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パブリック・エネミーズ /
Public Enemies

Michael Mann

2009 USA 140 Min. 劇映画

出演者

Johnny Depp
(John Dillinger - ギャング)

Marion Cotillard
(Billie Frechette - ディリンジャーの愛人)

David Wenham
(Harry Pierpont - ディリンジャー・ギャング、ディリンジャーの教師的存在、逮捕、死刑)

Jason Clarke
(John Hamilton - ディリンジャー・ギャング)

Stephen Dorff
(Homer Van Meter - ディリンジャー・ギャング、ディリンジャーと一緒に映画館の前で射殺)

Christian Stolte
(Charles Makley - ディリンジャー・ギャング、逮捕、脱走を試みている最中に警備により射殺)

Michael Vieau
(Ed Shouse)

James Russo
(Walter Dietrich - ディリンジャー・ギャング)

Stephen Graham
(Nelson - ディリンジャー・ギャング、凶暴)

Channing Tatum
(Floyd -ディリンジャー・ギャング )

Branka Katic
(Anna Sage - 売春宿経営者、ルーマニア人)

Billy Crudup
(J. Edgar Hoover - FBI長官)

Christian Bale
(Melvin Purvis - FBI捜査官)

Richard Short
(Sam Cowley - FBI捜査官、ディリンジャーを射殺したティームの一員)

見た時期:2009年8月

長い間ご無沙汰いたしました。井上さんも私もまだ取り込み中で以前のように定期的、頻繁に記事をお送りすることが出来ませんが、私の方は徐々にペースを上げられればと思っています。まだ元のペースに戻すには至りませんが、その方向を目指しています。

今日お送りするのはパブリック・エネミーズ。先日書いたターミネーター 4の後ずっと間があいていましたが、久しぶりに映画を見る機会に恵まれました。ベルリンでは初日だったようです。

★ 良い素材がそろいながら

ヒートを見た方はパブリック・エネミーズに期待し、失望するのではないかと思います。マイケル・マンの作品では派手な撃ち合い、ギャング自身のストーリー、ギャングを追い詰める側のストーリー、比較的鮮明な画面、一定の量のアクション、そして欠点はドキュメンタリー・タッチを狙ってやたら動き過ぎるカメラ、良い方では何人かの実力派スターなどが期待できます。

そういったマンの要素が全部揃っています。主演に選ばれたデップは人物を勉強した形跡があり、万一デップがこけた場合の代役の意があったのかなかったのか分かりませんが、代役が務まりそうなスティーブン・ドーフも出演していました。

マンの他の作品を見ていない方なら2時間を越える上映時間、そして上に書いたような要素満載なので、満足が行くかも知れません。見て損をした気分にはならないと思います。

★ 自分に負けた

ヒートと似た要素が入っています。パシーノ、デ・ニーロに変わり現代のスター2人を敵味方に置き、2人の追いかけっこという形式になっています。クリスチャン・ベイルの出番は少なめですが、創立直後のFBIの腕利き捜査官という役です。彼の性格描写は手際が良く、冒頭の数分で十分描かれています。

ヒートで見事に短時間でまとめ切った「ギャングにも私生活があり、悲劇が起きる」という部分はパブリック・エネミーズでは間延びしています。ディリンジャーは当時ビリーという女性と付き合っていて、出会い、彼女が警察に捕まってしまうエピソードなどが出て来ます。

マンの描くディリンジャーにはいくらかフィクションも混ざっているらしく、話は半分とは言わないまでも、いくらか引き算をして考えた方がいいようです。ネルソンという名前のすぐかっとするギャングが出て来ますが、彼の死に様などは脚色されているようです。

★ デップの演技

デップの作品はいくつか見ましたが、ディリンジャー役がベストとは言えません。しかしながら人物の勉強はよくやってから撮影に臨んだようです。パイレーツ・オブ・カリビアンでできたイメージがまだ強いですが、もっと地味な役も見たことがあります。人にはあまり知られていませんが、ニック・オブ・タイムでは妻を無くしたばかりの子持ちのサラリーマンを演じていました。演技はこちらの方が良かったです。

映画館で見ている時はデップの外見にいくらか違和感を持っていたのですが、帰ってインターネットを見ると、死亡直前のディリンジャー本人と良く似ていました。私の持つディリンジャーのイメージは50年代末からのテレビ・シリーズ、アンタッチャブルに出て来たギャングのイメージと重なっていました。 アルマーニかというようなスーツでぱりっと決めて、いつものデップとちょっと違う髪形、現代でも通用するサングラスで出て来た時違和感を持ったわけです。デップの姿はまるで現代のような印象でした。しかしディリンジャーは当時本当に服装に気を使う人だったそうです。

★ 現代的過ぎた?

