映画のページ

ボーン・アルティメイタム /
The Bourne Ultimatum /
Bourne Ultimatum /
Das Bourne Ultimatum /
Jason Bournes ultimatum /
The Bourne ultimatum - Il ritorno dello sciacallo /
El Ultimátum de Bourne /
Bourne: El ultimátum /
O Ultimato Bourne /
Ultimato /
La Vengeance dans la peau

Paul Greengrass

2007 USA/D 115 Min. 劇映画

出演者

Matt Damon
(Jason Bourne, David Webb - CIAの暗殺者)

Scott Glenn
(Ezra Kramer - CIAの部長)

David Strathairn
(Noah Vosen - CIAの副部長)

Joan Allen
(Pamela Landy - CIA副部長の所に緊急配属された職員)

Julia Stiles
(Nicky Parsons - CIAのロギスティック、ジェイソンの昔の知り合い)

Paddy Considine
(Simon Ross - 英国ガーディアン誌の記者)

Edgar Ramirez
(Paz - CIAの暗殺者、イタリア)

Joey Ansah
(Desh Bouksani - CIAの暗殺者、北アフリカ)

Daniel Brühl
(Martin Kreutz - マリーの弟)

Colin Stinton
(Neal Daniels - ブラックライアー計画の首謀者、マドリッド支部)

Albert Finney
(Albert Hirsch - ブラックライアー計画の首謀者)

Tom Gallop
(Tom Cronin - パメラの助手)

Corey Johnson
(Wills - ヴォーゼンの部下、ブラックライアーの関係者)

見た時期:2008年1月

ドイツではボーン・アルティメイタムはボーン・ウルティマートゥムと言われます。ドイツ語ではごく一部を除いてアルファベットを素直にそのまま読むのでこういう発音になります。日本語のタイトルを見つけて来た時原題をカタカナにしただけなのだとは分かりましたが、ウルティマートゥムと言い慣れていたので切り替えが大変でした。

2002年のボーン・アイデンティティー 、2004年のボーン・スプレマシー に続く3作目です。これで多分打ち止めだと思いますが、無理やり4作目を作ろうと思えば作れないこともない余韻を残して完結します。ただ、これ以上作ると無理な筋になり、ゆるい作品になってしまう危険はあります。主演のマット・デイモンもこの次は出ないと言ったそうです。ここまで3回、気を緩めずやって来たのでしょうね。もしまだ1本もご覧になっていないのでしたら順番通りにご覧になることをお薦めします。

ドイツは以前ぱっとしない映画にお金を投資していましたが、最近はヒット作や、おやっと思うような作品に出資するようになりました。日本とは映画に対する方針が違うのですが、ハリウッドでそれなりに成功する時もあります。この作品はその意味で良い部類に入ります。お金を出し、3本作りましたが、しっかりドイツの町も撮影に使われていますし、ドイツでは圧倒的な知名度を誇る俳優も登場しています。

★ 駄作の映画化

映画ボーン・アイデンティティーには小説の原作があり、映画の出来の良さに感激して私は当時小説を読み始めました。ところが意外なほど出来の悪い本で、読んでいて呆れてしまい、後半は斜め読みだけで頓挫しています。よく立派な小説を映画化したらひどい作品ができたなどという論議がありますが、ボーン・シリーズは珍しく反対の例です。ボーン・アイデンティティー ができた頃「なぜあんなひどい小説を映画化する気になったんだろう」という疑問が沸いて来ました。実はドイツの雑誌などには原作は良く売れた優れた小説だというコメントが載っています。私はそれに引っかかってしまったのです。しかしそれには私なりの答が見つかりました。

小説家がどういう人か正確なところは分かりませんが、作者がこの小説で言いたかったのは「こういう事実があるぞ」ということではないかというのが私なりの結論です。著者に文才があるかどうかの問題ではなく、「みんなの知らない所でこんな事をやっているぞ」という「ご連絡」がそもそもの目的だったのではと特にボーン・アルティメイタムを見終わって思いました。

