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Dorothy Mills / Dorothy

Agnès Merlet

2008 Ireland/F 102 Min. 劇映画

出演者

Carice van Houten
(Jane Van Dopp - 赤ん坊を殺そうとした疑いのある少女を調査するために村に来た分析医)

Jenn Murray
(Dorothy Mills - 審査を受ける少女)

David Wilmot
(Colin Garrivan)

Charlene McKenna
(Mary McMahon - 交通事故で死んだ若い女性)

Ger Ryan
(Eileen McMahon - マリーの母親)

David Ganly
(Aiden Kearsley)

Gary Lewis
(Ross - 牧師)

Rynagh O'Grady
(McCllellan)

Joe Hanley
(Paul Fallon)

Gavin O'Connor
(John McCarthy)

Louise Lewis
(Maureen Kearsley)

Sean Stewart
(Duncan McClennan - 交通事故で死んだ若い男性、マリーの友達)

Eamonn Owens
(Kurt - 交通事故で死んだ若い男性、マリーの友達)

見た時期:2008年8月

2008年ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

今年のファンタは全体としていくらか弱かったのですが、小さな作品の中には2005年を思わせる《予算 が少ないのに頑張った》作品が入っていました。その1つが Dorothy Mills です。タイトルは中心人物の名前から取られています。

ストーリーはアイルランドの都会から離れた孤島で展開しますが、フランスがお金を出しています。登場人物にはフランス系の人は出て来ません。

★ あらすじ

現代社会からかなり孤立したアイルランドの島。15歳の少女ドロシー・ミルズが、生まれて間もない近所の幼児のベビー・シッターをしている時に、その赤ん坊を殺そうとしたため、警察に保護され、依頼を受けた大都会の女性精神分析医ジェーンが調査のために島にやって来ます。

フェリーから車を上陸させ、これから宿や地元警察に顔を出そうとするのですが、彼女が宿に着くより前に若者3人の乗った車が暴走族のような走り方で接近し、女医の車は海に落ちてしまいます。命からがら自力で脱出。地元警察と村人も事故を知り、車やトランクを発見。ずぶぬれのまま彼女は宿に到着します。

地元の警官からドロシーの状況を聞き、3日しか時間が無いので早速仕事にかかります。間もなくドロシーは人格が分裂し、1つの体に数人の性格が存在することが判明します。15歳の子供には自分の状況は分かっておらず、その時その時のキャラクターで反応し、その1つが赤ん坊を殺そうとした凶暴性を持つ若者でした。

そういうドロシーにそれなりの治療を受けさせるのがいいと考える女医ですが、村人は女医に理解を示さず、ジェーンと一応まともに話をしてくれるのは地元警察の男と、彼女に宿を貸している男だけ。自分を襲ったと思われる暴走族3人組が現われても村の人は全く理解を示しません。

その上村人の何人かはドロシーと何やら特別な関係があるようで、ドロシーは時々教会に呼ばれている様子。女医に時たま思いがけなくヒントをくれるのは白内障か緑内障を患っているような感じの老女で、彼女は時々ドロシーが宿泊している宿の1階のレストランに1人で座っています。

小さなヒントを頼りに教会を訪ねたりあれこれ調べてみると、ドロシーは教会で数人の大人に囲まれ、何やらオカルトの儀式のような事をさせられています。一方自分を襲ったはずの暴走族は何とこの世の人ではありませんでした。泊まっている宿の上の階からはそういう若者が弾きそうな大きな音でロック音楽やギターが聞こえて来ます。

一体何がどうなっているのと訝る女医ですが、ドロシーとの間に何とかつながりを作り、少しずつ真相に近づいて行きます。

今からばれます。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ 真相

いくらか理論的な矛盾も含んでいるのですが、まず冒頭分析医を襲った車の3人は前に死んでいました。この3人は車ごと海に落ちて溺死。原因を作ったのは後から追いかけて来た別の3人乗りの車。ウルトラ短縮想像略図では1番前の車が現代に生きる分析医、そのすぐ後に過去の出来事でカーチェイスをしている2台の車となります。後ろの車の3人は今も生存しています。

