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2008 USA 92 Min. 劇映画
出演者
Will Smith
(John Hancock - 飲んだくれのスーパーヒーロー)
Jason Bateman
(Ray Embrey - PRマン)
Charlize Theron
(Mary Embrey - レイの妻)
Jae Head
(Aaron Embrey - レイの息子)
Daeg Faerch
(Michel - 近所のいじめっ子)
見た時期:2008年12月
★ ウィル・スミスの先取りに驚く
ハンコックを見ました。まだ新しく、当初は見る予定が無かったのですが、前半がおちゃらかで、後半が人間を描いていると聞いていくらか興味が湧き、近くのDVD屋さんから借りて来ました。3本借りると2本分の値段になるというサービスを利用し、その1本に加えたので、元々お目当てというわけではありませんでした。どちらかと言えば何か適当に3本選んでという感じ。
ところが見ていてびっくり。スミスは12年前インディペンデンス・デイという驚きのタイトルの作品で主演を努めた人。インディペンデンス・デイは公開からかなり経って見たのですが、独立の日というタイトルは以前から知っていました。その頃は単なるハッピーエンドの SF と思っていました。
今度は役名がジョン・ハンコック。アメリカ独立の書類に最初にサインをした政治家です。ただサインをしただけではなく、独立の重要性をしっかり考えた人。ハンコックの中ではそういう事には触れず、たまたまタバコの箱に名前が書いてあったから、そこから取ったという風に設定してあります。
1つの作品では独立の日というタイトル、もう1つの作品では自分の役名がアメリカ独立に関わった人物と同姓同名。スミスという人は独立にこだわっているのかと思います。
実はそれだけではなく、一見おちゃらかに見えるストーリーがブッシュ大統領に関連しているのかなと思わせる内容。インディペンデンス・デイのタイトルの効果がじわっと現われたのはブッシュ大統領が選ばれるかどうか分からない選挙の時。対立候補の夫人がチラッと失言したのがきっかけで、「ええっ、何?」と思い始めたのです。アメリカ合衆国がまわしを閉め直して再スタート(2度目の独立)を切るつもりなのかとぼんやり思ったりしたものです。
ウィル・スミスはインディペンデンス・デイの後映画スターとして本格スタートを切り、オスカーにノミネートされたり連続大成功。オスカーがもらえなくてもカリカリせず、その後も順調に仕事が入っていました。「大統領に立候補してはどうか」と人に言われたりしたようですが(噂)、積極的に政治に動いた様子はありませんでした。
明るい性格のように見え、笑顔が見られるからという理由で時たま彼の作品を見ます。ただのスターだという以外に評価がちょっと高くなったのは、マトリックスの主演を断わったという話を聞いた時。マトリックスは1本目はちょっとスリラー風でおもしろかったのですが、その後規模がどんどん大きくなり、私の目には収拾がつかなくなったように思えました。しかしキアヌ・リーヴスの成功を見て「スミスが断わったのは間違った判断だった」という論調もあり、インタビューアーがスミスにその事を示唆したらしい記事を見たことがあります。本人は「いや、あれは自分に向いていなかった」と地味に答えています。取りようによっては大きな魚を逃がした事を認めたくないとも取れますが、私にはなぜか彼が本当に向いていなかったから断わったのではと思えました。マトリックスには代わりに夫人が参加しました。
スミスはその後マイペースでいくつか成功を収め、今でも映画界で後光が差しています。リーヴスはマトリックスの後派手な話は聞きません。没落したのではなく、「マトリックス3本で一生使い切れないほどの金を手にした」とインタビューで語っていました。その上身内に病人が出ているので、派手なパーティーなどからは距離を置き、仕事は減らした上、選んでいるようです。
スミスはマトリックスが出た頃(1999-2003) MIB がヒット、アリではシリアス・ドラマでオスカーに接近、バッド・ボーイズの続編、アイ・ロボットなど、ブロック・バスターと呼べそうな作品に連続出演し、いずれも成功を収めています。ヒッチでも成功し、アイ・アム・レジェンドの次がハンコックです。
大金がオファーされたらしいマトリックス3本を蹴って実を取ったスミスは本人に取っては良い選択をしたように見えます。明るい青年の役から似たような路線の作品に少しずつシリアスな面を入れるようになり、最近は清潔な役ばかりでなく人間の両面を出すようになって来ています。明るい青年スミスについて来たファンがショックを起こさないように少しずつ変化をつけています。
★ 先読みではなく、先取り
とまあこれだけを見ていると己を知った上で上手に作品を選んだかのようにも見えますが、ハンコックを見て私はその考え方を止めました。スミスの作品は世界を先取りして、こちら側へシグナルを送って来ているのかなと途方も無い事を考え始めたのです。
ハンコックは半分ほどスーパーヒーローをパロディったコメディー、半分ほど人の性格を分析したようなストーリー。大抵の人は前半部分をパンフレットや雑誌で見て、映画館に足を運ぶと思います。
前半はホームレスのような生活をしているハンコックが酒瓶片手にその辺の通行人と諍いを始めるようなシーンから始まります。間もなく、彼がハルクやファンタスティック・フォーのような能力を持った超人と分かります。アイアンマン、バットマンのような普通の人間が鉄装束、黒装束を身につけて出動するのではなく、特異体質で空が飛べ、怪我をしても間もなく治ってしまい、とても長生きをするのです。