映画の方のボーン3作のストーリーは立派なスリラーであり、この時代に有名な俳優を使って、この時代に使える手段を駆使しての大活劇に出来上がっており、この時代にヒットするだけでなく、当分忘れられないのではと思います。ボーンと相対する敵役の俳優も真実味の出せるベテランが選ばれています。最近元から3部作ぐらいの計画を立てて作った、途中であまり手抜きにならないシリーズ物がいくつか出ています。映画ファンにはうれしい限りですが、その中でもボーンは出来のいいシリーズではと私は思います。予想外にヒットしたので後から急に続編を作った作品とは質が違います。

ボーン・スプレマシーの頃には脚本が間に合わずなどという噂が流れていたのですが、3作全部を見終わるとガサネタだったのではと思えて来ます。ボーン・スプレマシー からは監督が変わりましたが、ストーリのテンションは落ちておらず、全体に筋が通っています。ポテンテと最初お飾りに見えたスタイルズも計画的にキャスティングしていたらしいのです。唯一愚痴りたいのはボーン・スプレマシーから画面が非常に暗くなり、ボーン・アルティメイタムは特にカメラが暗い上に揺れ続け、酔いそうでした。主人公が走り回っているからと言って、カメラまで揺らさなくても良いのではと思います。この点だけがボーン・アルティメイタムの欠点と言えるでしょう。

全体的に誉めたいのは、主人公の置かれた立場以外は大胆にも原作を無視して作り直し、出来上がった脚本が小説よりずっとおもしろくなっている点です。小説では回想シーンが読むに耐えないのですが、映画では失笑が出ないような演出になっています。007 に負けるとも劣らない大胆な行動を取るエージェントが複数登場し、世界中ボーンを追い掛け回すのですが、そのため観客は欧州の重要都市やアメリカを旅することができます。そのシーンは現実的な撮影で、ベルリンのシーンを見た私は大いに納得したものです。「へええ、あんな所に CIA の建物があったのか」と近くを通るたびに思ったり(笑)、市電に乗るたびに、「これはニッキーとジェイソンが乗った電車だ」などと思い出します。そこから、他の都市の撮影もその土地の人が納得するようになっていたのではと想像しています。

原作の骨子は OSS から CIA に移行して少し経った頃のアジアから始まっていて、元々は今より普通の生活をしていたジェイソンが家族を失う出来事に遭遇します。それをきっかけにジェイソンは特殊部隊的な訓練を受け後に CIA の特殊な計画(トレッドストーン)に関わるようになり、その最中に記憶を失うというようなストーリーでした。その後は自分の記憶を求めて色々な人と接触し、自分がやっていない事件の犯人にされてしまいます。

映画ではこれを現代に移し、アジアがどうのという話は省略し、小説には出て来る兄弟もばっさり。 他の登場人物も配置換えし、出て来ない人も作ってあります。いくらか余韻を残しているのはフランカ・ポテンテでがらっとタイプを変えた恋人マリー。原作のマリーの役目をポテンテに与えておいて、キャラクターはかなり変えてあります。その代わりにイメージをチラッと残したパメラを加えています。原作のマリーはカナダで国に関わる仕事に携わっており、几帳面な仕事をする人になっています。そのあたりを CIA で几帳面な仕事をするパメラという風に変えながら付け加えたようです。原作のマリーの設定には無理があり、あんな目に遭ったマリーがボーンの恋人になり命を張って助けるのは絶対に変だと思うのですが、そういう矛盾はばっさり。そして後からボーンを援助し始めるニッキーにも役職を通して同僚に情報を貰うマリーに似た面をくっつけてあります。ただ、こちらにはあっと驚く理由があります。ボーンの小説は最初の1冊しか読んでおらず、小説の方でどういう展開になるのかは知りません。1作目で懲りてしまったので、情報不足です。

★ スタイルズ

小説ボーン・アイデンティティーには全く登場せず、ボーン・アイデンティティー ボーン・スプレマシー でもいくらかお邪魔虫に見えるロギスティックのニッキーが3作目で急に重要な役に昇格します。ボーン・アイデンティティー が作られた時から計画されていたのかは分かりにくいのですが、当時はジュリア・スタイルズがポテンテの役を得るつもりがポテンテに取られてしまったのではというような印象も抱きました。取って付けたかのような役柄だったからです。

私はスタイルズが嫌いでした。どの作品でも彼女でなければ行けないという感じもしませんし、自分が重要な役を演じるのは当然と言った様子が伺え、その割にはパッとしなかったからです。ところがボーン・アルティメイタムではそのイメージは払拭されます。彼女でなければダメという役ではないし、特別演技力を見せたわけでもないのですが、これまでの彼女のイメージとがらっと変わった姿を見せ、今までよりは好感を持ちました。何よりもお人形さんのような表情が消え、生身の人間風の演技に変わっています。

