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2003 USA 94 Min. 劇映画
出演者
Tommy Lee Jones
(L.T. Bonham - 元軍に雇われた殺人術の教官)
Benicio Del Toro
(Aaron Hallam - 軍の殺人エキスパート)
Connie Nielsen
(Abby Durrell - FBI捜索の指揮官)
Leslie Stefanson
(Irene - アーロンの元恋人)
見た時期:2003年4月
渋い作品です。英語は「追跡される者」ですが、ドイツ語は「追跡者(ハンター)の時間」となっています。Stunde というのは普通の場合英語の hour と同じ意味ですので「時間」でいいですが、「最後の時」とか「死期」という意味もあります。Jäger は「ハンター、狩人」。英語のタイトルではベニシオ・デル・トロに視点を置いていますが、ドイツ語では狩出す方のジョーンズを指しているようです。
井上さんが「最近はただ英語のタイトルをカタカナにするだけの邦題が多くて・・・」とぶつくさ言っていましたが、大いにぶつくさ言ってもらいたいです。インターネットのどこかにプロの人が書いたらしい記事で「アメリカ側が邦題に口を出し、『できるだけ原題に近いタイトルにするように』と言って来るので、配給会社側ではどうしようもない時は、カタカナという安易な解決になる事が増えた」というのがありました。英語ではたった2語の The Hunted でも受動態にするか能動態にするかで「狩り出す側」なのか「追われる側」なのかを表現できてしまいます。ドイツ語でも Der Jagende (= Der Jäger、追う側)と Der Gejagte (追われる側)の区別ができてしまいます。 トミー・リー・ジョーンズは逃亡者でジェラードを演じて、犯人を追跡するベテランになっているので、その辺のイメージも生かして何か連想させるような気の利いた邦題をつけてもらいたかったです。
英文学科を優秀な成績で卒業したアクション・スター、プエルトリコのインテリ一家出身の渋い俳優と、フレンチ・コネクション、エクソシストの大監督(この話とは関係ありませんが、ジャンヌ・モローと結婚していたと聞いて驚いたところです)の競演、3人ともオスカーを手にしています。どうなることかと思ったら、3人はまるでこの映画のために生まれて来たかのようなハーモニーを作り出し、素晴らしい出来になりました。同じくオスカーもらった人でも家柄が良過ぎて、お嬢様役しかできないなどというケースもあるのですが、この3人、根性見せています。
ハーバード出身のアクション・スターというのがトミー・リー・ジョーンズ。いかにも秀才のように見えるジョディー・フォースター、エドワード・ノートン、マット・デイモンに比べ、一流大学という雰囲気が無いところがチャーミングです。何とただ卒業しただけでなく優秀な成績だったそうで、但し書きつきの卒業です。在学中はスポーツ選手としても名を成したとか。マルチ・タレントですね。今見ると女の子が大挙して押し寄せて来るという雰囲気ではありませんが、当時はキューティー・ブロンドのリース・ウィザースプーンのような女の子がぞろぞろ寄って来たんでしょうか。最近ではコメディーにまで顔を出し、演技の巾を広げ、大スターと呼ばれるにふさわしく株が上がっています。デビューが何とあの大甘ロマンスのラブ・ストーリー。その後時には安っぽい悪役もやっています。
正直言うと、皺だらけの年寄りにアクションやらせて、映画界はむごいなあと思っていたので、メン・イン・ブラックのようにアクションの体裁を取っていても本人はそれほど動かなくていい映画に出られるようになって良かったとジョーンズのために喜んだこともあります。「俺は若者だ」と胸を張って言えるのは、スペース・カウボーイ。ジェームズ・ガーナーを筆頭とするシルバー・アストロノーツの中で最年少、あの時は若造扱いでした。今回ジョーンズは熊のような髭を生やしての登場。弱点だった皺がほとんど隠れ、晩年のジェームズ・コバーンのような渋みもにじみ、顔はカッコ良かったです。
