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クラッシュ /
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Collision /
Colision /
Alto impacto

Paul Haggis

2004 USA/D 115 Min. 劇映画

出演者

Brendan Fraser
(Rick Cabot - 検事)

Sandra Bullock
(Jean Cabot - リックの妻)

Chris Bridges
(Anthony - キャボット夫妻を襲う男)

Larenz Tate
(Peter Waters - キャボット夫妻を襲う男、グレアムの弟)

Matt Dillon
(John Ryan - 制服警官)

Ryan Phillippe
(Tom Hansen - 制服警官、ジョンのパートナー)

Terrence Howard
(Cameron Thayer - 映画界のスタッフ)

Thandie Newton
(Christine Thayer - キャメロンの妻)

Don Cheadle
(Graham Waters - 私服刑事)

Larenz Tate
(Peter Waters - グレアムの弟)

Beverly Todd
(グレアムの母親)

Jennifer Esposito
(Ria - 刑事、グレアムの恋人)

Martin Norseman
(Conklin - 刑事)

William Fichtner
(Flanagan - 警察官僚)

Keith David (Dixon - ジョンとトムの上司)

Shaun Toub
(Farhad - ペルシャ人の商店主)

Bahar Soomekh
(Dorri - 検死官、ダニエルの娘)

Michael Peña
(Daniel - 鍵屋)

Ashlyn Sanchez
(Lara - ダニエルの娘)

Loretta Devine
(Shaniqua Johnson - ソーシャルワーカー)

見た時期:2008年12月

★ あてがはずれた

ちょっと前にロサンジェルス警察の組織 CRASH に関する映画を見たため、クラッシュもそういう話かと思って DVD を借りて来ました。実 際は見込みがはずれ、全然違う話でした。本当に自動車が衝突する、事故の話でした。

★ クリスマスにモラルのプレゼント

2000年にトラフィックという映画が作られました。名のある俳優が大勢集まって、麻薬撲滅キャンペーンを張り、オスカーは5つノミネートされ、4つ 取りました。2004年にクラッシュで2匹目の鰌を狙い、見事釣り上げました。2006年、オスカーは6つノミネートされ、3つ取りました。2匹目としては好成績です。ゴールデン・グローブは トラフィックがノミネート5つで受賞2つ、クラッシュは2つノミネートされ2つ受賞。

★ 方法論を繰り広げるか − 麻薬撲滅キャンペーン

トラフィックの時は反対意見は持ちませんでした。たまにはこういうのもいいだろうと思ったのです。2匹目の鰌では人種差別を無くそうというキャン ペーンを張るつもりだったようです。

私がトラフィックにあまり批判的でなかったのには背景があります。リーガン大統領の夫人が一時期麻薬撲滅に熱心で、《ジャスト・セイ・ノー》という 実に正しいけれど全然効き目の無いキャンペーンを張ったことがありました。まさに正論なのですが、一旦麻薬に手を染めてしまった人には遅過ぎるキャンペー ン。元々手を染めていない人は、「麻薬はだめだ」と分かっているから手を出さず、リーガン夫人が言っても言わなくても「ノー」と言うので、この人たちには 必要の無いキャンペーン。

麻薬は国を滅ぼすので大統領夫人などという地位の人が乗り出して来るのはいいのですが、《ジャスト・セイ・ノー》はまだ手を出していない人に「こ れからも断わりましょうね」とお願いする程度の効果が期待できるだけで、関係してしまった人や、その近辺にいる人には救いにならないように見えました。

大分たってトラフィックが作られたわけですが、何がどこでどうなって、誰がどんな事をしているかが分かり易く説明され、どこで誰が努力 しているか、どこで誰が苦しんでいるかもそれまでの映画より分かり易かったように感じました。こういう形のキャンペーンが《ジャスト・セイ・ノー》の後に 出て来ると、少しは人の理解が得られるかと思いました。

★ 似て非なるキャンペーン

外から見ているとクラッシュトラフィックと似たコンセプトで、人種差別を止めようというキャンペーンのように思えました。やはり名のある俳優が集 まっていますし、意識の高そうな人が混ざっていました。俳優としてはディロンが好きですし、ブロックは俳優としてはメジャーでない作品で時々いい面を見ま す。ライアン・フィリップは以前からずっと注目している俳優。フレイザーも大好きです。チードルも大ヒット作品に頻繁に出るようになる前は注目の俳優でし た。

アメリカの人種差別はかなりなものらしく、日本のジャーナリストがちょっと大都市を離れると凄い目に遭い、そこで抗議をすると、その地のカラードと 分類される人たちから驚愕(=感心)の目で見られるそうです。私は英国に入国する時港で、訪ねて行く住所がきっちりしていたのに国外退去、ベルリン でなく日本へ送り返されそうになりましたし、ロンドンでは移民して来た人に差別を受けました。80年代の話で、当時他の欧州の国が全然そういう風でなかっ たこともありショックを受けたものです。

外国に住んでいると自分が有色人種なのだという自覚がどうしても必要です。しかし理性を働かせて、あるいは日常に慣れて差別をしない人も大陸側には 多いので、そうそう毎日差別と戦って生きるわけではありません。その点新大陸の方が厳しい面が多いようです。ですからアメリカ自身がこういう映画を作ると、本音の部分に取り組んでいるなと思います。

