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ブラック・ダリア /
The Black Dahlia /
Le Dahlia noir /
Black Dahlia /
Dália Negra /
La Dalia negra

Brian De Palma

2006 D/USA 121 Min. 劇映画

出演者

Josh Hartnett
(Dwight Bleichert - ボクサー上がりの刑事)

James Otis
(Dolph Bleichert - ドワイトの父親)

Aaron Eckhart
(Leland Blanchard - ボクサー上がりの刑事、ドワイトのパートナー)

Scarlett Johansson
(Kay Lake - リーランドの内縁の妻)

Hilary Swank
(Madeleine Linscott - 企業家の娘)

John Kavanagh
(Emmet Linscott - 企業家、マデリンの父親)

Fiona Shaw
(Ramona Linscott - マデリンの母親)

Rachel Miner
(Martha Linscott - ラモナの娘)

William Finley
(George Tilden - リンスコット家の雑用係)

Mia Kirshner
(Elizabeth Short - 俳優志望の女性)

Kevin Dunn
(エリザベスの父親)

Mike Starr
(Russ Millard)

Patrick Fischler
(Ellis Loew)

Richard Brake
(Bobby DeWitt - ケイトの以前の愛人)

Brian De Palma
(エリザベス・ショートのスクリーンテストをする監督 - )

k.d. lang
(バーの歌手)

見た時期:2007年3月

ばれるというほどではありませんが、ラストがやや暗示されます。できれば先に作品を見てから読んで下さい。

★ 実際の出来事との絡み

ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男で、まず事件があって、それを後に劇映画にした作品を扱いました。ブラック・ダリアもその系統の話です。

ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男にはあの映画通りだったかも知れないという可能性が残るのに対し、ブラック・ダリアには明らかに違いがあります。ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男は警察などが調査をした結果、殺人として立件するほどの確たる証拠が見つかっておらず、ドラッグと酒は一応ジョーンズの体内から見つかっているので、それででき得る穏当な説明として、事故とすることで折り合いがついたようです。殺人となれば犯人というものがあり、逮捕しなければなりません。近くにいた人に沈黙されてしまうと手が出せないという面もあります。また、万一映画で描写されたフランクという人物が犯人だったとしても、彼は常習の殺人犯などではなく、1回切りの出来事を一生自分の頭に収めてそのまま墓に行くか、ずっと後になって誰かにそれを知らせるかで、一般市民への危険は非常に少ないのではと思います。それに対し、ブラック・ダリアの方は危険極まりません。常習犯の可能性も最初から浮かんでいます。

映画ブラック・ダリアはジェイムズ・エルロイの小説の映画化で、L.A.コンフィデンシャル と同じパターンで始まり、終わります。エルロイは意識して同じパターンで4作書いているので、マンネリという言い方は当たらないかも知れません。

カリフォルニアにブラック・ダリア事件というのが実際にあり、それをモデルにして書かれた小説ですが、事件と全く同じというわけではありません。実際の事件は迷宮入りしています。小説には実際の事件の要素が使われていて、全体はエルロイの創作になっています。

★ 実際の事件

起きたのは戦後間もなくの1947年。若い女性の猟奇事件です。死体はホラー映画にしか出て欲しくないような損壊ぶりで、犯人の残虐な意図が至る所に現われています。特に良く知られているのは、死体が中央部で完全に切断され、2つの物体になっていたことと、口の両側を切り、バットマンに出て来たジャック・ニコルソンやヒース・レジャーのような格好になっていた点。しかも他に拷問を受けたらしい形跡と、苦しみが長く続いたらしい形跡があります。

被害者の身元は間もなく分かります。東海岸からハリウッドへ女優になろうと思ってやって来た、死亡当時22歳の女性でした。マルホランド・ドライブのナオミ・ワッツのように夢を抱いてやって来たのでしょう。そして間もなく転落が始まったのでしょう。映画に出演することもなく、お金のからむセックス稼業に乗り出し、ある運の悪い日に悪い相手にぶつかり、拷問されて死体になってしまったのでしょう。事件は迷宮入りしているので、「でしょう」としか言いようがありません。犯人が男か女か、複数か1人かも分かっていません。彼女の死体の状況から取り敢えずはかなりの力仕事ができる人間1人か、あるいは複数と想像するしかありません。

