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USA/UK/D 2011 111 Min. 劇映画
出演者
Saoirse Ronan (Hanna Heller - サバイバルの訓練を受ける少女)
Eric Bana (Erik Heller - ハンナを訓練する男)
Vicky Krieps (Johanna Zadeck - ハンナの母親)
Gudrun Ritter (Katrin Zadek - ヨハンナの母親)
Cate Blanchett (Marissa Wiegler - エリックの元同僚)
Olivia Williams (Rachel - アフリカを旅行中の家族の母親)
Jason Flemyng (Sebastian - レイチェルの夫)
Jessica Barden (Sophie - レイチェルの娘)
Tom Hollander (Isaacs - クラブの持ち主)
Martin Wuttke (グリム氏)
Mohamed Majd (モロッコのホテルの持ち主)
見た時期:2011年12月
★ 俳優
ケイト・ブランシェットはグィニス・パートロフと比べられる時期があり、実力ではブランシェットの方がずっと上に見えましたが、オスカーはパートロフの方が一足先に取っていました。しかもブランシェットはなぜこんな演技でと思える作品で受賞。気合を入れていたエリザベスではありませんでした。
エリック・バナはクロアチア、ドイツ系の俳優で出身地はブランシェットと同じくオーストラリア。私が初めて見た作品はチョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼。直後から国際的に活躍するようになりました。
シアーシャ・ローナンはアイルランド人で、綴りと発音ががらっと違うのはゲール語のため。デビューして間もなくオスカーにノミネートされるなど最初から注目を集めている子供。現在も未成年。
★ 監督
監督は作品数が少ないながら、大きな話題になっており、賞も色々取っています。シアーシャ・ローナンはこの監督組むのは2回目。
話は非常に単純。過去に人目をはばかるようなプロジェクトに参加していた CIA がおり、上からの命令でその計画は中止。その時組織を裏切って逃亡した者がいました。プロジェクトを仕切っていたのがブランシェット演じるヴィーグラー。逃亡して地下に潜ったのがエリック・バナ演じるエリックと、娘のハンナ。娘の母親のヨハンナはヴィーグラーに追われた時に犠牲になって死亡。ヨハンナのおかげでエリックとハンナはフィンランドまで逃げることができ、それ以来ハンナが中学生ぐらいの年齢になるまで隠れて暮らします。
エリックはハンナを徹底的に訓練し、どんな状況でも生き延びられるような術を授けます。そしてある日、ハンナがその時期だと感じた時にある信号を送ります。エリックはそれまでの山に適応した服装から背広に着替えて徒歩でどこかへ去ります。残ったハンナは信号をキャッチしてやって来た CIA の特殊部隊に取り囲まれ、ハンナは数人を倒したものの捕虜になります。
CIA がハンナをどこかに輸送し、そこで取調べを行います。拷問や脅しはせず、静かに質問を受け、「何か欲しいものはあるか」などと聞かれます。ハンナは自分が撮影され盗聴されていることを承知しています。そして「ヴィーグラーに会いたい」という要求をします。するとヴィーグラーと称する偽者が現われ、本物のヴィーグラーはマジック・ミラーの後ろに隠れています。ハンナは偽物だと承知していて、隙を見て偽ヴィーグラーに懐かしそうに抱きつき、彼女からピストルを奪ってカメラを撃ち、逃げ出します。
外に出てびっくりしたのはハンナだけではなく、観客も。そこはサハラだったのです。徒歩でどこかに向かって歩いているうちにキャンピング・カーで旅行している一家に会い、近くのオアシスまで車に便乗。キャンプ地ではホテルの地下室に泊めてもらい、そこで電気を初めて見てカルチャー・ショック。道中出会った家族に近づき、その後欧州まで連れて行ってもらいます。