とまあ、アイディアは良かったのですが、いざできた作品を見てがっかり。ロンド形式の作りで、多分にシンボル的な面があるのですが、やり過ぎで、非 常に不自然になってしまいました。それが気にかかり、本来のテーマである人種差別撲滅の目的がかすんでしまったように感じました。

登場人物の多くが2人組になっていて、尻取りのように順番に1人が、他のペアの1人に関わり、ぐるっと一周するという趣向になっています。大部分の登場人物が被害者でもあり加害者でもある とうい立場に描かれています。

あまりにもきっちり歯車が噛み合ってしまうので、非常に不自然さが目立ち、見ていてアホらしくなって来ました。良かれと思って作ったとしても、ここまで極 端だと効果があるんだろうかと思えてしまいます。

★ あらすじ

クリスマス前のロサンジェルスという設定です。

冒頭にハイウェイの事故現場が出て来ます。刑事とその恋人が巻き込まれています。そこから話が始まり、一巡して、終わりにまたその現場のシーンに戻ります。

★ ロンドの図式

ストーリーの説明はこれだけで片付くのですが、ここに至るまでの人間関係がロンド形式になっています。

ご覧のように明らかな被害、加害の他に判断し難い部分もあります。同じ人間がひどい事もやり、良い事もやり、反省もするという図式です。しかしこうも四角く描かれてしまうと、現実味が失せます。あまりにも大勢の人間をペアで登場させ、善、悪を示そうとしたので、見ていてだんだん欠伸が出て来ました。クリント・イーストウッドやベン・アフレックが脚本を書いたらきっと上手にさばいただろうなあと思いながら見ていました。


白人の検事夫妻 アンソニーとピーターに車を強奪される。 リック・キャボットは職業柄白人以外の市民の支持を重要視。
ジーンはラテン・アメリカ系の人にあからさまな不信感を抱いている。 自宅で足に怪我をした時ラテン・アメリカ系のメイドに助けられ感謝。
アフリカ系アメリカ人の2人組 キャボット夫妻の車を強奪。
逃亡の際東アジア系男性を轢く。
アンソニーは奪った車に乗っていた違法移民に金をやって逃がす。
ピーター・ウォーターズはヒッチハイクの末トムに殺される。
ラテン・アメリカ系アメリカ人の鍵屋と家族 鍵屋のダニエルはキャボット家の鍵を交換。
ペルシャ人の店のドアを変えるようにアドバイス。
ダニエルはジーンに偏見を持たれる。 ファハドに逆恨みされる。
ダニエルの 娘ララはダニエルを殺しに来たファハドに間違って撃たれる。
東アジア系夫婦 妻はリアと事故現場で激しい口論。
夫はアンソニーとピーターに轢かれて、病院へ収容。 人身売買に関 わっている。
アフリカ系アメリカ人の刑事と家族 グレアム・ウォーターズはアフリカ系・アメリカ人の刑事。 白人刑事がアフリカ系アメリカ人の刑事を射殺した事件の処理で便宜をはかるよう強いられる。 事故現場の検証で弟の死体を発見する。
恋人リアはラテン・アメリカ系アメリカ人。 ハイウェイで東アジア系の女性と口論。
ピーター・ウォーターズは キャボット家の車を強奪。 キャメロンの車を奪おうとして失敗。その場ではトムに救われる。キャメロンにも逃がしてもらう。 後にトムに殺される。
白人のパトロール警官の2人と家族 ジョン・ライアンはクリ スティンにひどいセクハラ。 後日クリスティンの命を救う。
ジョンの父親は病床。 かつて会社を経営。アフリカ系アメリカ人に白人と同じ扱いをしていたが会社 が立ち行かなくなる。
トム・ハンセンは差別をするジョンと反りが合わない。 キャメロンがギャングと間違えられ警官に撃ち殺されかかるところを救 う。 後に誤解から ピーターを殺し車を燃やす。
ディレクター のアフリカ系アメリカ人夫婦 キャメロン・サイヤーは妻がジョンに侮辱されている間沈黙。妻は激怒。 別な日、アンソニーとピーターに車を奪われそうになると強く反撃。アン ソニーはその場を離れる。ピーターと車内で争っているところを警官に見咎められ危うく撃ち殺されそうになる が、トムに助けられる。キャメロンはピーターを咎めず逃がす。
クリスティン・サイヤーはジョンにひどいセクハラを受ける。 別な日そのジョンに命を助けられる。
ペルシャ人父娘 父親ファハドは自分の雑貨店を守るためピストルを買う。 ダニエルがドア変更をアドバイスすると、金を儲ける気だと邪推する。
後日店が襲われるがドアのせいで保険金が下りない。その時ダニエルを逆恨みする。
その結果ダニ エルを殺しに行くが娘を撃ってしまう。
ドリーは父親を気遣い空弾を購入。

