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2008 USA 90 Min. 劇映画
出演者
Dennis Quaid
(Thomas Barnes - 米国大統領護衛官)
Matthew Fox
(Kent Taylor - 米国大統領護衛官)
Richard T. Jones
(Holden - 米国大統領護衛官)
Forest Whitaker
(Howard Lewis - アメリカ人観光客)
William Hurt
(Ashton - 米国大統領)
Bruce McGill
(Phil McCullough - 大統領側近)
Edgar Ramirez
(Javier - テロリスト)
Saïd Taghmaoui
(Suarez - テロリスト)
Ayelet Zurer
(Veronica - ハヴィエルの恋人)
Zoe Saldana
(Angie Jones - テレビ・レポーター)
Sigourney Weaver
(Rex Brooks - テレビ取材ティームのチーフ)
Alicia Zapien
(Anna - 見物に来ていた少女)
Eduardo Noriega
(Enrique - サラマンカ市の警官)
Shelby Fenner
(Grace Riggs - テレビ取材チームの裏方)
見た時期:2008年2月
★ なぜか専門雑誌に嫌われた新人監督
欧州一大きい映画雑誌だと誇っているドイツの映画専門雑誌ではけちょんけちょんの点数がついています。監督は英国人だそうで、まだ映画は監督していません。これがデビュー。テレビではいくつか経験があるそうです。
★ 新人脚本家
私の感想は「マイケル・マンやスコット兄弟、あるいはボーン・シリーズと競争のできる仕上がりだ」というもので、アクションはボーン・シリーズといい勝負でした。プロットを考えたのはアメリカの教師でバリー・ルイス・レビーという人。これまで芸能界とは無関係だったらしく、この作品が脚本家としてのデビューです。現在30代の半ばなので他の職業についている人がたまたま書いたのかも知れません。
★ そんなにひどいか
しかしそれにしてはできのいい作品で、重箱の隅をつつけば何か失敗が出て来るかも知れませんが、とても90分とは思えない密度です。同じシーンを何度も繰り返すので、制作費がかなり節約になったと思いますが、1作だけを見て比べると、あの結構できの良かったボーン・シリーズのどれか1つを取ってもバンテージ・ポイントに負けます。密度ということで比べるならフォーン・ブースがいいかも知れませんが、フォーン・ブースにはアクション・シーンがほとんどありませんでした。バンテージ・ポイントは後半に物凄いカー・チェイスがあり、そこはボーン・シリーズといい勝負です。
★ 羅生門 + アクション
プロットはアメリカ大統領暗殺をめぐる陰謀で、監督は羅生門の手法を取っています。しかし上にも書いたようにアクションも多く、前半の事件現場からあまり動かない部分でもはらはらし通しです。ですから映画雑誌がなぜ辛い点をつけたのかは分かりません。この雑誌は全体の評価の他に内容的な高さ、スリル・サスペンス、アクション、ユーモア、セックスと分けた評価も出しています。ユーモアとセックスは全然出て来ませんから点数を稼げないのは当然。内容的な評価は個人の考え方によって違うと思いますが、アクションとスリル・サスペンスはてんこもり。それだけで観客を引き寄せるに足ると思います。
政治的にはっきりした考えのある批評家ですと高く評価するかけちょんけちょんにするかに分かれると思います。私のようなミーハー主義ですと、はらはらしたから入場料払う価値があるとかいう評価になります。DVDを借りるのもいいですが、犯罪の現場の雰囲気を味わうには小さくても映画館の方をお薦めします。
★ ストーリー
話の骨子はとても簡単に見えます。スペインに主要国の首脳が集まり会議。「そんな事をすると危ないからあまり大勢集まらない方がいい、インターネットでスタジオ会議にしたら」と言おうとしたとたんにバーン、バーン。どこかから2発か3発程度の銃弾が飛んで来て、たまたまそこにいたアメリカ大統領がばったり。
ここでチラッと思い出したのが実際に起きたアメリカの大統領暗殺と暗殺未遂事件。全くの真似ではないのですが、イメージ的には年配の観客の中には思い出す方がおられるかも知れません。なかなか巧みな演出です。
