映画のページ
2005 F 92 Min. 劇映画
出演者
Yvan Attal
(Francois Taillandier - 翻訳家)
Sophie Marceau
(Chiara Manzoni - 税関吏)
Sami Frey
(Akerman - キアラの上司)
Daniel Olbrychski
(Nassaiev - ロシア・マフィア)
Gilles Lellouche (Muller)
Samir Guesmi (Driss)
Dimitri Rataud (Perez)
? (Anthony Zimmer - マネーロンダリングをやっている犯罪者)
見た時期:2005年8月
はっきり言いましょう。私はソフィー・マルソーもイヴァン・アッタルも好きではありませんでした。少女時代のマルソーはまるで知りませんし、大人になってからのマルソーは気難しいとかで、出る映画で良いと思ったものがありませんでした。アッタルはボケーっとした印象で、今一つ締まりがなく、パンチに欠けています。そういう映画を見てしまった私の運が悪かったのでしょう。
いずれにせよ嫌いな2人が出るというので見ない予定にしていました。ところが《意外と良い》という話が他の都市から伝わり、組み合わさっていたのがアメリカ映画だったので、じゃ、見てみようかということになりました。新しいアメリカ映画ですと比較的楽にDVDで借りることができるのですが、フランス映画は意外と来ないのです。去年のファンタに出た超恐い映画でもなかなか店に来なかったものがありました。それで《選ばなければならない時はフランス映画をファンタで見ておいて、アメリカ映画は店で借りる》という図式が最近出来上がっています。
《マルソーの出る洒落た映画だ》というふれ込みは全然信用しておらず、どうせまた見掛け倒しだろうなどと失礼な予想を立てていました。ところが他の都市から伝わった噂は本当でした。《意外と良い》という表現はぴったりでした。
この役にモニカ・ベルッチを起用することもできたとは思います。マルソーのファッションはベルッチをかなり意識しています。撮影する時は青空、その辺の景色を明るく撮り、女優には黒を強調したファッション。特に黒眼鏡、いえ、サングラスを粋にかけて・・・。いつものように滅多に笑わないマルソー。「なあんだ、またあの手か」と思いはしたのですが、何かがちょっと違います。フランス女優を出しておいて、黒や白を強調しておけばお洒落映画、まあ、そういうのも確かにありますが、マルソーとアッタルはそう思わせておいてちょっといつもと違う路線を走っていました。
話の発端は間抜けなツーリストのアッタル演じるフランソワ。職業は翻訳。ジェイソン・ボーンも乗っていたというTGV(電車・大きな・速度の略=高速電車)に乗っていたら、同じ電車に乗り合わせたマルソーのキアラに誘惑されて高級ホテルまでのこのこ。税関吏のキアラが彼を誘惑したのにはわけがありました。
キアラは怪盗アンソニー・ツィンマーの愛人。フランスやアメリカでは多分ズィンマーと呼ぶのでしょうが、これ、元々ドイツ語の名前。で、このページではドイツ読みで通させてもらいます。ツィンマーという男はロシア・マフィアともつながりのある大悪党で、本職はマネー・ランドリング。汚いお金をお洗濯するのが商売なのだそうです。ところが整形手術をしたりして姿形を変えているので、愛人のキアラにすら現在の彼の顔が分からないということになっております。
整形で顔が分からなくなってという話は皆さん某元故ソウル・シンガーでご存知でしょう。最後の年の彼の顔をファンが見分けられるのは彼が変わって行く過程をメディアが逐一報道していたからで、もし家族バンドをやっていたの頃の彼からいきなり最後の年の顔で登場したら、私たちには見分けがつかないかも知れません。現代の技術はその程度進んでいるわけです。
しかしその程度で驚いては行けません。ジョン・トラボルタ、ニコラス・ケイジ主演のジョン・ウーの映画をご覧になった方もおられるかと思います。あれを見た時私は現代に限りなく近づけた SF と思っていました。ところがああいう秘密の刑務所が本当にできているだけでなく、ああいう風に顔の皮を張りつける技術ももうアメリカでは完成しているのだそうです。これを知ったのはつい最近のこと。重傷の火傷で顔をほとんど破壊された人に死者の顔を移植するという形で行われるのだそうです。
