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2007 F 98 Min. 劇映画
出演者
Clovis Cornillac
(Tolbiac - 発電所の監視員)
見た時期:2008年4月
今年のファンタは比較的早くから参加作品をチェックしていたのですが、どうも食指が動かず見るのは1作に絞りました。2日目のみの参加です。行ってみると仲間もスタッフも来ていて、楽しくお喋りをしました。ドッグ・ソルジャーの監督の新作がおもしろかったという評判です。
★ 監督と主演
フランク・ベスティールはこれが劇場映画のデビュー。助監督としては90年代後半から経験を積んでいたので、1つの映画をまとめる力はあります。脚本も共著として参加しています。これからいよいよ1人立ちというところです。その最初の作品はほとんどモノクロームで、印象派などのスタイルを取り入れており、こだわりの作風です。
主演はフランスではアステリックスとして国民的英雄のクロビス・コーニヤック。アステリックスというのはアメリカではミッキー・マウスに匹敵するような有名な漫画の大スターで、最近フランスはアニメを止めて実写映画を何本か出しています。その主演、アステリックス氏です。
Eden Log ではほとんど1人芝居と言ってもいいぐらい出ずっぱり。台詞が少なく体を張った仕事です。
ほとんどデビューと言ってもいい監督がその作品に日本では寅さんに匹敵するような知名度で恐ろしい数の作品に出演している俳優を主演に持って来られた理由は10年前の約束。「お前が何か作る時は出てやるから声をかけてくれ」ということだったそうです。私もアステリックスは見ていますが、Eden Log では別人のように違う演技です。それが職業なので当然ですが、ただのスターが出ているのではなく、七変化できる役者です。
★ ジャンル
漫画天国の日本ではあまり知られていませんが、フランスも漫画天国。映像関係の職業についている人には大きな影響を受けている人がいます。大分前から大人向きの漫画というジャンルも定着しています。たかが漫画・・・と言えない国です。そういうフランスで作られる映画には元々の原作が漫画という作品もあり、裏方の人的交流もあるようです。
Eden Log はそういうフランスのSF漫画を映画化したようなタイプです。監督本人曰く、漫画の影響は受けているとのこと。有名な作家の名前を挙げていました。ファンタは近年フランス映画に力を入れており、1つの分野は犯罪映画ですが、もう1つ見逃せない分野は漫画系の映画。いくつか作品が来ており、私も目にしています。
私が今回春のファンタで Eden Log を選んだ理由の1つはSFだったからです。以前はSFと言うとアメリカ、それもハリウッド映画が多かったですが、最近欧州でもSFに力を入れるようになっています。好みから言うとサンシャイン 2057 のような臨場感のある大規模な作品がいいのですが、そこまで大規模にできないとしても、フランスがSF作りに励むのだったら見てみようと思います。
★ ストーリー
トルビアックという男が荒れ果てた地下4階で目を覚まします。厳重な警備がされていただろうと思える部屋、コンピューターの機器やコードが破壊され散らばっています。壁が破られていたり、記憶装置が散らばっていたりします。
男には記憶がありません。初めて出会った男は大怪我をしているようで、何かにはさまれ体が動きません。トルビアックは自分がなぜここにいるのかが分からないまま前に進み、別な人物に会ったり、コンピューターの記憶を再生したものを見たりして徐々にここがどういう場所かの情報を得て行きます。
時々狼男に噛まれてゾンビになったかのような攻撃的な人間に出会い、襲われます。地下3階、2階と少しずつ上の階に上がって行きます。色々な情報を総合すると植物が大きな問題のようです。ここに生えている植物の根っこが外の世界の電力の源になっている様子。途中で出会った人や記憶装置から聞くところによると、この社会では発電を植物で行うようになり、最初の内は上手く行っていたのですが、ある時から植物に毒素が生じ破綻してしまったとのこと。それを何とかするために開発された方法は、人間を肥料か何かのようにその植物に与えること。