ディリンジャーの時代にまだ生まれていなかった私には何とも言えない点です。私も大好きなクラシック・カーがドンドン出て来ます。どうせ2時間以上になるのなら1分ぐらい眺めていたいというようなピカピカの車がぞろぞろ出て来ます。この時代はもう少し埃っぽいとか、くすんだ情景ではないのかと思いつつ見ていました。良く考えてみると当時を描く作品は映画監督の意思でレトロな撮り方をしているわけで、当時の町並みがパブリック・エネミーズのようだったのか、他の映画で描かれているようにくすんでいたのかは、現在90歳ぐらいのアメリカ人に聞いてみないと分かりません。マンは車の型や調度品は古い物を採用していますが、ピカピカです。

マンと言えば登場するのが火器。見せるだけではなく撃ちまくります。この点もヒートやアーサー・ペンの俺たちに明日はないに負けています。映画全体の中で何パーセントが撃ちあいシーンなのかという問題ではありません。マトリックスを思わせる銀行襲撃シーンもあります。敵も味方もかなり撃ちまくります。しかし当時分数が長いため話題になったヒートの襲撃シーンの方がメリハリがあって良い演出だったように思います。

ギャングとの銃撃戦となると付近の一般市民、動員される警官だけでなく、ギャングの方も生き残るために必死。そのあたりの感覚がヒートの方がうまく描けていたように思います。

車ファンだけでなく、銃器のファンにも喜ばれる多彩な銃が使われていたという話を見終わってから聞いたのですが、こちらもやはり画面に出る時間が非常に短かく、ファンやマニアが「あ、あの型だ」と気づく暇もないのではないかと思います。武器が非常に現代的に見えたというのが私の印象なのですが、武器の携帯が許されているドイツでも私はまだモデル・ガンしか見たことがないため、当時の銃についても現代の銃についても何も言えませんでした。

ストップ・ウォッチで計ったわけではないのですが、撃ち合いシーンはかなり長くて、ちょっとだらだらした印象を受けました。久しぶりに撃つ時に炎が出るマシンガンを見たのですが、「なぜ炎が出るんだろう」などと思いながら見ていました。

★ 不況時代

このテーマが2009年に扱われるのはやはり世界的な大恐慌と関係があるからでしょう。ディリンジャーは1929年の大恐慌の後の時代に登場したギャングで、銀行を襲撃しても一般人の財布からはお金を取らなかったために、大衆受けしたそうです。

ディリンジャーにはディリンジャーなりの方針があったようですが、一般大衆を味方につけると警察に追われた時にメリットがあるのは確かです。そこまで深く考えて決めたことなのか、単に合理的な考え方をしていただけなのかは分かりません。当時一般人は貧困のど真ん中という時代。取ろうと思っても大金を持ち歩いている市民は少なかったに違いありません。

その不況がパブリック・エネミーズにはほとんど描かれていませんでした。浮浪者が道路に疲れた様子で横になっているシーンがあるだけです。めちゃくちゃ贅沢をしている人や場所のシーンはありませんが、俺たちに明日はないからの方がどことなくその時代の人が貧しいのではないかという雰囲気が伝わりました。

★ FBI

FBI の前身は BOI といい、1908年からあったそうです。FBI は連邦捜査局と訳されていますが、BOI はその連邦が欠けているだけです。FBI となったのはフーバー長官の代からで、この男はなんと1人で48年長官の職にあったそうです。ディリンジャーは組織が FBI となってからほぼ初仕事にあたるようで、長官はディリンジャーを捕まえることで名を挙げようと試みます。そのためにメルヴィン・パーヴィスを採用。パーヴィスを演じたのがクリスチャン・ベイルです。当時の FBI のメンバーにはばらつきがあり、是が非でもギャングを退治してやるという意識の強さに差があったようです。そのためパーヴィスは別な町から腕利きを呼び寄せます。失敗を重ねながらも気合で徐々にディリンジャーを追い詰めて行きます。

現代では考えにくいのですが、ディリンジャー自身だけでなく、他の人も時々いとも簡単に脱獄に成功しています。仲間が留置されている所へやって来て、堂々と連れ去ったり、木製の偽ピストルで警備の警官を脅して外に出てしまいます。その刑務所の中のシーンも現代的な感じでした。

このようにせっかく捕まえても取り戻されてしまったり、逃げられたりするのですが、クリスチャン・ベイル演じるパーヴィスはカリカリするタイプではなく、ちょっと冷たいタイプ。データーを集め、分析し、判断を下しディリンジャーに迫って行きます。そういう意味では FBI はこの時からもうかなり近代的な機能を備えていたのかな、それともまたマンが脚色したのかなと考えながら見ていました。

長官のフーバーは FBI が絶大な力を持ち大統領までも FBI に遠慮するような時代のちょうど出発点におり、パーヴィスが指揮を取るティームがディリンジャーを撃ち殺したことで大いに助かるはずでした。しかし難しい性格の男2人の間には確執ができ、関係は難しかったようです。どういう理由かは分かりませんが、パーヴィスはまだフーバーが長官だった時代、とは言ってもディリンジャーの死後25年以上経ってから、ディリンジャー逮捕に向かった時に使っていた銃で自殺をしています。いったい彼に何があったのでしょう。

★ 再び良い素材

そうなのです。良い作品を作れる監督、俳優、スタッフが揃っており、十分なお金が衣装、セット、車、ロケの場所などに使われており、テーマとして取り上げた事件もおもしろい。不足は無いように思えますが、出来上がった作品に今ひとつ欠けているものがあります。ヒートを見てしまうとハードルが高くなってしまうのでしょう。しかし監督がヒートに阻まれて萎縮したという印象とは違います。ヒートマイアミ・バイスアリインサイダーマンハンターを比べると、真中辺りの評価になります。

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