ドロシーが分裂病のような状態になってしまったのはこのカーチェイスで追いかけられていた3人の若者が乗り移っていたからです。彼女が赤ん坊を襲ったのは中の1人のキャラクターだった時。彼女が時々教会に呼び出されて妙なオカルト会に参加させられているのは、犠牲者のPTAが子供たちとの再会をするため。ドロシーを通して死んだ子供に会っているのです。

この若者たちが車で追いかけられたのは、中の女性マリーが後から追って来た男3人に暴行を受けているところを若者2人が救出したため。要するに刑事事件としてもモラルから見ても悪いのは暴走族に見えた若者ではなく、マリーを集団暴行した大人の方だったのです。死んだ3人はドロシーを通してそれを分析医に伝えた形になります。

★ ところがびっくり

これで分析医が事情を理解し、ドロシーを治療すればめでたしなのですが、何と分析医は死んでしまいます。分析医がますますドロシーを信じ始めたのには理由があります。ドロシーが分析医と知り合ったのは3日前。なのにドロシーが分析医の死んだばかりの息子になり切り、話をしたためです。こういう事ができるのなら島で死んだ3人の事も・・・ということなのですが、分析医はいよいよ事件解決という段になって呆気なく死んでしまいます。

それでも何とか事件解決にこぎつけ、最後ドロシーは分析医が勤めていた病院で上司だか同僚だかに事の次第を分析医になり切って話します。どうやら事情が解明されるとドロシーの中から乗り移っていた人物が消え、ドロシーは解放される様子。で、最後彼女は明るい顔をして終わります。

★ 俳優の力量

異常な役を演じる方が平凡な人間を演じるより自由裁量の範囲が大きいので俳優に取っては簡単ではあります。しかしドロシーを演じている女優の力量は結構あります。顔が大写しになることが多いのですが、上手に全く違うキャラクターになり切って思い切った発言をします。メイクも良くてなかなか個性が出ています。

ストーリーは良く考えるとこの種のジャンルではそれほど抜きん出ていないのですが、主人公を演じたジェン・マーレーの出来が良く、さらに村人を演じるその他大勢が閉鎖的な地域の住民を良く演じています。

もう1人の主人公女医を演じた俳優の出来は中程度。悪い点は見えませんでしたが、抜きん出ているわけでもありません。1つ気になったのは衣装の着方。冒頭事故で海に落ちてしまい、まともな洋服が揃っていないという役なので、服にアイロンが当たっていないとかそういう点は構いません。ただ服の着方がだらしなく見えるのが気になりました。メイクも分析医という職業の人にしてはちょっと考えてしまいます。女優本人が考えてした事なのか、スタッフが監督の指示でそうさせているのかまでは分かりませんでした。

これが欠点と言えば欠点ですが、全体のまとまりは良く、低予算だろうとは思いますが、それなりに筋の通った作品になっています。

★ ドロシーの危険

ドロシーが現代の少女だったのが幸いです。彼女のような能力を持つ人がいるとしたら中世なら完全に火あぶりです。本当にこの作品で描かれているような能力を持つ人物がいるのかは分かりませんが、他人の気持ちになり切って・・・となると例えば犯罪者のプロファイリングを職業とする人も危ないです。人の気持ちが分かってしまうというのは本人に取ってはそれほどありがたい能力ではありません。それを言い当てられた人は不快になるでしょう。言ってしまうと反感を買います。それを迷信やオカルトがまかり通る時代にやったら命に関わります。100年前だったら危ないだろうなあという地域を舞台にしており、雰囲気はなかなかいいです。

ドロシーはアルビノに近い外見で、しかも三つ編みを頭にはりつけ、きっとした外見。苛めの格好な的になってしまいます。目は孤独そうで、近代、中世ですと魔女狩りでいっぺんにつかまってしまいそうです。中世を舞台にしたらおどろおどろしい作品になったと思います。分析医が偏見を持たずに彼女に嫌われてもめげずにアプローチしたのは救いです。

映画のドロシーはプロファイリングの方向には行かず、自分の中に問題の人の性格を取り入れてしまい、そのまま行動します。周囲に取ってはもっと気持ち悪いでしょう。ドロシーを通して現われるのは死んだ(殺した)はずの人ですから。こういう才能を持った人を上手く使えば神探ですが、日本ではそれでも狂気探偵と名付けられてしまいます。ま、フィクションである限り安全です。

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