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2008 B/Luxemburg/F 96 Min. 劇映画
出演者
Jean-Claude Van Damme
(J.C.V.D. - 世界的に有名なやや年を取ってくたびれているベルギー出身のアクション・スター)
Paul Rockenbrod
(Tobey Wood)
Alan Rossett (Bernstein)
François Damiens (Bruges)
Zinedine Soualem
Karim Belkhadra
Jean-François Wolff
Anne Paulicevich
François Beukelaers
John Flanders (検事)
Saskia Flanders (J.C.V.D.の娘)
Dean Gregory
Kim Hermans
(キックボクシング姿の囚人)
見た時期:2008年8月
★ お薦め作品
まず最初に結論を書いてしまいます。
ファン・ダムを全く知らない方からは JCVD は普通のトラブルを描写したドラマとして、まとまった地味な作品として、良い評価、悪くとも一応見られるという評価が得られるでしょう。インディペンデント系の佳作がいいなどとおっしゃる向きには気に入られると思います。
「えっ、ファン・ダムがインディペンデント?」とおっしゃる方はファン・ダムをご存知。期待しておられるのは比較的上の方の、しかしトム・クルーズやブルース・ウィリス、そしてまたウィル・スミスなどには完敗するB級アクションでしょう。
香港映画の作風を取り入れたB級のアクション映画に出るアメリカ人と思っておられる方もおられるでしょう。ハリウッドにいたりするので、アメリカ人と思われても仕方ありません。ベルギーはブリュッセル出身の大スターと言えばオードリー・ヘップバーン。しかし彼女もハリウッド・スターだと思われていて、アメリカ人と思っている人も多いと思います。
ベルギーというのは映画では滅多に名乗りをあげて来ない国で、欧州では比較的映画大国に数えられる英仏を除くと、オランダ、デンマーク、スペインなどの方が先に頭に浮かんでしまい、普段は注目されていない国です。しかし出るとなればどーんと世界に打って出るらしく、ヘップバーンは大スター。ファン・ダムもアクション界では必ず名前が挙がる人です。
アクション界では上位に上げられる有名人で、無視できませんが、今年の秋で御年48歳。スタローンがまだ現役と考えるとまだまだ賞味期限は長いですが、常識的に言って、そろそろこの職業では肩も叩かれようかという年齢。
スタローンも含めてこの業界の大スターはこのジャンルの印象とは違い、頭はなかなか良い人が多いです。しかしそういう面を出す機会が無いまま年を取って行く例が多く、スタローンも性格俳優として行けそうなのに、その方面はのびませんでした。シュヴァルツェンエッガーもユーモアのセンスがあるのですが、コメディー部門への移行は失敗。ファン・ダムは性格俳優とコメディアンの両方への道をこの JCVD で開いたと言えます。
宣伝にはパロディーという言葉が挙がっています。パロディーなのかも知れませんが、フェイクかも知れません。ファン・ダムという人の私生活を詳しく知らないので、現在のところ確認が取れないのですが、ファン・ダムという人物の名前、職業、イメージを枠として利用して、そこにフィクションをうまく嵌め込んだ可能性も否定できません。みっともない役を演じるファン・ダムが必死に笑いをこらえているのではという感じがしないでもありません。
この作品の長所は、ファン・ダムの名前は知っていて「どうせB級だろう」とばかにしていた人たちをあっと言わせることができる点です。この層からファンが増えることが予想されます。
★ JCVD
ベルリンには JVC (ヨット・ファウ・ツェー)という会社(日本のビクター)があるので、一瞬「何じゃ、このタイトルは」と思ってしまいましたが、良く見ると文字は1つ多いし、順番も JVC ではなく JCVD。主演者の名前を縮めたものだと気付くまでにちょっと時間がかかりました。