これが他人事でなくなったのは今年に入ってから。ある知り合いが過去に私よりずっと重傷の火傷を負い、その人がその後火傷の負傷者のロビー活動をやっていて、耳に入った話です。この人は自分の顔がかなりやられたにも関わらずこういった手術の実施には反対で、同じくかなり顔面に損傷の生じたその人の仲間の1人も反対しているそうです。私も最初は顔の一部と顎、首、耳の周囲などをやられたので、他人事ではありません。幸い現在ではかなり回復していて、ここに移植手術をする必要はありませんが、世の中何が縁でどんな体験をするか分からないものです。
例えばこういう技術を悪用すれば冷血バイオレンスマスク 銃弾のえじきのような映画ができるわけで、この知り合いも「一体どこまでやれば気がすむのだ」と発言しています。そこまでして顔を修復する必要があるか、他人の顔を自分にくっつけて幸せに暮らせるのかと疑問を発しているのです。
私が顔の一部までやられたのに比較的のんびりしていたのは、義務教育の時代に顔、上半身が跡形もなく破壊される重傷火傷を負ったクラスメートがいたからです。彼はクラスでは普通に受け入れられていて、いじめをする人もおらず、優しい性格はクラスメートに良い印象を残したものです。本人の考え方、キャラクターが勝負だという良い例です。
幸いこの手術はそう簡単にできるものではないので、マフィアが毎月新しい顔で警察を誤魔化すほどの量産はできません。しかし顔に大きな傷を負った人までが「ありがた迷惑だ」と言っている事実、関係者の人に良く考えてもらいたいところです。
ツィンマーはキアラにぞっこん、そのキアラはツィンマー捜査に深く関わっています。この間抜けなツーリストがツィンマーと似た体型なのを幸いに囮に使ってやろうとばかりに誘惑したのです。警察や税関はキアラを見張っていればツィンマーが現われるだろうとの予想。一方ツィンマーのダブルを用意してベランダでこれ見よがしにキスをして見せればツィンマーと取引をしているロシア・マフィアも引っかかるだろうと、まあ一石二鳥を狙っているわけです。案の定フランソワはマフィアに狙われ、命からがら逃げ出す羽目になります。怯え切って警察に届けたのはいいのですが、担当刑事が殺されてしまいます。死人が出るとなると好奇心でホテルに行った翻訳者ものんびりしている場合ではありません。
キアラは最初から何かの計画に参加しているらしく、上司アッカーマン(これまたドイツ語の名前)や S.W.A.T. と一緒にツィンマーの家で張り込み。ようやくキアラを見つけて脅すマフィアの登場。離れた所から望遠鏡で見張っている上司はキアラを助けに行かない。そこでキアラに惚れ込んだフランソワはたまりかねてキアラ救出に飛び出します。素人がこういう捜査に1人で飛び込むとろくなことはありません。
結局ロシア・マフィアは皆殺しという形でやっつけることはできますが、ツィンマーはまだ現われません。職業が税関吏だと知っていてもキアラに惚れ込んでいるツィンマー、そこに是非つけ込みたいアッカーマン、上司との息の合ったティームワークで捜査に協力しているキアラ、そしてまだ来ないツィンマー。ここから先はばらしてしまうと興醒めになるので止めておきます。
見終わっておしゃれなフランス映画と言われると、「確かに」と言いたくなります。マルソーにイチャモンをつける気にならない最初の映画です。間抜けなフランソワを演じるアッタルも温和そうな体型、表情がぴったりで、文学か語学を勉強して翻訳者になったと言われると納得しそうな雰囲気を出しています。そしてハリウッドよりは一味か二味気の利いた結末。やはり今回はベルッチでなく、マルソーにしておいて良かったと納得の行く配役でした。
PS 暇な人はアルセーヌ・ルパンと比べてみて下さい。フランス人は怪盗がお好きなようで。
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