映画のページ
2005 Tschechei/USA 118 Min. 劇映画
出演者
Jeremy Robson
(Jacob Grimm、子供時代)
Heath Ledger
(Jacob Grimm)
Petr Ratimec
(Will Grimm、子供時代)
Matt Damon
(Will Grimm)
Barbara Lukesova
(グリム兄弟の母親)
Anna Rust
(グリム兄弟の病気の妹)
Jonathan Pryce
(Delatombe - 将軍)
Peter Stormare
(Cavaldi - 将軍のイタリア人部下)
Martin Kavan
(将軍のお供)
Mackenzie Crook
(Hidlick - ペテンの助手)
Richard Ridings
(Bunst - ペテンの助手)
Lena Headey
(Angelika - 攫われた子供の姉)
Denisa Malinovska
(Angelika、子供時代)
Bara Rudlova
(アンゲリカの妹)
Andrea Milackova
(アンゲリカの妹)
Andrea Sochurkova
(アンゲリカの妹)
Daniela Kubickova
(アンゲリカの妹)
Monica Bellucci (女王)
Radim Kalvoda (警察官)
Martin Hofmann (警察官)
Roger Ashton-Griffiths (市長)
Miroslav Taborsky (粉屋)
Marika Sarah Prochazkova
(粉屋の娘)
Alena Jakobova
(赤頭巾)
Denisa Vokurkova
(グレーテル)
Martin Svetlik
(ヘンゼル)
Laura Greenwood
(Sasha - 攫われた子供)
見た時期:2005年9月
モンティー・パイソンに深く関わっているのでイギリス人だと思われがちですが、テリー・ギリアムは元々アメリカ人。ブラザーズ・グリムにはギリアム監督だというのであっという間にスターが勢揃い。皆手は抜いていません。ペーター・ストルマーレなどは珍しく長時間の登場で、台詞もたくさんあります。これまでのチラッと出て恐〜い印象を残す役ではなく、ちゃんとしたコメディアンとして登場。スタンリー・トゥトッィーかと思うようなしっかりとしたコメディアンぶりを見せてくれます。さすがスウェーデンを代表する名優、何でもこなします。
未来世紀ブラジルでおなじみのジョナサン・プライスも出ていますが、なんと言っても驚いたのがマット・デイモンとヒース・レジャーの配役。私は逆の役かと思いました。私が知っているグリム兄弟では学術肌なのがヤコブ、著述業に携わったのがヴィルヘルム。それでボーン・アイデンティティーのような深く考え込む役をやっていたマット・デイモンがヤコブ、若くて元気そうなヒース・レジャーが弟のヴィルヘルムと思っていたのです。
ちょっと遅れての書き込み。
実はギリアム監督、配役のナンバー・ワンにジョニー・デップを考えていたそうです。スリーピー・ホロウのデップだったらジェイク、エド・ウッドのデップだったらウィルが演じられますからね。まさか一人に二役やらせて間に合わせようと思ってはいなかったかと思いますが、確かにデップですと合いますねえ。ところがデップとロケ地のチェコは相性が悪いらしく、断られてしまったそうです。
ではまた白いページに戻り、話は上からそのまま続きます。
映画が始まると、全くこのイメージは覆り、長男で後に大学教授になり、言語学では今でも重要な人物ヤコブ・グリムはややノイローゼ気味のメルヘン・オタク、次男で後に集めたメルヘンの編集、出版に長く携わるヴィルヘルム・グリムは現実的で血気盛んな若者と描かれていました。学術関係では兄弟共に色々な活動をしていましたが、一生を学問にささげ後世に残る業績を残したのはどちらかと言えば長兄の方で、ヴィルヘルムはその兄を手伝ったりし、家庭を持ったりしました。映画では元気溌剌のヴィルヘルムは実生活ではやや病気がち。学問に閉じこもりがちなヤコブに比べ人当たりの良かったヴィルヘルムを口八丁手八丁の人物に描いたのはまあ分かりますが、ギリアム監督はそれほど実話を重んじなかったようです。
