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2002 F 114 Min. 劇映画
出演者
Rebecca Romijn-Stamos
(Laure Ash/Lily - 宝石泥棒)
Eriq Ebouaney
(Black Tie - 宝石泥棒)
Edouard Montoute
(Racine - 宝石泥棒)
Rie Rasmussen
(Veronica - 宝石を身に着けたモデル)
Antonio Banderas
(Nicolas Bardo - パパラッチ)
Peter Coyote
(Bruce Watts - 在仏アメリカ大使)
Fiona Curzon
(Stanfield Phillips - 大使秘書)
Thierry Frémont
(Serra - 刑事)
Salvatore Ingoglia
(トラックの運転手)
Gregg Henry
(Leonard Shiff - 大使館の警備関係者)
見た時期:2006年5月
離婚前、まだガリガリに痩せていた頃のジョン・スタモス夫人、レベッカ・ロメーン・スタモスが主演。やや肉付きが良くなったX−メン・シリーズの方が健康そうでいいです。役名通り神秘的でした。元々モデルだったそうで、痩せているのは職業上当然なのかも知れません。ファム・ファタールは彼女を中心に据えて、できるだけ良い所を出そうとしてありますが、彼女の生かし方はブライアン・シンガーの方が1枚上手でした。しかし、ファム・ファタールは彼女の代表作に数えるにふさわしいと言えます。
全編にモーリス・ラヴェルのボレロをパクったような曲が流れ、きれいなカメラで撮った作品。優雅な作りにしようとの努力が見えます。有名な曲をパクらされてしまったのは坂本龍一。依頼主に具体的にそう頼まれてしまったので、仕方ありません。
私にとってのブライアン・デ・パルマの皮切りはキャリーですが、殺しのドレス以降冴えた作品を見かけませんでした。ファム・ファタールは一頃のシャープさに欠けますが、それでも全体のまとまりは良い方です。それまであまり彼が得意とする分野でない仕事が回って来て、不本意な出来だったのかも知れません。それに比べるとファム・ファタールはパルマ・ファンの私には不満の少ない作品でした。
よくヒッチコックの再来などとスリラーの大御所と比較される人ですが、不発弾が多かったです。ところがファム・ファタールではしっかり居直って、ヒッチコック・タッチを随所にちりばめ、そういう意味での成功作と言えます。パクるならしっかりパクれと私は思うのですが、ファム・ファタールは気合が入っています。
何よりもまずレベッカ・ロメーン・スタモスにかつてのヒッチの主演女優を思い出させる扮装をさせ、上品、セクシーな女性に見えるように作り上げています。特に思い出されるのがティッピー・ヘドレン。メラニー・グリフィスのお母さんです。そして筋の方はヘドレンが演じたマーニーをちょっと拝借。しかし完全な真似ではなく、マーニーのイメージを発展させたような感じを受けます。パクるだけなら物真似で終わってしまいますが、パルマは元ネタからインスピレーションを受けて自分のバージョンを作るという方式を使い、でき上がりはとてもきれいです。これだったらオリジナルもパクられ甲斐があろうというものです。
そこへドイツ語で《男の空想》と言われる男性の本音が飛び込みます。どうも女性はできるだけ薄着がいい、あばずれがいい・・・というのが国際的に通用する本音のようで。デ・パルマはその本音と建前両方をたっぷり取り入れてファム・ファタールを作り上げました。時代の要求からかヒッチは片方しか表現できなかったようです。東洋の男性に比べ、欧米の男性は女性に積極的に誘惑されたいという気持ちが強いらしく、故岡田真澄氏が普及させていたロマンティックな紳士のイメージよりも、アントニオ・バンデラスのように女性にめろめろにされてしまうの大好きという人が結構いるようです。所変われば品変わると言いますが、メンタリティーもかなり違う様子。