警察がいんちきをする気だったら、材料には事欠きません。自分が犯人だと名乗り出た人が3桁の数にのぼり、冤罪でもいいのならいくらでも犯人を作り出すことはできました。映画ブラック・ダリアにもあるように警察では堂々とインチキがまかり通っていました。しかし警察は今回はそうはせず、偽の自白をした人には皆お引取り願っています。

犯人自身は身元を隠すための手段をよく知っていて、指紋の類は残っておらず、CSI が欲しがりそうな証拠はきれいに洗い流されていました。直接の死因は胴体切断のようで、その時点まで生きていたのではというおぞましい話を聞いたことがあります。

事故、偶発的な出来事、怒りにかられて突発的にやった殺人などの可能性をゼロにしてしまうのは、彼女が長時間苦しめられたらしいことを示す検死結果と、後に犯人から送りつけらてて来た品のため。結局自称犯人として名乗り出た人たちの中からは有力な手がかりは得られず、事件は迷宮入りとなりました。

★ 事実は小説より酷い

犯人にかなり近い所まで迫ったジャーナリストががいましたが、それはメディアの大物に差し止められて報道されていません。デ・パルマの映画にはそのあたりがやや形を変えて描かれています。スウォンク演じる金持ちのお嬢様という人が実際に事件関与で浮かんでいます。そのお嬢様も、犯人かもしれない人物も死亡。情報源は警察関係者で、未公開資料と一致する事実が浮かんでいます。

小説にはいくらでもおぞましい話を創造して書く事ができますが、ブラック・ダリア事件の検死報告は普通の神経を持った一般人には自分が読んだどんな犯罪小説より酷いと思わせる事実が羅列されています。写真などを見ず、話を聞いただけでも無力感に襲われます。その印象を嫌が上にも強めるのは彼女の外見がかなり魅力的だったから。そしてハリウッドという夢がかなえばゴージャスな人生が待っており、乗り損ねると地獄という土地柄も作用しているでしょう。

最近は残虐なホラー映画が増えており、描写もどんどんリアルになっていますが、ブラック・ダリア事件の検死報告に比べるとソウ(1)などはチョロイと言えます。実は私はソウ(1)ですでにげんなりしてリタイア。ソウ2ソウ3 はパスしています。私はファンタが大好きでありながら弱虫なのです。

★ パルマ不調

ブライアン・デ・パルマもそうだったのでしょうか。いずれにしろ、リサーチでエリザベス・ショートの検死報告は読んだでしょうに、映画ブラック・ダリアは驚くほど控え目に作っています。大胆な演技をしてもいいはずのヒラリー・スウォンクも下品にならない程度で押さえています。事件の実情を捻じ曲げたと言っていいほど地味に押さえています。あるいはエルロイの原作がそういう風にブレーキをかけて書かれているのかも知れません。私はまだ読んでいないのでその辺は何とも言い難いです。

上に書いた事実かもしれないジャーナリストの記事によると、犯人は男性1名。映画ブラック・ダリアでは死体処理他を含め複数の人間が関与しています。小説や映画の素材としてはその方がおもしろいです。

そういう、映画にするとおもしろいものができそうな素材をデ・パルマ監督は使い切れず、せっかくの素材が無駄になった感をぬぐえません。プロットは他の監督に撮らせたらゴージャスな犯罪映画に仕上がっただろうと思います。キャストも豪華で、女性軍は今飛ぶ鳥を落とす勢いのスカーレット・ヨハンソン。有名監督からどんどんお呼びがかかる人です。その真横に並ぶのが、あの若さですでにオスカー2個のヒラリー・スウォンク。私は田舎の姉ちゃんを演じる彼女が大好きです。ミリオン・ダラー・ベイビーに示されているように実際の彼女もジリ貧の生活から上がって来た人で、庶民を演じるのは楽かも知れません。しかしブラック・ダリアで金持ちのお嬢様を演じて、そちらも行けることを示しました。そこにブラック・ダリアを演じるあまり有名でないミア・キルシュナー。3人のバランスがいいです。そこへ若手と中堅の男性2人。ジョシュ・ハーネットはパラサイトに出た後順調に駒を進め、有名な俳優の重要な共演者か、主演が続いています。アーロン・エックハルトはヒラリー・スウォンクとはなじみで、あのすばらしいザ・コアで共演しています。詳しくは ザ・コアの方を見ていただくとして、2人は他の共演者とも協力して、どうしようもないダメな脚本を信じられないような楽しい冒険映画に仕上げました。