ただ、生活態度はこれまで知られているスーパーヒーローとはがらっと違い、アル中でどうしようも無い。気に入らない事があると超能力を悪用して市民を脅したりします。市民と言い合いになり、侮蔑の言葉の応酬になったりするので、メディアに出て来ても評判は良くありません。それでもなぜか危機に瀕した人を見かけると助けるので、時々ニュースになります。市民もそういう時はハンコックが出て来るものと頼っています。事実ロサンジェルス市内の犯罪発生率はハンコックがいくらか抑止しています。
特に評判が悪い理由はハンコックのやり過ぎ癖。踏み切りで車が止まってしまった人を助けるのに、機関車をぶっ壊してしまうなどというのは日常茶飯事。物損は天文学的な金額になってしまいます。ロサンジェルス市は本当ならハンコックを逮捕して、損害賠償をするか刑務所に入れと命令する立場です。しかし彼を怒らせると町を壊されてしまうので、命令は実行できません。
と前半はやり過ぎを特に強調しておきます。
★ 深読みできる
これを深読みするとアメリカの過去8年の政治に似ています。立派な名目で勇んで出かけて行ったはいいけれど、行った先で統一が取れなくなり現地をめちゃくちゃにしてしまい・・・という図式が実際何度かありましたが、そのパターンです。しかも周囲の人からけちょんけちょんに言われ、世間の評判はがた落ち。
★ 後半の意外な展開
前半に自堕落な生活をし、人に気配りなど一切しないハンコックを描いた後、後半は一般人とハンコックの出会いがとんでもない方向に進んで行きます。
いつものように周囲の人に非難されながらもまた1人男を救います。それがあまり有能でない、理想主義の PR マンのレイ。善良な人で、ハンコックが命を助けてくれたというので人並みの感謝の念を示します。日本人から見れば当たり前の事のように思えますが、それまでのロサンジェルスではハンコックがせっかく人命を救っても世間はそれは注目せず、ハンコックが壊した道路や建物を見て怒っていました。ここでレイを登場させてその差をはっきりさせます。
内心は素直なハンコック、しかしそれまで散々非難されていたのでややひねくれた態度。ところがレイと出会ってちょっと戸惑います。ホームレス姿、アルコールの瓶を片手にという姿なのにハンコックを家に連れて来ると、レイの子供は大喜び、夫人は大迷惑。その日はハンコックも夕食に加えてもらい、いつもと違う夜を過ごします。しかし夫人は夫にはっきり「あの男とは付き合ってもらいたくない」という態度を示します。
レイはお礼に PR の仕事をハンコックに無料で提供することに決め、世間のイメージを良くしようと作戦を練ります。1度罪を認め、短期間刑務所に入る、そのうちに世間では犯罪発生率が上がるから彼の力が必要になる、その時に市長と取引して・・・というのがレイのアイディア。早速実行にかかります。実際そういう風に事が運びます。
問題は意外な所から起こります。仮釈放中のハンコックがレイの自宅にいる時、レイの夫人とキスをしそうになるのです。えええ、2人とも不倫の雰囲気で無いのに?と感じる方がおられるとすればそれは間違っていません。
ハンコックは80年前より以前の記憶がありません。超人で恐らくはかなり長生きしているのだろうと感じています。怪我をしても勝手に治ってしまい、空は飛べる、鉄の筋肉を持っている等など。しかしある日気付いたらほとんど何も持っておらず、自分が誰かも分からなくなっていて、そこにあったタバコの箱に書いてあったジョン・ハンコックという名前をそれ以来自分の名前にしていました。
ところがレイの妻に出会い、何だかお互いを知っているような気分に。それもそのはず。実は彼女もハンコックより更に強い力を持っていたのです。不倫は何とか自制したのですが、夫人が興奮してレイの家が壊れてしまいます。びっくりしたのはレイだけではなく、ハンコックも。
彼女の秘密を聞いているとハンコックの過去が分かって来ます。物凄い力を持った者の運命が語られます。お互いを好きで以前は夫婦だったけれど、離れていた方がいいという涙の物語。2人は実は2000年ほど前からの知り合いだったのです。過去には他にもこういう強い人物がいたのですが、現在ではハンコックと夫人の2人だけになったという話です。
★ ここも深読みするか
2000年、強大な2つの勢力などと言い出すので、つい歴史の事を言っているのかと突っ込みたくなってしまいます。世界の2大勢力ですか・・・、ふうん。
この作品成人向けに近い扱いで、17歳までは保護者が同伴しないとだめとなったそうです。ドイツではそんな事言っていなかったように思いますが、アメリカは規制が厳しいのでそういうのありかも知れません。それでもかなりヒットしていて、よく儲かったようです。
確かに小さな子供に見せたくないような汚い言葉も連続して出ますし、所々大人向けのオバカジョークも出て来ます。ただ、大人も子供も深読みせずけらけら笑って見ることも可能です。
アメリカが最近続けている大失敗は意図したものだという説もあり、それを信じる人はハンコックを深読みするでしょう。「いや、あれは失敗した後に、照れ隠しでわざとやったと言ったんだ」と解釈する人もいるかも知れません。その辺は時が経ってどういう解釈に落ち着くかを見るしかありません。
部分部分にほろりとさせるシーンがあったり、呆れジョークが飛び出すので大笑いしたり、変化に富んでいます。
映画化が難しい作品だったようで、監督変更が何度かあり、最後に引き受けたベルク(山)監督も、今1つまとまりが良くありません。重要テーマがテンコ盛りで、さばき切れていない感じがします。スコット、マンなど著名な監督が下りてしまっており、それをここまでにしたのだから、ベルク監督も能力があるとは言えるでしょう。観客もたくさん入ったことだし。
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