年取ったアクション・スターは気の毒だなあという気持ちは今回もっと強まりました。筋の展開上ドロドロになって、寒い季節に水の中にまで入っての活躍。それも渋い映画なので、ヨレヨレの服を着て、泥の中で、のそのそ動くという役。ベニシオ・デル・トロと何度か対決があり、血みどろです。
そのカッコ良くない戦いぶりがカッコイイです。
ジョーンズには不満は無いでしょう。フリードキンの演出は手を抜いた所が無く、首尾一貫しています。メリハリがあり、サスペンスあり、先の予想がついたのは(ここをクリックすると決定的なネタがばれます。→)誰が死ぬかという所だけ。組んだ相手はこの職業に実にまじめに取り組むベニシオ・デル・トロ。ジョーンズは気難しいと言われる人なのだそうですが、彼と共演したウィル・スミスとベニシオ・デル・トロは「感じのいい人だった、仲良くなった」と言っています。2人は自分の職業に関心を持ち、プロの仕事をする人たちなので、ウマが合うのでしょう。
ジョーンズの作品で見たのはざっとこんな具合です。
後記: その後エレクトリック・ミスト 霧の捜査線が加わりました。
逃亡者で助演のオスカーを貰ったそうです。ということはあの意地悪なジェラード警部。逃亡者の続きの追跡者をやっていた時に見たのですが、ウェズリー・スナイプスを追い掛け回すジェラード警部はテレビのジェラード警部ほど意地悪ではなく、のっけにビッグ・バードのコスチュームで現われたので、まじめな警察物の映画なのに笑ってしまいました。この頃から彼のコメディーの才能が花開き始めていたのでしょう。同じ頃に撮ったメン・イン・ブラックでのウィル・スミスとのコンビは世界的に有名になりました。後で聞いた話で、どこまでが本当かは分かりませんが、ゾンネンフェルト監督は最初にジョーンズを念頭に置き、そこへスミスを持って来たのだそうです。そういうコメディーの成功とは別に、こういう渋い作品にも出るというのはなかなか、職業意識が高いと感心しております。
ベニシオ・デル・トロは誘拐犯にライアン・フィリップと一緒に出ていました。まか不思議な物語で、見終わって暫くぼんやりしていました。彼の名前がしっかり業界に残るようになったのはトラフィックからですが、その前にもいくつかやり甲斐のある作品に出ています。
後記: その後シン・シティ、21グラム、ファンが加わりました。
デル・トロの両親は弁護士だったそうですが、インタビューではそのほかに父親が軍に関係し、厳しい人だったと言っています。ハンテッドは軍関係の話です。私が顔と名前を覚えたのはユージュアル・サスペクツで、あの不思議な映画に出た人たちのほとんどのファンになりました。スナッチではどう見ても違う顔をしているのに、ベニシオ・デル・トロとブラッド・ピットがなぜか双子のように似ているようなイメージを持ってしまい、不思議に思っています。トラフィックはエピソードの連続なので彼1人が目立つわけではありませんが、めでたくオスカーを貰いました。
コンセプトはボーン・アイデンティティーとだいたい同じ。あちらは CIA、こちらは軍だという点が違うだけです。どちらも大金をかけて優秀なキラー・マシーンを養成。公にできない状況で重要人物を殺す任務を負った、国家に仕える人間という設定です。両方の作品に共通しているのは、国が養成して、国が指令を出しているのですが、お天道様に顔向けできない仕事ばかりで精神的な負担が大き過ぎ、軌道から外れてしまい、政府側の人間から抹殺すべく命を狙われるという点です。最近流行っているテーマです。
トミー・リー・ジョーンズ演じるところのボーナムは軍人ではなく、キラー養成の仕事のために雇われただけの教官。現在はこの仕事から足を洗い、田舎で隠居しています。厳しい自然の中で地味に暮らしていますが本人は満足。ところがよそで凶悪な殺人事件が起きます。被害者2人は対抗するのに充分な高性能の火器を持っていたのに、犯人にナイフで殺されています。あざやかに体を切り刻まれているため、犯行に儀式的な意味があるのかとも疑われています。手口に心当たりのある人物がボーナムの隠居先を訪ね、捜査に誘いに来ます。嫌だというのに無理に昔の仕事に誘われるパターンが映画には時々ありますが、ブルース・ブラザースよりレッド・ドラゴンと似ています。死体の状況は犯人が政府の殺人の仕事を請け負った人物であることを示しています。殺し方を教えた教師がボーナム、現在人を殺して回っているのが元教え子のハーラムであろうということは一部の関係者の間では始めから見当がついています。