JC の部分は普通ハイフォンをつけて Jean-Claude となり、VD の部分の V は普通は小文字で書くものなので、こういう縮め方を予想していませんでした。Jean-Claude van Damme を縮めると J-C v D。
★ ファン・ダム
Jean-Claude Van Damme というのは芸名で、本名は Jean-Claude Camille François Van Varenberg といいます。名前はフランス系なのですが、苗字はゲルマン系の名前です。ドイツ語に書き直すと von Wahrenberg といった感じです。
ファン・ダムを全く知らない人というのは少ないのではないかと思います。元々は舞踏(バレー)方面出身で、子供の頃から空手もやっていたそうです。身の軽さはそこから来ているのでしょう。名を上げたのは空手の選手権で良い成績を上げたため。70年代から80年代にはキックボクシングでも知られた存在だったそうです。アクション・スターを目指し語学、演技を学んだそうですが、スターを目指してスターになれる人はごく僅か。なってしまったのは運だけではないでしょう。何しろあのハリウッドで成功したのですから。
スポーツだけやっている時期も天才的ではなく、失敗を経験し、トレーニングを積み直し、また挑戦という道を歩んでいます。元々は体が弱く、そのために両親に勧められて始めたことで、チャンピオンになったり、アクション・スターになれているのは努力があったからでしょう。しかし芸能界では努力の人という売り方はしていません。
中国系でハリウッドに切り込んだブルース・リーも凄いですが、欧州から来てハリウッドで空手などをこなすアクション・スターになったのもなかなかのキャリアです。アクション・スターとしてはアーノルド・シュヴァルツェンエッガーがやはり欧州から来てハリウッドを征した有名人。アメリカ国産の人ばかりではありません。
他のアクション大スターと違い、ファン・ダムには圧倒されるようなインパクトが無く、ファン・ダムと聞けば誰でも思い出すようなタイトルも無く、色々な点でシュヴァルツェンエッガー、スタローンにもスミスやスナイプスにも負けています。ブルース・リーのようなカリスマ性もありません。
シュヴァルツェンエッガーはスタローンあたりとよく比べられますが、空手のファン・ダムと比べられるのは合気道のスティーヴン・セガール。活躍の時期が似ていることもあり、シュヴァルツェンエッガー、スタローンの次の世代とされたのかも知れません。実際には2人とも既に山を越え、最近はふるいません。
私が初めてファン・ダムを見たのはストリートファイター。当時ファンタに近いスケジュールでアジア系、特に香港系の映画祭があり、その関係で見たのかも知れません。かなり前の話でよく覚えていません。
この他に見たかも知れない作品としてはノック・オフとサドン・デスがあるのですが、はっきりしません。それほど印象に残らない演技の人なのですが、欧州での知名度は高いです。知名度が先行し、映画を実際に見た人の数はそれほどでもないと思います。ま、それでも欧州ではセガールよりは名前が通っていると言えるでしょう。
★ ファン・ダムの結婚
JCVD の中では暗礁に乗り上げた結婚生活が重要な意味があるのですが、実生活の方では空手、キックボクシング時代はほぼ独身。スポーツ時代の後半に結婚。2度目の結婚は最初の結婚が破局して間もなく。3度目の結婚は2度目の結婚が破局して間もなく。その後2度結婚していますが、すぐ飛びつかず、2年ほど余裕を持つようになっています。3度目の人と5度目の人は同一人物で、アメリカ人。この人とは最初5年ほど持ち、2度目は間もなく10年になるので、結婚生活は安定していると考えていいでしょう。年を取ってしおれたアクション・スターが離婚が原因で窮地に立つという作品を撮っているのはご愛嬌。
某有名手品師と噂があったのだそうですが、本人がファン・ダムと結婚すると言った形跡は無く、周囲の噂を否定しなかっただけのようです。否定しないから真実というのはちょっと強引な思い込み。2人ともパブリシティーを必要とする職業なので、あまり目くじらを立てずに放って置いたらジャーナ雀が騒ぎ過ぎたのかなと、当時噂が出ていることも知らなかった私は勝手に想像しています。この辺は日本在住の方の方が情報をたくさん持っておられるのではないかと思います。
