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2004 USA/J/D 170 Min. 劇映画
出演者
Leonardo DiCaprio
(Howard Hughes - 実業家)
Jacob Davich
(Howard Hughes、少年時代)
Cate Blanchett
(Katharine Hepburn - 女優、ヒューズの恋人)
Frances Conroy
(キャサリンの母親)
Kenneth Walsh
(キャサリンの父親)
Kevin O'Rourke
(Spencer Tracy - キャサリンの後の恋人)
Kate Beckinsale
(Ava Gardner - 女優、ヒューズの恋人)
Gwen Stefani
(Jean Harlow - 女優、ヒューズの映画に主演)
Jude Law
(Errol Flynn - 俳優、当時のヨン様、やや乱暴者)
John C. Reilly
(Noah Dietrich - ヒューズの会社の番頭)
Lisa Bronwyn Moore
(ノアの妻)
Ian Holm
(Fitz - 学者、ヒューズの研究に付き合う)
Alec Baldwin
(Juan Trippe - 航空産業のライバル、パンナム)
Alan Alda
(Ralph Owen Brewster - 国会議員、ヒューズの金銭トラブルの公聴会を開く)
Stanley DeSantis
(Louis B. Mayer - 映画産業のボス)
Willem Dafoe
(Roland Sweet)
見た時期:2005年2月
長編なので覚悟して出掛けて行って下さい。途中でトイレ休憩が入り、全体で3時間弱です。
オスカーが意外な展開になったのですが、その筆頭候補アビエーターとミリオン・ダラー・ベイビーの比較はこちら。
ゴールデン・グローブとオスカーを始め数々の賞にノミネートされましたが、ちょっと驚きます。ドイツでも雑誌などは軒並み誉めていますがそれほどのレベルではありませんでした。揃えたスターには演技を期待できる人もいますが、例えばあの演技派のケイト・ブランシェットのできが悪いのです。私は何度か映画で本物の(故)キャサリン・ヘップバーンを見たことがあるのですが、ブランシェットの代わりに本人に出て欲しかったです。ヘップバーンは大きな身振りをしながらも繊細さが出せる人で、デリケートな表情などもかなり行けます。それを演じるのがブランシェットだと聞いていたので、安心して出かけて行ったのですが、意外や意外。唖然としてしまいました。わざと下手に演じたのかと思ったぐらいです。エリザベスでなく、ヘップバーンの役で大きな賞をもらったら本人が1番驚くのではないでしょうか。
期待のカプリオは一言では簡単に表現できません。タイタニック路線は捨てています。一部精神に異常をきたしたシーンがありますが、 ギルバート・グレイプ路線とも違う演技です。前半はそれほど上手とは言えません。紹介しなければ行けない主人公にまつわるエピソード満載なので、悠長に繊細な演技をやっている暇が無いといった感じです。
前半だけを見ていると、なぜこれがゴールデン・グローブ受賞でオスカーのノミネートなのかという疑問と、カプリオはそれほど良くないという印象が強く、脇役が豪華な顔ぶれでありながら、ベルトコンベアーにエピソードを乗せてどんどん先に運んでいるだけという印象をぬぐえません。それほど色々な話を紹介しておかないとハワード・ヒューズという人の行動が理解できないという側面もあるでしょう。少なくとも前半はスピールバーグのキャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンのカプリオの方が乗りがいいです。
子供で登場し、大まかにカプリオが青年で登場する頃の事情が説明されます。ハワード・ヒューズは成人するかしないかの頃にすでに両親を亡くし、財産と事業を引き継いでいます。この時点ですでにかなり裕福ですが、短いシーンに次のような重要な点が描写されています。
・ かなり金持ちらしい
・ 母親は事業に直接関わらず、子育てに専念していて、息子を過保護にしたように見える
・ 母親は細菌感染など外から来る災いに神経質な性格だった