ポテンテに役を取られたのではないかという印象はボーン・アルティメイタムで納得の行く形で説明されています。彼女はポテンテにそっくりの姿で登場します。いくらか体重も落としたのではないかと思います。

★ 国家公務員の悪党

さて、1人が死んでも次が必ず出て来る悪党の方ですが、映画全体は原作と同じく CIA の内部告発のような筋になっています。ボーンが関わる部署では過去にトレッドストーン計画というのをやっていて、ボーンはその計画で生み出された CIA 御用達の殺し屋。有能な殺人マシーンの1人として機能していたのですが、ある日一種の職務中の事故で機能不全に陥り戦列から飛び出してしまいます。労災保険が降りてもいいようなものですが、CIA はそういう解釈はしません。ボーンはその際記憶を失ったので、自分のアイデンティティーを求めて諜報の闇世界をさまよい始めます。

ハンテッドも特殊部隊の訓練を受けた男が後でコントロールが利かなくなってしまったという話でしたからこういう話は時々あるのかも知れません。原作者がそういう話をしたかったのだとすれば小説のネタとしては当時は新しく、それなりに売れたのも当然かも知れません。

同じく CIA に努める女性パメラがボーンの件にベルリンから関わり、その過程で彼女は周囲の男性職員の行動に疑問を抱くようになります。ボーンの言う事にも一理あると分析し、彼女は必ずしも上司や同僚のいう事を鵜呑みにしません。その結果ボーン・スプレマシーのラストで彼女はトレッドストーンの秘密を嗅ぎ付け、ボーンのアイデンティティーにも近づきます。この件はこれで落着したはずです。

ここで CIA の職員として登場する人物はいずれも自分の都合で動いている者、ストレスでぎすぎすしている者など魅力に欠ける男女です。ちょっとした過去の事件を調べようにも、誰かの失敗を隠すために機密扱いになっていたりしますし、会議に出てもおよそ和やかとは言えず、脚の引っ張り合い。どのぐらいのサラリーを貰っているか分かりませんが、こんな仕事どこが楽しいんだろうと思ってしまいます。

★ 監視カメラが生む仕事

監視カメラが出て来る作品を見るたびに思うのですが、たくさんの監視カメラを町中に取りつけて、カメラが撮影した画像を監視したり、これまで集めた情報を検索する人が大勢必要。CIA の映画を見ると大所帯でコンピューターの前に座り、1日中検索のキーワードを打ち込んだり、カメラに映った人物をズームしたりしています。非常に生産性の悪い職業です。デジャヴでもどの役所か忘れましたがやはり大勢モニターの前に座っているだけの仕事をしていました。今後も世界中にどんどんカメラが取りつけられるでしょうから、CIA のような機関は今後もっと人員が必要になるでしょう。今世界的に不景気ですが、監視カメラ産業だけは儲かりそうですねえ。

このまま行くと究極の社会は、未成年、年金生活者を除いた成人人口の内、半分以上がこういう監視カメラの分析や検索に投入され、世の中は監視する職業に就いている人と、監視されている人だけになってしまいそう。先進国はお百姓さんや物を生産する人が激減傾向にあります。大丈夫かいな。しかしこの種の仕事は機械による自動化に限界があり、どうしても人間が必要になります。機械に管理させると後が怖いという SF がたくさんあるのはご存知の通りです。

私がそんな心配をしている間に映画の CIA はせっせと悪事を働いています。トレッドストーンという計画では表立ってやれない仕事、特に外交が限界に来た時に出動する暗殺を専門にするグループの養成が行われていました。こんな筋の映画作って大丈夫かいなと思いながら見ていましたが、アメリカには同じ事にたいてい2つ以上の意見が出ます。ま、上映中止になっていないので大丈夫だったのでしょう。

ボーン・アルティメイタムはイギリスの有名新聞ガーディアンの記者がボーンと彼に絡むブラックライアーという計画を嗅ぎ付けたところから始まります。ブラックライアーはトレッドストーンをグレードアップしたような計画です。ボーンは両方に関わっていたので1件目は落着しましたが、2件目がまだあったという話になります。