トルビアックは以前はこの建物の上の階でこの施設の監視をしていた・・・という記憶が戻って来ます。ようやく自分の目的が分かったトルビアックは最後に・・・という話です。。
★ 点数
この作品はファンタのファンや常連からは最高得点を得られないと思います。ちょっと見ただけでもマトリックスの1、キューブの1と3、ひねって考えるとソイレント・グリーンなどから引用したかヒントを得たなと思えます。たくさんの映画を見ていない人ですとそれなりに楽しめますが、そうなるといきなり白黒でちょっと疲れるかも知れません。作って無駄という作品ではありませんが、スパッと決まる作品ではありません。
エンキ・ビラル他いくつもの漫画の影響も入っていると言われ、そのスタイルは確かに至る所に見られます。そうなるとビラルの作品を見たことがある私は「あっちの方がよかった」という感想です。私も友達もそろそろファンタは十年選手。そうなると新しく登場する監督はちょっと気の毒です。ここでの感想はあくまでも平均以上の数映画を見る人の話で、一般の人がこの映画を見るとそれほど悪い点数はつかないと思います。
ストーリーは社会、経済などに対する批判を描いており、人類は何事でももう少しよく考えてから実行した方がいいという話です。最近ファンタに来る作品には世界の動きとやや違うSFもあります。例えば今後地球が暖かくなるから対策をと言っている中、サンシャイン 2057やデイ・アフター・トゥモローを見ると雪がちらりほらり。
実は私は農家で見慣れていた太陽熱温水装置をなぜ欧州で使わないのだろうと思っていたのですが、欧州の選択は巨大風車。田舎に行くとたいてい物凄い大きさの風車が回っていて電力を得ようとしています。その他にパーキングメーターの機械を動かすために太陽集光パネルが使われていたりします。不思議なことにせっかくのアイディアもあまり効率がいいように見えませんでした。後になって聞いた話ですと、本当に大した効率ではなく、やがて原子力発電に切り替わるのではなどという噂もあります。
Eden Log はあまり先の事を考えずに走り出したプロジェクトに突っ込みを入れた作品です。恐らくは「今後エネルギーをどうやって得るか」という議論の後、あれこれ試してみて、「植物からエネルギーを取る方法が開発されたのだ」という流れだったのでしょう。研究が成功して実用化された時に人はワーッと喜んで、一気にその方法に傾いてしまったのではないかと思います。破壊された発電所から始まるのでそのあたりは想像するしかありません。
私が今でも不思議に思うのは日本が水力発電から火力発電にワーッと切り替えてしまったことです。子供の時ダムを見に行ったことがあったのですが、当時は山岳部に結構たくさんダムがあり、電力は水力が多かったです。その後安価に石油が入るようになり火力発電に切り替わりましたが、だからと言ってすでにある水力発電を止めてしまう必要もないし、その後も適した場所があれば水力発電を並行してやれば良かったのにと思います。しかしその時々の流行のようなものに押されたのでしょうか、日本は石油に依存することが増えました。その後は原子力発電の方向にも進んでいるようです。素人考えですが全部並行してやれば良かったのにと思います。
最近のSFは暗い話ばかりですが、この作品もその路線を踏襲しています。お先真っ暗な社会だったので白黒にしたのかと思えるのですが、一応最後はほっとするオトシマエになっています。
上映後プロデューサーと監督が舞台に上がりつたない英語で質疑応答がありました。フランス人とドイツ人が英語で意思を通じ合おうとの努力の場面でした。ドイツ人は英語とフランス語が分かる人が多く、フランス人は語学は比較的苦手か、話したがらない人が多いです。もしかしたらイタリア語やスペイン語の方が早く覚えられるのかも知れません。
製作はハリウッドの作品よりはるかに安くあげたそうです。もし聞き間違いでなければ10分の1ぐらいの予算。ちょうどその時話に集中していなかったので、間違いかも知れませんが、ハリウッド級の予算があれば複数本作れるような話でした。ギャラが友情価格だったら私にも信じられる話です。
というわけで、ファンタの小姑を外せばデビュー作品としての評価はまずまずと言えるかも知れません。まだ若い監督なので将来に期待しましょう。
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