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ベルヴィル・ランデブー /
Belleville Rendez-Vous /
Les Triplettes de Belleville /
The Triplets of Belleville /
Das große Rennen von Belleville

Sylvain Chomet

2003 F/Belgien/Kanada/UK 80 Min. アニメ

登場人物

(Madame Soouze - 祖母、主婦)

(孫、自転車競技の選手)

(Bruno - 犬)

(Triplets - 女性3人組の元歌手、現在は老女)

(マフィアのボス)

(多数の子分)

見た時期:2005年11月

ネタばれあり!

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「何のために作ったのか、わけの分からない映画だ」といちゃもんをつけた観客もいた作品。

私にも何の意味があるのかさっぱり分かりませんでした。しかし見て損をしたかと聞かれると、「これは芸術品だ」と答えたくなってしまいます。漫画なのですが、見ているシーンは観客を引きつけるに十分で、ストーリーもそれなりに理にかなっていて、1つの家族の何十年にも渡る物語、アメリカの暗黒の世界、ハードボイルド風の犯罪物語、アメリカ(ニューヨークらしき町)の歴史、アクション追跡物語などいくつもの要素を持っています。

ただ、見終わって考えると、「あれは何だったんだろう」とやはり考え込んでしまいますねえ。

国によって《年齢制限無し》から《16歳までだめ》となっています。別にセックス・シーンがあるエロティック・アニメではないんですが。

物語は大分前のフランス、恐らくは戦前のフランスから始まります。オープニングにギターのジャンゴ・ラインハルト、ダンスのジョセフィン・ベーカー、フレッド・アステアのそっくりさんが出て来ます。そこは白黒。

本編はマルセイユらしき町、恐らくは大戦後から始まります。ここからはトーンを上品に押さえたカラー。

両親をなくした少年が祖母と一緒に一軒家に暮らしています。祖母は孫のベッドのシーツを取り替えていて、隠してあったノートを発見。孫が三輪車、自転車にあこがれているのを知ります。それで三輪車を買い与えます。少年が大きくなると自転車を与え、祖母がコーチとなって英才教育。孫はやがてド・ゴールの頃 Tour de France に出場するほどに成長します。

ところがレースの最中に孫が他の選手2人と一緒に拉致されてしまいます。坂道で疲れてばてているところに救急隊とそっくりのシトロエンに乗って来た男に車に誘い込まれ、そのまま貨物船に乗せられアメリカまで。それっきり行方不明です。孫を溺愛していた祖母は飼い犬と一緒に孫を追い始め、船をつきとめ、その船についてニューヨークに来てしまいます。この大都市はニューヨークという名前になっておらず、ベルヴィル(美しい町)とされています。町の入り口、大西洋に面した側に大きな像が立っており、その姿はまさにスーパーサイズ・ミー

ところが最後の1フランはボートを借りる時に払ってしまい、お祖母さんは無一文。しょげてこれから町でホームレス生活という時に3人の老女に拾われ、アパートに転がり込みます。3人は若い頃アカペラのようなグループを組んでいて、現在も時々クラブに出演。それでお金を稼いでいます。そこに祖母も加わり、4人の老女グループで何とかお金を工面。孫の追跡はその後困難にぶつかりながらも続け、4人はようやく孫の居所をつきとめます。

フランスでは競技中に消えた選手の話が新聞に載るような事件になっています。 アメリカではマフィアのボスが闇の賭博場で拉致して来た3人の選手に強制的に自転車をこがせ、誰が倒れるかに金をかけています。脱落した者はその場で撃ち殺されます。これに似たシーンはジェニファー・コネリーのレクイエム・フォー・ドリームにもありました。あちらでは殺しは起きず、コネリーはまとまった金を手にしますが、こんな物に金をかけるのかと思うような事で賭博が行われます。管理しているのは怖いおにいさんたち。

孫の居場所を突き止めた4人の老女が協力して会場に忍び込み、孫を奪回。その後は大アクションの追跡シーン。自転車の速度で逃げる5人と犬1匹に何台もの車が追いついて来るのですが、それを振り切り助かります。

愛する孫に再会したお祖母さんと犬というハッピーエンドなのですが、孫の顔を見て、私には全体が何の意味があるのかさっぱり分かりませんでした。孫は最後まで自分に閉じこもった表情で、世の中の動きにほとんど反応しません。それはまだフランスで自転車のトレーニングをしていた頃から同じです。お祖母さんは活動的な人で、ちょっとの事では絶対めげない意思の強さがあります。さらわれた孫を取り返すと1度決心したら、大西洋を嵐にもめげず追い続けます。犬でさえ表情があります。町にも表情があります(かなり芸術的な描写)。でも孫は自分の意思があるのかも分からず、言われた事を黙々とやるだけです。

で、見終わって、芸術的な絵の、できのいいアニメを見たとは思うのですが、孫の立場から考えると、何が幸福なのかすら分からなくなってしまうのです。祖母の立場から見たら、不当に奪われた孫を取り返して大成功。3人の老女から見ても、外国から1人で来た気の毒な女性を助けることができたので、大成功。犬ですら喜んでいる様子。しかし、孫に取ってはギャングの言う通りに自転車をこぐか(いずれは撃ち殺される運命が待っているでしょうが)、祖母の言う通りに自転車をこぐかの差で、本人の感情はなぜか石のように動きが無いのです。Tour de France で優勝しても彼なら明日はまたトレーニングと考えるでしょう。アームストロングやウルリッヒですと勝てばうれしそうにしています。2人ともそれぞれ自分自身の幸福も追っています。自転車だけが人生ではないとの悟りは2人とも開いていて、アームストロングはシェリル・クロウとのロマンスを実らせました。ウルリッヒは一時小さいティームに入り、そこで競技仲間、スタッフとの協力などに楽しさを覚えたそうです。そういう人生の楽しさを全然味わっていない様子の孫でした。

誰かこの作品を見て、どういう意味があるのか理解できたら教えて下さい。

色々小さなユーモアがちりばめてあるのですが、1つおもしろかったのはお祖母さんと孫が住んでいる家。物語の始めは田舎の一軒家だったのですが、孫が拉致される少し前には付近に鉄道ができて、家はちょうどその路線にぶつかります。それで家をちょっと傾けて電車を通しているのです。その描き方がヴィンチェンツォ・ナタリ監督のナッシングを思い出させ、笑ってしまいました。カナダが制作に絡んでいるからこうなったというものではないでしょうが、愉快なシーンです。

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