死体を収容し、捜査に当たっている FBI はそこまで詳しい情報はつかんでいません。FBI に協力することになるボーナムはあまり気が進みません。ここでがんばり屋の FBI に扮しているのがコニー・ニールソン。彼女はこれまでデーモンラヴァーとストーカーで見ていますが、今度の FBI の役の方が生気があっていいです。FBI よりずっと良く事情を察知しているボーナムはハーラムに殺しの責任は取らせたいですが、ハーラムを殺してしまいたいとは思っていません。逮捕できて刑務所に送ることができればいいわけです。ところが一旦捕まえてみたものの、ハーラムという人間、政府のキラー・マシーンなどは一般社会には存在していないことになっているので FBI は彼を告訴して裁判にかけることができないことが分かって来ます。だからといってこういう危険な人物を野放しにはできないと考えている頃に、おり良く軍から派遣されて来た人物がハーラムを引き取ります。ハーラムの運命の予想はつくでしょうがボーナムにはどうすることもできず、彼は1人田舎に戻ります。
江戸半太氏ではありませんが、それにしてはまだ時間が余っている・・・などと思っていると護送中ハーラムの車が事故を起こし、車からは3人しかみつかりません。ハーラムが事故のきっかけを作り、ドライバーが死に、車は横転。車の中ではハーラムが処刑されかかっていたところだったので、主人公に同情する観客は「意地の悪そうな軍人に殺されずに済んで良かった」と取り敢えずハーラムを応援する仕掛けになっています。ハーラムは訓練生の中でも飛び抜けて才能があったので、FBI や軍に捕まってもまだ余力を残しているだろうというのがデル・トロの演技で伝わって来ます。
まんまと逃げてしまったハーラムに喜んでいいのか複雑な心境のボーナムですが、説得するにしろ逮捕するにしろ、普通の人間では無理と分かっているので、渋々追い始めます。トミー・リー・ジョーンズは《渋々》の演技がとても上手です。ハーラムを追うボーナムという図式になりますが、ハーラムは簡単に逃げられるのに逃げずにボーナムと面会したりするシーンが出て来て、何だか変です。
ハーラムの軌道を狂わせるきっかけになったのはボスニア戦争。実在しそうな、悪辣な殺戮を繰り返す軍人を闇に葬るべく米軍から命を受け、現地で激しい戦闘中、ドサクサに紛れて目的の人物を暗殺します。その時見たくもない殺戮場面とかろうじて助かった少女を見てしまい、彼の頭でメカが狂い始めます。暗殺の功績でシルバー・スターまで貰っておきながら精神を病むというところは、ディア・ハンターと似たトーンです。
後半は追っかけ合いのアクション。特殊効果などを避け、男が2人本当に泥の中で取っ組み合いをするので、マトリックスなどの戦いのシーンとは全然別の趣があります。2人ともアーノルド・シュヴァルツェンエッガーやシルベスター・スタローンのような筋肉見せたがりの体ではなく、普通の服を着て、ずぶぬれになりながらの取っ組み合いです。寒そうな季節。2人ともなかなかタフでしぶとく、1度、2度切りかかられて怪我をしても血を流しながらまだ戦いを止めません。根性。
終わり方は普通のハッピーエンドではなく、勝者なしです。ジェーソン・ボーンに続いてアーロン・ハーラムの登場。こういう職業が何度も映画化されるような時代になったというのは、表現の自由が拡大されたと見るべきなのか、こういう殺人者が堂々と政府の手で養成されていると認めても、世間が驚かなくなった事を示しているのか。ツイ・ハークがミュージッシャンを俳優として使って作ったアクション映画の主人公も、お天道様に顔向けの出来ない仕事についていました。一般人とそうでない人がいる世界、なんだか憂鬱な気分にさせられてしまいます。
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