フィンランドで信号を出したため、CIA 系の尾行がついていて、ハンナがスペインに上陸したことはとっくに知られています。その後ベルリンまでずっとハンナは一家と一緒に行動し、その後を CIA が金魚の何とかのようについて来ますが、殺したり襲ったりはしません。ヴィーグラー側はエリックとの接触を想定してハンナを追っており、すぐ殺すつもりはありません。
作品が長いのは、ハンナの成長、現代文化との接触によるカルチャー・ショック、ハンナの能力を観客に見せるための様々なエピソードが絡むからで、早い話が、特殊な育ち方をしたハンナと育てたエリックが、逃亡生活を止めて、過去に起きた事件に絡むヴィーグラーに接触を始めたという話です。
エリック側の接触の理由は過去の事件の復讐。ハンナは一種の武器としてエリックからヴィーグラーに送り込まれて行きます。ヴィーグラーが当時やっていたプロジェクトは、ポーランドで妊娠した女性の子供を引き取り、遺伝子をいじって、恐れや痛みを感じないようにし、筋力、反射神経は普通より強化した、一種のサイボーグ人間を作り出す研究。上司の知るところになり、中止命令が出たため、本来は関係者と子供は消去されるべき存在になります。その時に CIA を裏切り子供を連れて逃げたのがエリックとヨハンナで、子供がハンナ。ハンナはエリックとは血縁関係が無ありません。
ここでおやっと思うのはハンナの姿がブロンドの場合のケイト・ブランシェットとそっくりなこと。もしかして卵子を提供したのはヴィーグラーだったという暗示なのかも知れません。
ショーダウンではまずエリックが倒れ、次にヴィーグラーが倒れ、ハンナは1人生き延びます。ずっと行動を共にした家族は CIA にハンナの居所を聞かれた後行方不明。殺されたのかも知れず、放免されたのかも知れません。ベルリンでハンナを助けたエリックの知り合いは殺され、それまでハンナを追っていた殺し屋はやられます。ヨハンナは過去にヴィーグラーに殺されており、ヨハンナの母親も今度の事件で殺されています。結局最後生き残ったのはハンナ1人。
★ 不完全燃焼
ハンナの卵子がどこから来たのかがいまひとつはっきりせず、生き残ったハンナが今後どうやって生きて行くのかも示されず、CIA の中で無茶をやるヴィーグラーがあんなことで通ったのかも分からず、詰めの甘い仕上がりになっています。結局この作品が何を言いたいのかが今ひとつ分かりにくかったです。
ブランシェットは実力のある俳優ですが、時々呆気に取られるような緩い作品に、やる気全然無しだということが丸見えの演技をする人。エリック・バナも今ひとつ作品に恵まれたとは言いにくい俳優です。チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼を見る限り、もう少し力がありそうに思えるのですが。
上にも書いたパートロフはオスカーをもらった頃に比べると俳優としての実力が見える作品が増え、特に歌の上手さには感激しました。2人とも適した時に能力が評価されたとは言いにくく、まだ全体像が見えないうちにマスコミに大騒ぎされてしまったのかも知れません。
★ ベルリン
ハンナでは目的の地がベルリンで、町の様子が出て来ます。アンノウンに比べると地理的な混乱は無く、町の様子が実際より汚らしくなっている程度。ハンナが1人で歩いている場所はベルリンの中では最悪の危険な場所ではありません。最悪の危険な区はむしろ私が住んでいる所。
危険、危険と言われるわりに何事も無いのは、ベルリン全体、ドイツ全体が他の国に比べ安定しているためでしょう。ドイツは中華街を作るのを阻止しており、イタリアで起きたような無法地帯にはならずに済んだようです。かつてはベトナム系のマフィア、ロシア・マフィアなどが拠点を作ろうとしたことがあったようなのですが、それも何とか潰したようで、治外法権や無法地帯はできていないようです。
私の住んでいる地区はトルコ人がかなり多い地区。トルコ人は世界的な目で見ると移民。なのですが、フランスやアメリカに来ている移民とはかなり様子が違います。まずドイツ語が分からないトルコ人というのは80年代、90年代を経て今はまずいません。正式な手続きを踏んでドイツへ来ている人なので、あまり犯罪に走る人がいません。正式な住民であれば学校、就労を始め全てドイツ人と同じ義務がある一方、支援と保護も受けられます。なので変に犯罪に走ってちょっとしたお金を稼ぐより、きちんと法律を守っている方が生活は安定し、お天道様に顔向けもでき、尊厳を持った生活ができるのです。