本当に死んだかは分かりませんが、弾は体に命中しており大統領は即刻意識を失って崩れ落ちます。取材のジャーナリスト、一般の客、警備に当たっている各国のシークレット・サービスやスペインの警官はパニック状態に陥ります。
主役はデニス・クエイドで、大分前にクリント・イーストウッドが演じたり、ちょっと前にマイケル・ダグラスが演じたような役です。経験の長い大統領の護衛官で、過去にこの大統領アシュトンの暗殺を防いだ経験があります。しかしもう年で、強がりばかりを言うわけにいかず、スペインの警護では最初から最後まで苦虫を噛んでいるような顔をしています。
優しいお父さんでも演じていれば合うクエイドは大根役者だと思いますが、うまくやればハリソン・フォード的なスターになれたかも知れないと思いました。長い間メグ・ライアンの亭主だという以外知りませんでしたが、離婚後は多少俳優としての活躍の場が広がったように思います。バンテージ・ポイントは最近の作品の中では良い方に入ります。
その他に知られている俳優としてはシゴニー・ウィーヴァー、ウィリアム・ハートとフォレスト・ウィッテカーが出ていますが、キャスティングは全体に良いと思います。私はこの2人特に好きではないのですが、ストーリーに良く合っていると思います。
パニックを引き起こす銃弾が飛んで来る直前から始まるのですが、取材をしているテレビ・チームの様子と、周囲に目を配っているシークレット・サービスの様子を中心に描いています。その他に野次馬としてたまたまか、あるいは深い意味があって意図してそこにいる市民、外国人ツーリストの様子もちらちら見えます。そしてあまり飽きないうちに銃弾飛来。
大統領がやられてしまえばシークレット・サービスはフル回転で動きます。スペインの町の市長の警備でそこにいた警官、たまたまアメリカから旅行で来たカメラを廻していたおじさん、取材でばっちりビデオを撮って取っていたカメラ・チーム、元から大統領を護るつもりでそこにいたアメリカの一流の護衛官チームなど一般人からプロまでが別々な個所から別々な立場で別々な方向を見ていました。それでドイツでは《8つの視角》というタイトルがついています。羅生門の手法を用いたため、この人たちが自分の立場から見たものを観客は順番に見せられることになります。前半のかなり始めの部分から繰り返しが続くのですが、飽きません。
★ 怪しいのは誰か
前半はテロ撲滅運動の首脳会談の妨害、各国の代表の見せしめのように米国大統領を狙った風に見えます。実際欧米人も含めたアラブ系のテロ・グループが出て来ます。この時におやっと思うのは、必然性から見た場合。フーダニットとかワイダニットとか色々小説や映画の推理物では考える時に手法がありますが、「この人がこれをやる必然性があるだろうか」という考え方を最近よくするようになりました。以前は事件が起きて犯人が見つからず、名探偵が最後に見事に犯人を挙げるというのが普通でしたが、最近は「この人(たち)が犯人だ」と提示を受けても「えええ?この人がそんな事する必要あったんだろうか」と思ってしまう出来事も出るようになり、一連のフーダニット的な考え方に加え、「ほんまかいな」という考え方でもチェックしてみることにしています。そう言う風に考えるとバンテージ・ポイントは結構おもしろいです。「欧米人とアラブ人が一緒になってアメリカの大統領を暗殺する必然性は何だろう」と考えると躓いてしまうのです。
★ いつ怪しむべきか
暗殺団を目にし、大統領が倒れた時点でこんな疑問を持ってしまうというのはいくらかプロットに穴があると言えないこともありません。この疑問は後半のできるだけ終わりに近いところで浮かぶべきなのです。しかしそれを誤魔化すに足るだけのスリルのあるシーンが続くため、アラとしては目立ちません。
事件が起きたのが正午。主人公の護衛官バーンズの捜査を軸にして、彼が出会う人、その人たちが見た光景が暗殺時間の少し前から決着がつくまで順番に描かれて行きます。無論この順番はネタばれにならないように用意周到に並べてあります。
ここから先を丁寧に説明するとネタがばれてしまいます。それは避けるとして、事件全体は真昼間からの数時間程度のものでしょう。後半は長時間のカーチェイスがあるので、筋の方は密度がやや落ちますが、それでもあっと驚く種が仕掛けてありますので飽きません。ネタばれを避けるとなるとこの辺で終わりにしなければなりません。あとは是非ご自分でご覧になって下さい。
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