★ JCVD の子供
JCVD では子供が重要な意味を持つのでチラッとファン・ダムの子供に触れておきます。3人いて、1987年、1990年、1995年生まれ。子供は3回目の結婚からで、その時に1男1女。4番目の結婚で男の子もう1人。5番目の結婚は3番目と同じ人で、次の子供は今のところいません。作品中話題になるのは娘なので、本気で自伝を撮ったのだとすればこの女の子が話題ということになります。でも眉に唾をつけておいて下さい。
★ ファン・ダムの90年代とその後
90年代には良い事と悪い事が起きています。ローランド・エマリッヒ、ジョン・ウー、ツイ・ハークの他、自作の作品も撮っており、キャリアを上っている様子が見えます。同時にドラッグの問題を抱え、悪影響が出ています。
2000年代に入ってからは中国系の監督とは組んでおらず、ラムぐらい。作品はコンスタントに作っていますが、90年代の作品の方が名前を覚えられているものが多いです。初期に知っていた特定の監督と何度も組む傾向があります。2000年と2005年は休暇でも取ったのか、作品は発表されていません。穿った見方をすると、この時期に離婚の危機でもあったのかと思いますが、その辺の事情は分かりません。2度結婚した夫人はファン・ダムがスランプを乗り越えてやり直す時に大いに寄与したという話の方が伝わっています。
★ 今度の作品は全く毛色が違う
今年のファンタに JCVD が出ると聞いて、これは見ようと思っていました。どの解説を読んでも誉めてありますし、内容紹介を見てもこれまでのファン・ダムとは全く違う作品に思えたからです。後で知りましたが、本人はギャラも貰わずに張り切って出たらしいです。監督をべた誉めで、かなりの転機になったとの発言があります。
★ 見た後の感想は・・・
本人の発言はそのまま信じてもいいと思います。この人にここまでの演技ができるとは思っていませんでした。監督がファンタの上映日に来る予定になっていたのですが、ドタキャン。理由は発表されませんでした。来ていれば大歓声、絶賛だったと思います。大きな方のホールにかなりの入りで、見終わった人の顔は皆輝いていました。
私もこれ1本だけを見たらファン・ダムは性格俳優かと思ったほどです。これまでトレイラーなどを見てファン・ダムはおつむの弱いアクション・スターだと思っていたので、スポーツに強い中年のおっさんを期待していました。
今年48歳になるアクション・スターとしては太っているわけでもなく、結構筋肉もついており、スティーヴン・セガールより良いコンディションです。セガールは元々太りやすい体質なのかも知れませんし、子供の頃からアメリカでハンバーガーに親しんでいた人と、成人するまで欧州で生活していた人では食生活が違うのかも知れません。その上子供の頃からバレーをやっていたとなると食事には気を使う癖がついているのかも知れません。いずれにしろ体は年齢を考えるとよく仕上がっています。
★ あらすじ
そういう人が冒頭中国人の監督の所でアクション映画を撮影していて、「(短時間の間にたくさんやる)この演出では体が持たない」とフラフラになっている落ち目のスターのシーンが出て来ます。
家庭の問題を抱えていて大金が必要なのにこんな状態。故郷のベルギーに戻って来ればやはり国際スター。彼の名を呼んで迎えてくれるファンに嫌な顔もせず一緒に写真に収まったり声援に手を振ったり。しかし家計は火の車。手際よく彼の現状が示されます。
さて、金策はどうしよう。そこで浮かんで来るのが同じく最近パッとしないスティーヴン・セガール。ある作品に出るつもりでいたのに、目の前でセガールに油揚げをさらわれてしまいます。自転車操業のように入ったお金をすぐ振り込むはずが頓挫。離婚、親権問題の絡んだ弁護士費用だったので、払わないと結果は重大。そのために寄った郵便局で人質事件発生。
人質事件を起こそうと計画していた男が2、3人いたところへ送金に来てしまったファン・ダム(役名はそのまま、国際的なアクション・スターという役どころ)。大勢の人質を取って立てこもりますが、中にファン・ダムがいて、金策に奔走していたことが知られていたため、彼も犯人の1人とされてしまいます。