私が渡欧した最初の頃にはドイツ人のトルコ人に対するあからさまな嫌悪が見られることもありましたが、90年代あたりからは双方の歩み寄りが枠だけ、名目だけではなくなり、トルコ人とドイツ人の結婚も以前ほど大きな問題にはならなくなりました。世代が変わったためなのか、ドイツが政治を変えたためなのかは分かりません。以前は日本人は借りられても、トルコ人は借りられないアパートが多かったように思いますが、最近はそういう話は聞きません。
ハンナがベルリンに到着してから歩き回る町の一部はトルコ人の多い場所で、「ブロンドの少女が危ない所を歩いている」という表現のつもりだったのかも知れません。道端にごみが置いてあったり、それなりの演出がしてあります(注: ベルリンにはオレンジ色の BSR (ベルリンの町の掃除)という組織があり、ごみはあっという間に持って行ってしまうので、実際のベルリンは画面の印象と違います)。私はその辺は夜中でも歩くことがあります。トルコ人がその辺をうろうろしているから却って安全という面もあります。ある西ドイツから引っ越して来たドイツ人の若い女性がその辺を歩いていてトルコ人からいやな目に遭ったことがあるのですが、なぜか当時は若かった私が歩いても何ともありませんでした。長い間なぜなのだろうと考えていましたが、そこに住んでいるのがトルコ人であろうが、ドイツ人であろうが、よそ者の私たちが来る時に、体から発する雰囲気の問題なのだと分かりました。
1つには何人(なにじん)であろうがその場所を良く知っている人間が歩けば夜中でもさほど問題は無いということがあります。相手も心配そうにしていないと「ここの人間だ」と認識し、襲わないのです。もう1つはよそ者でもそこに対して好意的な感情を持っているか、敵意を持っているか、不要な恐れを持っているかによるのでしょう。過信して安心しては行けませんが、敵意を持って歩くと悪い事件を自ら招きやすいのも事実。その女性はベルリンに住んでいない時、悪い評判を聞いていたらしく、最初から恐れを抱いていたそうです。先に自分の目で様子を見てから判断すればよかったのにと思います。私に「あそこは歩かない方がいい」と注意をしてくれたので私はびっくりしてしまいました。近くにトルコ人の友人が住んでいたこともあり、良く行く場末の映画館があったこともあり、また、映画の後入ってケバップを食べる軽食堂があったりしたので、「行くな」と言われてびっくり。
こういうのを偏見と呼ぶ人もいるかも知れませんが、結局は行き慣れていない場所、見慣れていない人を前にした時の人間の反応。私がこの方向に行かなかった大きな理由は好奇心。まだ1人もトルコ人の知人がいなかった時私の目を引いたのは八百屋さんでした。店の様子が人に微笑みかけているかのようで、つい入ってしまいました。売っている野菜、果物も当時のドイツと全く違い、むしろ日本人の食べそうな物ばかり。まもなくドイツ語を一緒に勉強するトルコ人と知り合い、偏見路線になる暇がありませんでした。知り合ってみるとメンタリティーが日本に近く、その上親日トルコ人ばかりが現われ、結局偏見路線には至りませんでした。
幸いなことにそれから30年が過ぎ、ドイツ人も偏見路線が少数派になり、普通路線と親トルコ路線が増えました。なのでドイツ人でも映画に出て来たシーンにおやっと思う人もいるかも知れません。ま、長い間ベルリンのトルコ人地区に住んでみるとちょっとこの辺で映画の印象に訂正の言葉を挟みたくなってしまいます。
★ どんな映画でも見てから文句を言う
・・・のが私の方針。ベルリンを使って撮影されたという意味で、たとえ文句が出てもおもしろかったです。遺伝子をどうのという話はもしかしたらどこかで本当にやったのかも知れないなと思わせる雰囲気があり、テーマとしてはおもしろいですが、あまり深く掘り下げていません。中心はむしろハンナの訓練とその後の長い長い旅。もっと掘り下げていいかと思えるテーマは見事にかすんでいます。焦点の絞り方を間違えた、せっかく呼んで来た俳優の使い方が、ハンナを除いてはあまり成功していないと言えます。ハンナが主演でハンナという名前の映画なのでそれでいいと思ったのでしょうか。
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