撮影は予算が節約できる欧州。そこにハリウッドの町並みを再現。つまり、十分おもしろくなりそうな題材があり、演技は任せておいても大丈夫な俳優とネームバリューがある俳優が揃っているので観客も入りそう、貰った予算を最大限活用できるように欧州へ移動と、制作段階からかなり期待を持たせた作品です。

ところが仕上がってみると拍子抜け。似たような経験はアンタッチャブルでもしたような気がします。私が見た作品がたまたま外れだったのかも知れませんが、

の中では

の3本に感心しています。他は失望でした。ヒッチコックといい勝負だと言われている監督としては弱いです。しかし下の3本を見る限り、実力が無いわけでもないので、何がデ・パルマにブレーキをかけてしまうのか知りたいところです。

★ 出演者

キャスティングもちょっとズレがあったかと思われます。元々出る予定だったマーク・ウォールバーグを外したのは正解かも知れません。私はウォールバーグは嫌いではないのですが、ブラック・ダリアには合わないように思います。ヒラリー・スウォンクはまあまあ行けるでしょう。彼女の側の努力もあったのかも知れません。アーロン・エックハルトもジョシュ・ハーネットと組ませるのは一応受け入れられます。

それに対し、外れと思ったのはスカーレット・ヨハンソン。彼女はロスト・イン・トランスレーションで見ていますが、あちらの方が良かったです。ダメな女優ということはありません。しかしブラック・ダリアでの使われ方はピンとが合っていません。ラストから考えるとL.A.コンフィデンシャルのキム・ベイジンガー的な機能を持った女性。しかしストーリーからすると、ラストでジョシュ・ハーネットがする決断にふさわしい女性ではありません。監督は彼女には思いっ切り下品に演じさせています。彼女を上品に描けば良かったのかと言うとそういうものでもなく、ストーリーに必要なら下品でも構いません。しかしエド・ウッドが着るようなセーターを着て、無理な姿勢で胸を目立たせたり取ってつけたような様子が見られます。スムーズに役に入って行けなかったのか、あるいは監督の指示だったのか分かり難かったです。ヒラリー・スウォンクとは全体を対照的にしてあって、ヨハンソンは白を強調する衣装、スウォンクは黒を強調する衣装を着ています。

★ ピンボケ

ストーリーは焦点がややずれた感じで、事件の捜査よりも刑事のパートナー、内縁関係にある男女、恋人になったカップルなどの間に起きる不信感、裏切りに焦点が移ります。そのためタイトルにまでなっているブラック・ダリアことエリザベス・ショートの影が薄くなります。事件があまりにも酷いのでわざとそらせたのかも知れません。あるいはエルロイの原作がそうなのかも知れません。

事件が進むにつれ信頼を裏切られたように感じる主人公は別な見方をすると周囲の人に手玉に取られていたとも解釈できます。主人公の思い込みとは関係なく自分の欲望を実現させようとする周囲の人間。プロット、時代背景、土地柄などを見ると、すばらしいノワール系の作品になるかと期待を持たせます。しかしそれは見事に裏切られ、L.A.コンフィデンシャルよりインパクトの弱い作品になります。ブラック・ダリアにはあのセンセーショナルな死体があるので、もう少し何とかまとめることはできないかと思いました。

デ・パルマでなく、他の監督を起用したらどうだったろうと考えざるを得ません。元々はフィンチャーがやるはずだったそうです。カンサス・シティーを作ったアルトマンならもう少し何とかなったのでは、女優も3人の女性の役の1人にジェニファー・コネリーを入れたらどうなっただろうなど、あれこれ考えているところです。

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