そういう中ファン・ダムの回想が絡み観客には彼の私生活の事情が分かって来ますが外にいる警察やメディアには分かっていない・・・。
★ もし本当の話だとすると
時期的には3番目の夫人と離婚する時が合います。最初の破局は1992年。しかし子供はこの時2歳。JCVD に出て来る子供はもう少し大きいです。小学校の高学年のような印象。子供からみるとちょっと合いません。
2人は1度離婚し、ファン・ダムはその間にもう1度結婚し、別れた後で改めて7年後に3番目の夫人と再婚しています。その時娘は9歳。JCVD に登場する子供の年齢と大体合うのですが、その時ファンダムと3番目兼5番目の夫人とはルンルン。なので、私は自伝パロディーと宣伝されているこの作品ではパロディーの方に重心が置かれているのではないかと思っています。
もっと言うと、脚本家とファン・ダムはつるんで観客を騙しているのではとすら思います。もし本当にこの話が自伝なのなら、メディアに知られていない破局の危機があったのかも知れません。子供の年齢その他を上手にずらしたのかも知れません。
★ まじめな顔のジョーク
冗談を上手に言える人はあまり自分では笑いません。さらっと言ってしまう人もいれば、ごくまじめな顔をして実はおとぼけだったり、まあ色々ありますが、欧州の人はアメリカ的なコメディーは好きではないというのが多数派です。
JCVD もその路線で、自分の映画なのに、自分が何も知らないというシーンが出て来ます。ファン・ダムの伝記映画のキャスティングも始まっています。そこへファン・ダム本人が入って来て「これ、僕の映画なのに、僕やスタッフは何にも知らないの?」と文句たらたら。「私はキャスティングを任されているだけだから、話があったらプロデューサーに電話してくれ」とその人は何度も言うのですが、むかついているファン・ダムは文句たらたら。文句を言うだけではなく、自分が役を演じると言い出し、オーディションに来ていた俳優を追い出してしまいます。
周囲の困惑と、カンカンに怒って雷を落としてもいいはずのファン・ダムがなぜか遠慮がちに文句を言う様子がちぐはぐでおかしさを出しています。
★ 監督、なぜ来なかったのか
ファン・ダムという人の人柄に好感が持てるような出来です。ファン・ダムがファン・ダムを演じていながら、話はフィクション。そこにうっかりすると「本当だ」とそのまま信じてしまいそうな要素が織り込んであるので、油断なりません。もしこの作品に自叙伝の部分があるとすれば、ファン・ダムというのは人を信じ易く、善意の人物に思えます。軽薄ではなく、自分のやった事の結果を認識する能力はあります。そこがフィクションだとすると俳優としての化ける能力があります。どちらだとしても本人の評判にはプラスになるでしょう。単純な感想としてはファン・ダムはエドワード・ノートンばりの性格俳優ではなく、ちょっと人に乗せられ易い人なのではと思います。
作品の中でファン・ダムは笑い者にされているのですが、それを本人が演じることで良い効果を出しています。こういう作品はファン・ダムの生涯の中で1回切りしか演じることはできないでしょうが、そのチャンスをファン・ダムはしっかり受け止めて応えています。これまでヒーローを演じていた人の弱い面を全部見せてしまったような筋ですが、それを演じられる俳優だということで逆に大きさが見えるのです。
スタローンとシュヴァルツェンエッガーは、演じている単純なヒーローとは違いかなりインテリジェンスを備えた人ですが、ファン・ダムは元々普通の人で、《弱さを抱えて生きて行く人間》という意味での懸命さが出ています。
もしこの作品がファン・ダムのイメージ・チェンジ・キャンペーンの1つで、またメインになって金を稼ぐつもりだったら、成功と言えるでしょう。ファン・ダムがこの作品の後どの方向を目指しているのかは分かりませんが、この作品でファン層を広げることは間違いないでしょう。
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