ファム・ファタールを最後まで見ると腹を立てる方もおありと思います。デ・パルマは作品中にしっかり「引っ掛けてやるぞ」というサインを出していて、私もヒントは目にしたのですが、まさかこんな展開になるとは思っていませんでした。しかし引っ掛けられても腹の立たない作品で、それが「上手くまとめた」と言う理由です。ま、あれだけ楽しませてくれたのだから、引っ掛けられても文句は言うまい・・・。
ミッション・インポシブルの映画版からも少し引用。これは自分が両足突っ込んで関わったのでパクリとは言いませんが、雰囲気の一部が似ています。ミッション・インポシブルは興行成績は良かったようですが、私にはデ・パルマの成功作とは見えませんでした。しかし転んでもただでは起きない、ちゃっかりその時の経験をよそで生かしています。
ストーリーはバーバラ・スタンウィックの映画を見ている裸の女性のシーンからスタート。筋の暗示が始まりますが、本編を追って行くのに、ここで気付かないから困るということはありません。
横になっている裸の女性ロールがレベッカ・ロメーン・スタモスで、宝石強奪を計画している犯罪者ティームの1人です。犯行に選んだ場所は豪華で2001年度カンヌ映画祭。2001年と言えばコーエンやリンチが監督賞を貰った年。カンヌには映画に直接関係のない人でも豪華な衣装を着てゲストとして招かれたりしますが、一味が狙っているのは間もなくブレークする予定のリエ・ラスムスセンがベロニカ役で身にまとっている豪華な金とダイヤの衣装。というか、繊維は全然使っておらず、上半身は金属と宝石だけです。
ラスムスセンもモデル出身だそうで、ロメーン・スタモスに近い体格。モデルを使うのが好きなリュック・ベソンが間もなく彼女を大々的に売り出す予定のようです。ベソンはこれまでにもモデル出身の女性を女優として使っていますが、フランスにはモデルからすぐ移行できる女性が何人もいるようです。
トム・クルーズ一味のように宝石泥棒一味は詳しい調査の末、綿密な計画を実行に移します。ロールはカメラマンとして会場に入り込み、豪華な宝石を身に着けたベロニカはトイレに行きます。ボディー・ガードがついて来ますが、女性トイレまでは入って来ません。そこで待っていたのが顔見知り風のロール。ベロニカとなにやらレズビアン風にキスを始め、徐々に彼女の飾りを体から取って行きます。あらかじめ隣のトイレに隠れていた一味のボスがロールが床に落とす宝石を次々に偽物に取り替えて行きます。あまり長い間ベロニカがトイレから出て来ないので、ボディー・ガードがチェックに入り、泥棒発覚。格闘、撃ち合いになり、負傷者はボディー・ガード1名、宝石泥棒のボス1名。宝石を持ってトンズラはロール、警察などに保護されるのがベロニカ。ボスは逮捕され懲役7年。
トンズラをしたロールは地下に潜っていましたが、教会の前でパパラッチことニコラス・バルドーの目にとまり、写真を撮られます。教会の中では初老の夫婦に娘と間違えられて追いかけられ、パパラッチは興味を持ちます。
これがあのアントニオ・バンデラス。欧州に住んでいると彼のようなタイプの男性は毎日目にするので、一体なぜハリウッドでマドンナまでが彼に目の色を変えるのかさっぱり理解できませんが、彼はごく普通の容姿。きっとバンデラスは誰に対しても立ち居振舞いが素敵でメラニー・グリフィスが始終やきもきしているのでしょう。そのグリフィスはしかしバンデラスにこの役を演じるように薦めたそうです。
ロールの役に最初予定されていたのはウマ・サーマン。サーマンは大味な印象で、ロールの役はロメーン・スタモスの方がいいように思えます。しかし2人とも悪女の部分の説得力がやや欠けるかと思えます。1人の女優が善人と悪役の両方をしょっちゅう演じるというのはなかなか難しいようです。
泥棒ロールは教会にいた初老の夫婦にとっては娘のリリー。ロールは高級ホテルに入り、夫婦を巻いたと思いますが、ホテルの部屋では元一味の1人に見つかり格闘になって、上の階から突き落とされてしまいます。ガラスを突き破ってなにやら柔らかいものの上に落下したので、軽症。初老の夫婦は彼女を娘だと思って家に連れ帰ります。
