んでやって来たマーガレットに、マイクは 25000 ドルせしめようとせず「800 ドルでいい」と言い出すので、マーガレットにはマイクが意外と正直な人間なのだろうと思い始めるように仕組まれています。マイクは最初から最後まで「自分は詐欺師だ、人を騙すのが商売だ、人を信じるな」と言っていますが、マーガレットはどこかで「いや、そうじゃない、マイクはいい人間だ」と信じようとしています。「そこが危ないんだよ」と観客は言いたくなってしまいます。

さて、ビリーの問題は解決しましたが、マイクが失敗します。ポーカーの相手には癖があって、はったりをかます時は指輪に手をやるのだそうです。ところがマイクにそれがばれたと思った男はそれ以来やらなくなったので、マイクは勝ちにくくなったのだそうです。で、マーガレットが賭場に入り、マイクがトイレに行っている間に男が油断してその癖を見せた場合はマーガレットがマイクにそれを知らせるという手はずを整えます。映画を見過ぎた人にはこれでまたマーガレットが深みにはまるのがお見通し。マーガレットにはそれが見えない。で、彼女はここで行き過ぎて、自分がマイクの負けを払う羽目になります。ところが揉め事になって脅しに使われたピストルが水鉄砲だと分かり、話はおじゃん。マーガレットは 6000 ドルを負担せずに済みます。

これがまたマーガレットに頭の良さを自慢させるためのトリック。詐欺師はその先を行っていて、800 ドルから 6000 ドルに吊り上げ、それも取られずに済んだマーガレットは「自分は頭が良い」と確信してしまいます。その上彼女はマイクと寝てしまいます。この時期も巧みに計画されています。いくつかの山を越え、緊張を感じたところでセックスというリラックスの申し出。それも彼女が望んでという持ち掛け方になっています。これはマイクが次の大仕事にかかる前に、どうしてもマーガレットを自分の元に引き止めておかなければならないから。マイクは名前を名乗っていますが、マーガレットは自分の名前も身分も明かしていません。

ホテルで一夜を明かした後、2人は通りで大金を発見します。8万ドル。そしてこれを見つけた現場には他に2人いて、合計4人で山分けをするかどうかという話になります。ジョーイがかもにしようと見つけて来たビジネスマンが加わっています。この金の分配法で揉めてしまいます。その上マーガレットはこの男が実は囮警官だということを見破ってしまいます。で、3人はトンズラしようとするのですが、刑事に見つかってもめている最中にピストルが暴発。刑事は死んでしまいます。3人は死体を置いてトンズラ。その上ジョーイは慌てて金を無くしてしまいます。8万ドルはマフィアから借りた金だったので、その日の内に返さないとマフィアに殺されてしまいます。で、マーガレットが金を立て替えます。

ここでもまた8万ドルという金額はマーガレットを完全に破産させるような額ではありません。大金ではありますが、元の生活に戻り仕事をすればまた稼げる額。詐欺師グループはそのあたりのリスクを計算しています。身ぐるみはいでしまうと恨みも大きくなり、通報されたり復讐されたりします。ほどほどで止めておくと、相手の追及もほどほど。身の安全を図っています。

結局人を殺したということを心にしまい込んで3人は解散。マイクやジョーイは町を離れ、マーガレットは元の生活に戻ります。ビリーがしっかり様子を見に来ていて、彼女がおびえていることを仲間に報告します。おびえていれば警察に通報される心配はありません。ビリーの借金のメモ、治療記録、ピストルなどを捨てようと家の外へ出たところでマーガレットはビリーが赤い車に乗って去るのを目撃します。この車は警官が死んでから3人で逃亡する時に使われました。その車がなぜビリーに?騙されたんだ!で、彼女は反撃に出ます。

ここから後は映画を見る人間としては失望の連続です。ハッピーエンドでも悲劇でもいいですが、もうちょっと気の利いた結末を望んでしまいます。彼女は意を決して再び House of Games に乗り込みます。取り敢えずは何がどうなっているのかを知るため。そこではちょうど都合良く詐欺師グループが集まって、経費の計算をやっていました。警官の制服いくら、ホテル代いくらなどと、きっちり経理の管理。ついでに「あの女まんまと引っかかった」などと彼女にとってはプライドを傷つけられる事をいくつかしゃべっていました。彼女はそれでも多分8万ドルは高い授業料だと思って受け入れたかも知れません。ところがマイクは彼女がマイクと寝たことも笑いの種にします。ここが男性と女性の考え方の違いなのかも知れません。あるいは男女差ではなく、社会の階層の差なのかも知れません。上流のインテリと崩れたやくざの恋と思っていたら、利用されていたと知って彼女の方で切れたのかも知れません。また女性にもたかがセックスと考える人と、大いにプライドを傷つけられる人がいます。金の籠の中で大切に育てられたらしいマーガレットはたかがセックスと考えることはできないでしょう。この辺り脚本はマイクとマーガレットの波長の違いをはっきり出しています。

さて、こういう女性をこういう風に怒らせてしまった男性は、ブルース・ブラザーズを見るまでもなく、危険にさらされます。マイク、ヤバイぞ、警戒警報。しかしマーガレットはこの時静かに去ります。

この話でマイクのトンズラの日時を知ったマーガレットは空港で偶然を装ってマイクに再会。「一緒に逃げましょう、全財産を持って来たわ」とのたまう。これまでマーガレットの弱みをマイクにつかれていましたが、マイクの弱みは金。鈍い心理学者もようやくマイクの弱みを見つけ始めました。金にはつられやすいマイク。コインロッカーから鞄を持ち出し、空港のトランク置き場で対決。ビリーのピストルを使ってマイクを殺してしまいます。

この辺りからはプロットの穴が目立ち、前半の巧みさから外れてしまいます。いくら時代が20年近く遡るとしても、警察の鑑識はそれなりに近代的な装備を持っていましたから、現場検証すればかなりの証拠が見つかります。でもまあマイクは象徴的に殺されたのだと解釈して片目つぶりましょう。(さっきもう片目つぶったから、これで両目になってしまうか・・・。)マーガレットはその後暫く診療所をたたんで旅に出ます。戻って来てまた先輩の先生とレストランで会います。以前と違い明るく派手な服を着ています。そして最後に近くに座っていた見ず知らずの女性のバッグからライターを盗みます。

「自分に正直に生きろ」と先輩に言われていたマーガレットが、こういう経験の挙句に心からそれを悟り、盗癖のある自分を許し、それを自分の性格の一部だと考え肯定的に生きるというという象徴的なシーンです。今回見た時にはシーンが無かったのですが、以前に見た時には物語りのどこかに彼女の盗癖に触れたシーンがあったのではないかと思うのですが、確信はありません。

★ 心理学者に一発お見舞いか

監督が意図したのかどうか分かりませんが、全体は心理学という分野に対する風刺とも取れます。心理学という学問を修め、患者を治療する人たちは(特にアメリカに)たくさんいますが、どれほど実戦に役に立っているのか、また心理学者が言いたがる「自分に正直に」という言葉を学者自身がどこまで深く考えて言っているのか、そういったテーマに一発パンチをお見舞いしてやろうと脚本家が考えたのかも知れません。何を隠そう、その脚本家というのは監督自身。

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