冒頭から驚かされるのが情報伝達の速さ。ジーン・ハックマン、ウィル・スミスが主演だった作品でも驚いたことがありますが、あっという間にカメラや盗聴機で目的の人物を探し当て、あっという間に刺客が送り込まれて来ます。その速度と動員力には驚きます。これもこの映画が見せたかった点ではないかと思います。一般市民だったらほとんど身を隠す方法がありません。ガーディアンのような一流紙のジャーナリストでもすぐ見張られてしまいます。このジャーナリストはあのガーディアンにしてはかなり間抜けなのですが、あっという間にばれて CIA に消されてしまいます。

こんな状態の中でジェイソンは捕らえにくいターゲット。彼がスーパーヒーローの面目を保っているところです。あっという間に国境を越え逃げてしまいます。ただ逃げるだけではなく自分の方でも特定の情報を追っているので、それだけ彼の諜報員としての能力が強調されます。これを見ていると 007 シリーズがメルヘンに思えて来ます。

小説が書かれた時代と現代では情報管理の規模や速度は全然違いますが、小説でもあっと驚くのは、CIA が早々と内部の協力者を突き止め、あっという間に消してしまう点です。この点は現代では技術的に可能になっているので、スピード感のある映画だなと思うぐらいで、それぐらいやるだろうと感じるのですが、当時の小説ではあっと驚きます。

ジャーナリストから得た情報でボーンはブラックライアー計画なるものを追うようになり、CIA にはそのためにお尻に火がつく人が2、3人出ます。上司の命令で CIA の1部署が駆り出され、ジェイソンを消すべく奔走します。そこへ配属されたパメラは考え方が違い、ジェイソン抹殺に反対意見を述べます。彼女はボーン・スプレマシー の時にジェイソンと直接対決し、その結果彼に責任が無い部分を熟知していたので、そういう結論に達してしまいます。

スリルはパメラと彼女の同僚、上司の間のトラブルでさらに増します。ジェイソンは自分が良く知っているタイプの殺し屋に追いまわされ、そこもスリル。加えてニッキーとの過去のいきさつも入り、スリルのてんこ盛りになっています。が、やり過ぎになる前に押さえています。

ニッキーと再会した後何度かマリーとのいきさつと良く似たシーンが出て来ます。それにはそれなりのわけがあります。逃避行と調査を同時に進行させながら2人は一緒に逃げたり別行動を取ったりします。だんだん秘密がばれて来て、いよいよジェイソンはニューヨークへ乗り込んで来ます。ある家を特定しそこへ出向きます。敵もしっかりしたもので、ジェイソンがやって来ると警告を受けてもブラックライアーの首謀者は落ち着いたものです。

欠けていた重要な記憶が戻り、ジェイソンはさらなる悩みは抱えますが、辻褄が合い始めます。そこへやって来る暗殺者。また逃亡。その間にパメラが対策を取ってくれるので、ジェイソンを追い掛け回している男たちがつかまります。

第1作を意識したシーンで終わるのですが、ジェイソンとニッキーとパメラは生き残ります。そのため4作目も可能ではあるのですが、ここで止めておくのが得策かも知れません。

セールス・ポイントはマット・デイモンのアクション、カーチェース、舞台が国際的なこと、CIA の闇。そして何よりもスリラーとして十分複雑なストーリーです。今後これ以上複雑な○○計画などと言うのが登場すると、またかということになっていくら何でも信憑性を失います。ここいらが潮時ではと思います。

ポテンテちゃんからバトンを受けてダニエル・ブリュールが出演していますが、小さな役で、短いシーンです。マリーの弟役。

全体には良い点をつけますが、ブースカ言っておきたいことが1つ。肝心なシーンがカットされているのです。カーチェイスのシーンが結構長かったりして途中いくらか退屈するのですが、会話のシーンでは重要な事が話されます。ところがそういうシーンを数カ所ばっさりやったようです。これがあると無いとでは観客の理解度が変わります。普段ですと割愛されたシーンにはカットするだけの理由が見つかりますが、ボーン・アルティメイタムではなぜ止めたのか分かりませんでした。それならカーチェースをもう少し短くすれば良かったように思います。もしこのシーンを加えたダイレクターズ・カットが出たらそちらを推薦します。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