映画のページ

ボーン・アイデンティティー /
The Bourne Identity /
Die Bourne-Identität

Doug Liman

2002 USA/Cz 118 Min. 劇映画

出演者

Matt Damon
(Jason Bourne かもしれない男)

Franka Potente
(Marie Kreutz - Jason らしき男を車に乗せる女性)

Chris Cooper
(Conklin - CIA-Man、この事件のチーフ)

Clive Owen
(Professor - スナイパー)

Brian Cox
(Ward Abott)

Adewale Akinnuoye-Abgaje (Wombosi)

Gabriel Mann
(Zorn - CIA-Man)

Julia Stiles
(Nicolette - CIA-Woman、盗聴担当)

見た時期:2002年7月

ストーリーの説明あり

原作は80年代に出版された Robert Ludlum の小説。80年代後半にテレビ版もあったそうです。見ていませんが、こちらの方がいいと誉める人もいます。主演はドクター・キルディアのリチャード・チェンバレン。ドイツではテレビ・ドラマ将軍でカリスマ的人気のある人です。

映画版は誉める所が多いので少し長くなります。

9 デイズはコメディー、こちらはスパイ小説を映画化したシリアスな話ですが、両方とも冒頭非常に観客をわくわくさせ、期待を持たせます。カメラは暗いのですが、暗過ぎず、いい按配に何か怪しい事件が起きるという予感を起こさせます。この種の映画はこういう風にして始まらないと行けません。偶然か必然か両方ともチェコが制作に関連しているようで、雰囲気は非常に似ています。似た物を同じ月に2回見せられても腹が立たないということは、両方とも力の入った作品だということでしょう。

ドイツではまだ公開されていませんが、井上さんも声援していたフランカ・ポテンテ(このサイト、下までスクロールして下さい)が主演な上、世界的に有名な俳優と共演するというので大分前から話題になっています。ポテンテはちょっと前まで一緒だったヘブンの監督トュクヴァーと別れたようで、最近はロード・オブ・ザ・リングのイライジャ・ウッドと一緒だと噂されています。(後記: その後また別れたとか、いや、カップルではなかったとか、雀が色々囀っております。)

最近年を取ったせいか、「この俳優がこの映画に出て得をしたか、この監督がこの映画を撮って得をしたか」ということを考えるようになりました。ヘブンを撮ってトュクヴァーが得をしたかと聞かれると、誰もそんな事は聞いていませんが、私は「あまり得をしていない」と答えます。損は無いでしょうが、あまり前進していません。反対にデイモンとポテンテはこの作品に出てレパートリーを広げたと思います。それもただ新しい役に挑戦したというだけでなく、存在感を出しています。こういう地道な成功を重ねてカバーできる領域を増やして行くと、息の長い俳優になれるのではと思います。ポテンテは特にハリウッドにこだわっていないようなので、将来欧州の映画にもたくさん出るのではないかと思います。

リアリズムを宣伝しているわりにアラはあるのですが、語り口が上手で、2人の主演があまりアホな事をやらないので、アラはつい忘れそうになります。差し引き計算すると、プラス。

なかなか出来のいいオープニングに加え、デイモンのアクションが「よくトレーニングしてある」といった感じで、形式だけ空手の型を見せ、相手が勝手に倒れるのとは違います。ポテンテと2人で逃げ回る車のアクションも長さが充分であまり端折っていません。パリの町並を知っている人がいたら教えて下さい。あの道をあんな風に走って生き延びられるんでしょうか。普段はもっと歩行者などもいるのではありませんか。とにかくアクション・シーンもたっぷり。

筋を軽く説明。肝心の所はばらしません。

パーフェクト・ストームの一歩手前といった天候のもと、漁船が死体を拾い上げます。土左衛門だと思ったら生きていました。これがマット・デイモン演じるところの名前の分らない青年。この天候の中、何時間も水に浮かんで生きていたというのがどうも嘘臭いというのがアラの1つ。嵐の中かなり長時間水に漂っていたような様子。一応マルセイユ沖60キロの地点ということになっています。人間の体は冬でなくてもあまり長時間低温に耐えられるものではありません。一応保温作用のある衣服を着ていたことにはなっていますが、そのまま信じていいのか考えてしまいます。ま、とにかくこれで助かったわけですが、目が覚めてみると記憶がない!船医がそこいらの漁船の人にしてはやたら冷静で、彼の背中から弾数発、腰から何やらわけの分らない小型の機械のような物を取り出します。そのスイッチが入るとスイス銀行の口座番号が幻燈のように映る仕掛けです。(この銀行名の書き方がちょっと納得行かないんですが、その辺はパス。)

船が港に着いた時この親切な船医がお金までプレゼントしてくれるので、デイモン君はスイスに向かって旅立ちます。寄港した所がイタリアなのだそうですが、どうも漁業に詳しくないのでよく分かりません。大西洋風に見えたのは地中海だったんでしょう。

貰ったお金がそう多くないのにためらいもせず TGV に乗るというのがやはりハリウッド映画。TGV は高いんです。ま、そこは深く追求しないで、スイス銀行に到着。入ってみると彼の指紋が登録してあって問題なく貸し金庫へ。ここでなぜ銀行の人にちょっと事故に遭ったとか、事情を適当に創作して自分の身元を聞いてみる気にならなかったのか、と思ったのは私1人かも知れませんが。ここにもどうやら張り込みがいたようで、黙って帰ってよかった・・・。