映画の冒頭には病気で寝ている妹が出て来ますが、グリム家には確かに1人だけ娘がいました。他は男の子が5人。1番上の2人が世界的に有名になっています。
当時は政治的な事情が影響してドイツ固有の文化を重んじる風潮があり、グリム以外にも童話を発表した人が多く、一種の童話ブームになっていました。グリムに関しては世間に実際と違ったイメージが広がっています。2人が童話を創作したのではなく、ドイツ全国を渡り歩いて下々の人から聞き、それを書き集めたということになっています。実際はそうではなく、フランス系の比較的若い女性から聞いた話が中心になっていたりして、フランスのペローと集めたはずの話が重複していたりします。また、道徳にうるさかったヴィルヘルム・グリムがセックスを暗示するシーンを書き換えたり、実母だったのを継母にしたという話も伝わっています。暴力シーンはさほど問題にはしていなかったようで、かなり残酷なシーンがそのまま残っていたりします。現代のドイツの映画の審査基準とは正反対になっています。
・・・とここまではどちらかと言えば本当のグリムの話でしたが、映画の方はどうなっているのでしょう。イギリス人やアメリカ人がグリムの話を扱うとこうなってしまうのかと一種の感慨を持ちながら見ました。
テリー・ギリアムは実話とは別物ときれいに割り切っています。映画の中のジェイクはヤコブ・グリムのことですが、映画の中ではメルヘンの夢ばかり見て現実が見られないだめな男ということになっています。目先の利く、現実に即した男がウィルで、夢ばかり見ているヤコブをしょっちゅう窮地から救うはめになるという設定になっています。ギリアムがなぜこういう風にしたのか、その意図は測りかねます。
映画に登場する2人はペテン師で、2人の助手を使って悪魔払いをして見せ、謝礼をせしめることを商売にしています。ドラゴン・ハートみたいなものです。1700年代のことなので簡単に騙される人も多く、結構いい商売になっています。助手というのが頭が悪く、謝礼を引き上げろと要求し、「10分の1では嫌だ。2人なのだから20分の1にしろ」と要求します。ウィルはちょっと考えて見せて「いいだろう」と同意。実はこれとそっくりのギャグを知り合いのドイツ人コメディアンがよく舞台で使っていました。
映画の前半は2人が子供の頃から始まり、ウィルがいつも小回りが利き、ジェイクがあまり状況を読めない性格だということが説明されます。どうやって暮らしを立てているかも前半に出て来ます。青年になった2人は事件に巻き込まれます。フランスの支配者にグリム兄弟のペテンがばれてしまうのです。イタリア人の拷問の専門家がフランス人の将軍についていて、2人は助手と共につかまってしまいます。
ドイツとフランスというのは長い間仲が悪く、戦争も世界大戦の2回きりではありません。1700年代のドイツ人というのはフランス人に決していい感情を持っていませんでした。ですから国内では洋ナシなどと言われてからかわれていますが、90年代の首相が成し遂げた事は本当は独仏何百年の歴史を塗りかえる作業でした。このかつての宿敵が仲良くなってしまうと喜ばない国も多分あるでしょう。隣国と仲良くするというのはそれまで仲が良くなかった国民がお互いを受け入れるということだけでなく、他の国々に新しい体制を受け入れてもらわないと行けないので、時間のかかる作業です。
映画中のグリムの時代にはフランス軍がドイツの町を占領していることになっています。そういう地域にある村で子供が10人近く行方不明になる事件が起きていました。ペテンがばれて窮地に陥っていたグリム兄弟は「この事件の謎を解け、さもなくば・・・」とフランスの官憲から脅かされ、先の見通しも無いまま引き受けます。あまり頭の良く無い助手2人と、夢ばかり見ている兄を抱えてウィルは一応捜査をしているふりをして、問題の村に乗り込みます。あれこれ話を聞いてみてもこれといった解決策は浮かばず、取り敢えず森を見てみようということになります。