★ 差別はあるというところから始めた方が解決が早いのではないか

上にも書きましたが、人種差別を無くそうという趣旨なので、それ自体には反対しません。ただアプローチの仕方については、これだけ長い間上手く行かなかったことを鑑みるに、たまには別な発想も試みてはどうだろうかと考えることがあります。

比較的穏やかな国に住んでいても、差別はあり、悲しいことに何年、時には10年以上付き合った後であれは差別だったんだと気付くこともあります。自分の周囲の経験から私は最近こんなことを考えています。

当分の間人種差別というのはあるものだという前提で進むのがいいのではないかと考え始めたのです。人種差別がたまたま無くなれば今度は人は別な差別の方法を思いつき、また差別をするでしょう。80年頃までは階級差別は欧米や日本には無くなったかのように見えましたが、またリバイバルでやっています。男女差別は無くす、無くすと掛け声は立派でしたが、あまり大きな撤廃は見られません。大学にいた頃女性で1番上の位の教授になれた人は大学職員の3%という数字が出ていました。現在もそれほど大きな違いは無いでしょう。たまたまこれら3つの差別がなくなったとしても、人はまた何か新しい事を思いつくでしょう。

それはなぜか。

人はどこかで他の人との違いを見出して、自分が上に立ち、うれしがりたいのだと思うのです。本能に近いぐらいの強い気持ちなのではないかと思います。アジアの国や文化圏には宗教や哲学でそれをかなりの度合いまで緩和することに成功した国がいくつかあります。よく見ると何か上の方に1つはっきり上とされている人、人のタイプ、物などがあり、その下は平等になっているとか、階級のようなものはあるけれど、年とともに自分もいずれ上がって行くので、若い時下でもあまり文句が出ないとか、大きな枠は動かし難いけれど、その中は比較的フェアになっているなど、さまざまな形が見られます。私が注目したのはこういうシステムには大抵比較の対象があり、自分の位置から見て上や下がある点。皮肉なことに上下関係を定めたルールがありながら、どこかしらフェアなのです。

だからと言って、すぐ、昔のシステムを復活させろと言っているのではないので、早まらないで下さい。ここでは、人間が比較を好むという点だけに注目。これだけでは状況がざっと掴めるだけで、解決法にはなっていません。

区別と差別を混同したら話がややこしくなるという点にも注目。誰かの肌の色がその国の他の人と違ったとしても、その人の生活がそれで特に良くなったり、悪くなったりしていなければ、差別とは呼べないでしょう。差別意識は違いが誰かにとって嫉妬の対象になるような時に起きていると見ていいのではないかと思うのです。誰かが特にいい生活をしていて、他の人が苦しい生活をしていたらやっかみたくなります。しかしいい生活をしている人が、何か大変な努力をしていて「あれだけやったのだから報われて当然だ」と他の人が思ったら、その時はやっかみが消え、差別意識も消えます。

例えば脳外科手術をする医師が、サラリーマンより良い給料を取っていてもあまり文句を言う人はいません。難しい試験を通り、非常に細かい手術をこなし、時には8時間も手術室に入った切りで、人の命を救うのだったら、ちょっと多めに報酬を取ってもいいんじゃないのという風な受け止め方をされます。階級差別意識は出ないでしょう。

そんな、こんなで、区別が差別にならない例も知った上で、考えると、フェアでないという気持ちを生むような事態が差別と呼ばれるのではないかと思います。

次に人数的な違いに注目。世界全体では今は白人と呼ばれる人たちが優位に立っています。しかし1人の白人が他の人種が多数派の場所にいる時は優遇してもらえないこともあります。特定の国の人だと分かると、その国の覇権が強ければ勝ち、弱かったら負けです。覇権を抜きにして考えると、少数派は大抵不利です。

ここでありとあらゆる差別、区別の例を網羅することはできませんが、要は納得が行くような区別なら区別のままで済み、不満が残る場合は区別とは呼ばれず、差別という方向に話が向かうだろうと、問題を単純化して表現できると思います。

図式映画クラッシュの良い点は、同じ人間が状況によって人の命を奪ったり助けたりするほど極端に変わることを表わしていること。良かれと思っていても良くなかったり、モットーに従って人道的に振舞っていても、ある日突然違う面が飛び出し、本人は意識していなかったり。オスカーやゴールデン・グローブに選んだ人たちはその辺を評価したのかなと思います。ま、何かの役に立てようと思って作った作品であることは確かです。

ディロンは最近この種のキャンペーンを目的にした作品にちょくちょく顔を出しますが、良い意図を持ちながら作品としては空振りに終わってしまう時もあります。ブロックは普段オバカ映画に出ることが多いですが、笑いの無い作品に出ると、それなりの成果を上げています。オバカ映画ではアメリカ好みの大味で勝負していますが、笑いの無い作品では欧州好みの微妙な影と光の表現もできます。フレーザーは押さえた演技ができ、陽気な顔の陰で・・・などという演技もできます。全体的にキャストにはなかなかの人材が揃っています。ここは評価していいでしょう。

冒頭からぶつくさ文句を言っていますが、立派な理想を掲げ脚本をきっちり組み過ぎた点が悔やまれます。もう少し緩い人間関係にした方が、却って共感を生む筋になったのではないかと思います。

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