チューリッヒの銀行員の話すドイツ語がドイツ人でもこうは行かないというほど純粋透明な標準ドイツ語。スイス人はドイツ人とは全然違うドイツ語を話し、無理してドイツ人の話すドイツ語を話しても、かなりきついアクセントがあります。ドイツ人がドイツ語を話しても、みなそれぞれ多少自分の出身地のアクセントを引きずっています。方言は別に恥じるものでないので、みなそれほど標準語にこだわりません。またデイモン君が銀行に来る前、公園で夜明かししていたら警官らしき2人に呼びとめられ、「身分証明書を見せろ」と言われます。その時の警官のドイツ語も全然それらしく聞こえませんでした。Ausweis (身分証明書)などと確かにドイツ語は出てきましたが。この後フランス語も何度か出て来ます。彼は数か国語に堪能という役ですが、フランス語については専門家に聞いてみないとよく分かりません。しかし一般に外国語に弱いと言われるアメリカ人としてはずいぶん努力しています。

ここでおやっと思うのがデイモン君の着ているセーター。大スターなのに着の身着のままで汚らしい格好をしているところはリアリズムたっぷりでいいのですが、まず警官と遣り合う公園でヤッケを脱ぎ捨ててしまうというところがおかしいです。あの天候ではあのヤッケを着ていても凍死を心配した方がいいです。そして、ヤッケを失った彼の背中を見ると5発分ぐらい穴が空いています。確か海から引き上げられた時は素肌の上に耐寒スーツを着ていて、その間にあんな貧乏臭いセーターは着ていなかったと思うんだけれど・・・、あのセーターは船医がプレゼントしたものだと思ったんだけれど、とまあ時々アラが出ます。それでもおもしろいと思わせるのはさすが。

ポテンテの英語はかなりすっきり決まっています。米語、ブリティッシュというアクセントがない一方、欧州の人独特のアクセントもありません。ドイツ系のアメリカ人の役なので、多少ドイツ訛りがあっても許されるはずですが、ドイツっぽさはありませんでした。時々ドイツ語を話すシーンがあるのですが、口から出るのは主に Scheiße (「シャイセ」と読みますが、まだドイツ語をきちんと習っていない人は使わない方がいいです。誤解されると行けませんし、あまり品の良い言葉ではありません。「くそ」とか「こんちくしょう」という意味)で、これだったらわざわざドイツ人の俳優を呼んで来なくてもいいです。

話を元に戻して、貸し金庫の中身を見てからは無論そう気楽に人に聞いてみようという気にはならないでしょう。札束が山ほど、武器、高そうな時計、パスポートが何冊も、パリのアパートの住所など、どう見てもまともに説明のできない物がいろいろ入っています。パスポートの1部には1969年生まれとあり、映画ができた頃には30歳ちょっとということになっています。それにしては彼は若く見えます。お金などをバッグに入れて銀行を出、アメリカ領事館に出向きます。すでに後をつけられている気配。領事館内でデイモン君は窓口で「グリーン・カードをよこせと言ってるんじゃない。学生ビザをくれと言ってるのよ!」と山ほど書類を並べて怒りながら交渉しているポテンテを見かけます。その時デイモン君は「そこの赤いバッグの男、止まれ!」と係員に止められ、ここから映画の最後まで追いかけっこです。必死に外へ出てポテンテを見つけ、助けさせます。助けてもらうというより助けさせるという言い方の方が合っています。その後彼女は災難に巻き込まれます。

領事館のシーンでおもしろかったのがデイモン君の逃げ方。状況を見ながら悠々と歩き、建物の見取り図を壁から引き剥がし、歩行中にしっかと建物の構造を勉強しながら逃げます。行く先が上の階なので大丈夫かと心配しましたが、手馴れたもの。本当のスパイがこういう事をするのかは知りませんが、ユニークなシーンでした。監督は本物のスパイに関して詳しいようで、普通のスパイ映画とは違うシーンもありました。

これだけ詳しく書いても冒頭をかすっただけです。この後デイモン君が本当は誰なのか、なぜ追いかけられているのか、CIA が絡んでいるようだけれどなぜ、一体事件全体では誰が誰のために何をしているのかなど謎だらけです。その上危機、また危機に襲われる2人はどうなるか・・・、ではまた来週、ではなく、2時間すればおとしまいはつきますが、あまり簡単に先は読めません。

見終わって2人を祝福したい気分でした。感激するようなタイプの映画ではありませんが、ことポテンテに関してはトュクヴァーの段階から1歩先に、それもいい方向に進んだという感じです。マット・デイモンの出る映画はほとんど見ていないのであまり比較できませんが、これまでの記事やポスターのサニー・ボーイのイメージから抜けるのにはいい役を貰ったと思います。その上(スクリーン上で)顔見知りの渋い俳優が3人、キラーに扮して活躍。唯一ミスキャストだったのは女性諜報員。同じような役を演じた女性が 9 デイズにもいましたが、そのブルック・スミスに完全に負けています。あの作品はドイツではぽしゃってしまったようですが。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