森というのはドイツ人に取ってはミステリアスな場所で、ここから色々な話が生まれています。現在の国境線が引かれているドイツだけでなく、中部ヨーロッパと呼ばれる地域はどこも似たような考え方で、森に対しては《不思議な場所》というイメージがあります。ちょっと前に62歳という若さで亡くなったベルリン人の作曲家ホルスト・ヤンコフスキーも《森を歩こう》という曲を作っています。科学の発達した今では無論呪いや魔法の国があるなどとは誰も思っていませんが、森を散歩するのが楽しみだという人は多いです。元々都会っ子だった私でさえ影響を受け、今では散歩が大好きです。
この作品はチェコで撮影されていますが、チェコは東南ドイツと陸続きで、ドレスデンの南からチェコ国内まですばらしい森が広がっています。シゴニー・ヴィーヴァー主演のグリム・ブラザーズ スノーホワイトも同じような場所で撮影されたのではないかと思います。中部ヨーロッパの雰囲気は良く出ています。
さて、これといったあても無く引き受けてしまった大役。なんとかしなければ行けないというので、村で森を案内してくれる人を募集。「これ、そこの男、供せい」と言ったら女だった、という男女取り違いギャグが何度か出ますが、アンゲリカという男のような格好をした女性と知り合いになります。彼女は森の事を良く知っていて、あれこれバカな事を言うグリム兄弟を渋々森に案内します。なぜか暗い表情・・・と思ったら、彼女には以前家族がおり、妹たちと父親を森にさらわれて今では1人暮し。
森で消えた子供は10人に近く、中には赤い頭巾を被った女の子、グレタとハンスという兄弟など、グリム童話に登場する人物を思わせる子供たちがいます。森の中にはラプンツェルの住み処かと思えるような塔が立っています。入り口が無く、どうやってあの高い塔に人が登れたのかは謎。しかしここに500年前に女王が住んでいたという話が耳に入ります。
稀代の美女だった女王ですが、500年前に永遠の命を授かる時にうっかり永遠の若さを希望するのを忘れてしまい、骸骨のように干からびてかろうじて生き延びていたのです。改めて永遠の若さを得るためには月食の日までに12人の犠牲者を集めなければなりません。それでアンゲリカの父親を奴隷にして子供を拉致させていたのです。
自分の活躍というよりもっぱらアンゲリカのおかげで謎に到達、ジェイクが空想していた話が当たっていたりして、ウィルは女王との対決にこぎつけます。メルヘンですから一応ハッピーエンドですが、もしかして・・・。
女王の役にモニカ・ベルッチというのは豪華です。シゴニー・ヴィーヴァーが1997年にグリム・ブラザーズ スノーホワイトでクラウディアを演じた時も豪華でした。ヴィーヴァーの時はまさかあのアクション・スターがと思うゴージャスな姿だけではなく、女性の悲しさをデリケートに演技していたので圧倒されました。ドイツでは彼女の作品はエイリアンやコメディーばかりが受け、こういう真面目な作品はこけてしまいます。ベルッチの役は姿を見せるだけで内面を演じる機会はありませんが、2000年代では彼女がぴったりです。彼女にじっと見つめられたら男性は皆なびいてしまうでしょう。本人は「若さを保つという望みを言い忘れる」というアイディアが気に入っての出演です。
唯一ミスキャストと思われたのはマット・デイモン。あるいはいいキャスティングなのに本人が張り切り過ぎたのでしょうか。デイモンの演技力が一定のレベルに達していることは ボーン・シリーズだけでなく、ふたりにクギづけでも証明されていて、私は疑いを抱いてはいません。頑張ればできる程度の役者ではなく、何を持って来られてもたいていの役はできてしまうという人だと思っていました。ベン・アフレックのように、彼以上にできる俳優もいますが、デイモンもこれまで的外れな演技をしたのを見たことがありませんでした。で、今回はちょっと驚きました。そのためギリアム版のグリム兄弟にはあまり大きな感銘を受けなかったのですが、ジョナサン・プライスとペーター・ストルマーレの出るシーンがおもしろかったのと、グリム兄弟のアホな助手がおもしろかったので、笑いながら家に帰りました。
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