これを機にロールの行方はようとしてつかめなくなります。彼女はリリーに成りすます決心をし、成功。夫と幼い子供を失ってちょうど未亡人になったばかりなのが本物のリリー。人生をやり直すために外国行きの切符とパスポートを用意していましたが、ロールがティケットを失敬してポケットに入れていたため見つからず、リリーは絶望のあまりロシア・ルーレットという方法で自殺を試みます。
都合良く身代わりが現われてくれたので、チャンスを利用してアメリカ行きの飛行機に乗り込んだロールは隣の席のブルース・ワッツという中年男性と知り合いになります。IT産業で成功し、今度は政界に打って出ようとしているところ。なぜか独身。7年後は妻帯者。ロールが妻におさまっています。
金持ちで楽しい生活が続いていたらしいのですが、夫ブルースがフランスのアメリカ大使になり赴任。当然ロールもついて行きますが、あまりうれしくない様子。そりゃそうでしょう。旧悪がばれるかも知れない。当面は警備の関係で私生活は見せないとか言っておけば良くて、ちょっと前までベルリンに住んでいた某国大使のような派手な社交生活は避けて通れますが、いずれはどこかに顔写真が載るでしょう。その運命のために用意されていたのがバルドー。公に顔を出すのを嫌がると却って狙われるらしく、ついにバッチリ顔を撮られてしまいます。
バルドーのおかげでムショ暮らしの7年を終えた泥棒一味と、嫌々パリに来た大使夫人に接点ができてしまいます。一味は取り敢えずカメラに顔を向けない長身の女性を見つけ責め立てます。その時トラックが来て、彼女は車の方に投げ捨てられてしまい一巻の終わり。この現場にちょうどバルドーがスクープした写真のポスターが張られ、一味は大使夫人の顔に気付いてしまいます。
バルドーは大使夫人をつけまわし、彼女が大使夫人らしからぬ行動をしていることに気付きます。赤線地区で誰かに金を渡し、ピストルを買っているのです。大使夫人を追うバルドーを追って見張っている者もいます。顔に青アザを作って、ピストルを買う大使夫人を見て短絡なバルドーは自殺説を取り、止めなくちゃと強引に大使夫人に近付きます。
パパラッチのおかげでひどいことになったと苦情を言う大使夫人。その彼を上手に誑かして、自分はトンズラ。バルドーには誘拐の罪を擦り付けます。パパラッチを逮捕してみたものの夫人の命が危ないと思っているワッツ大使は事を荒立てたくないため、何事もなかったふりをし、そのためバルドーは釈放。しかし家に戻ると自分が誘拐犯としてはめられていることが分かります。
ロールの計画は夫から大金をせしめ再び身を隠すこと。嫌疑をを晴らしたいバルドー、妻を取り戻したいワッツ、金を取ってトンズラしたいロールが夜中に橋に集合。そこで死者2名、トンズラ1名。・・・って言うじゃない。
ここで映画の途中で目にしたある文字が生きて来ます。騙された、チックショー。
ロールの運命はこれで絶体絶命ではなかったのです。強運。
基ゐ、7年後。元泥棒たちはまた長身の女性を責め立てます。そこへ再びトラックが。今度は彼女が轢かれるのではなく、トラックは2人の男たちに災厄をもたらします。どういう説明になるかはご自分でご確認下さい。
英語も多く出て来ますが、舞台はほぼフランスで、制作もフランス。コヨーテなどという渋い俳優を連れて来るなど粋な計らいがあります。当時の旦那だったジョン・スタモスも顔を出しています。バンデラスはハリウッドで貰う役に満足しているんだろうかと思うことが多いですが、ファム・ファタールのパパラッチ役は不自然さが無くて良かったです。
監督としてはまだそう年寄りでないデ・パルマ監督。この作品の後、ブラック・ダリアもほぼ完成。これがスリラーにならないはずはなく、彼の本領が発揮されているかも知れません。
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