・ ヒューズが子供の頃から父親の影が薄い
・ 同年代の子供と遊びまくったやんちゃ坊主の様子が無い
これが後のヒューズの人生に大きな影響を及ぼします。何か暗い面を予想させるシーンですが、本人は結構陽気で楽天的な面も持っています。自分の家業だけでなく幅広く興味を持ち、それを追求していく性格で、調子のいい時代には多方面で成功を収めます。スコシージ + カプリオの大企画では、比較的初期の頃から表の派手な生活だけでなく、台所事情も取り上げています。で、番頭さんや家庭教師代わりの教授なども登場します。
女性の方も豪華絢爛な顔ぶれで、アビエイターの中で扱われているだけでも、ジーン・ハーロー、キャサリン・ヘップバーン、エヴァ・ガードナー、ジェーン・ラッセルが登場します。この人たちは実際には個性的な人生を歩み、ハリウッドに大きな名を残しています。姿形だけでもかなり個性があり、後々まで覚えられています。しかしカプリオの横に並ぶ女優は全てかわいらし過ぎて、ボリュームに欠けます。スコシージは女優の使い方が相変わらずです(資源の無駄使いだ!)。
アビエイターは一連のデニーロ物と一線を画し、暴力シーンはありません。主人公がいわゆるギャング系の人物でないからです。ヒューズと法律の間に摩擦が生じると、公聴会で国会議員と勝負するような人です。
ヒューズという人は元々金持ちのボンボンで子供のように空を飛ぶことを夢見た少年でしたが、その辺のボンボンと違うのはそれを実現してしまうところです。映画作りも夢見ていましたが、本当に作ってしまいます。金はどんどん出します。しかし人間関係では器用ではなく、女性を生きた人間と感じず、金や権力を使ってキープしようと考えるのです。恋人になった女性を所有物と考える傾向があります。そのくせ好きになるのは自立し、しっかりとした考えを持った女性。それでお嫁さんになってくれる人はいません。先方に断わられています。彼女たちに取っては大型スポンサーのヒューズより、ただの歌手や俳優と暮らす方が良かったのです。シナトラ、トレーシーと言えどプロデューサーの一言で首という世界なのにです。
★ トイレに行った後
あくびの出る前半が終わり、トイレから戻るとなぜこの作品が作られたかが分かるようになっています。ヒューズはリンドバーグの TWA をその時点で所有していますが、パンナムは TWA を狙っています。国は国際線は1社に絞らないと国際競争に勝てないという見解で、パンナムが国会議員と結託して海外路線を1社に絞るところでした。選ばれるのは当然パンナム。
ここに至るまでに彼はたくさんの飛行機が登場する、当時1番値の張る映画を作ったり、新型飛行機の開発をしたりして成功を重ねています。金持ちのボンボンは飛行機オタクで、メカにはやたら強いです。金銭感覚の方ではやや誇大妄想的な面があるので、番頭さんがしっかり目を光らせています。
ヒューズはパンナムの所有者と競合になり、1社という国の政策に反対します。パンナムと政府は結託していたので、ルンルンだった話の邪魔をするヒューズは目の上のたんこぶ。自由経済の国なので、素人の私から見ると、どうしても出たいと言うのなら2社出して、分の悪い方がいずれ撤退するのを待っても言いように思うのですが、当時アメリカは計画経済だったんでしょうかねえ!?そこでヒューズは公聴会に呼び出されるはめになります。結託している議員からは事前協議の申し出があり、裏取引も持ち出されますが断わっています。そのため見せしめのような公聴会では彼の恥がさらされる予定になっていました。
公聴会に出席しなければ行けない時期にヒューズは強迫神経症が悪化していて完全に閉じこもり病にかかっていました。自室に裸で篭城し、部屋は散らかり放題。完全に病気状態です。ですから私は彼が公聴会でけちょんけちょんにやられるものと思っていました。争いの内容は全く異なりますが、現在のマイケル・ジャクソンを思わせるシーンです。
ところがどっこい、彼は Let’s panic later. 系の人だったのです。物事には優先順位があり、ことが飛行機となると、ノイローゼは二の次。家の敷居をまたぐまでは、エヴァ・ガードナーにぼうぼうに伸びた髭を剃ってもらい、洋服を着せてもらわないとだめでしたが、いざ戦場に来ると公聴会の議員相手にしっかり食って掛かります。そして出て来たのは、調査が行われている軍関係の飛行機の金に関する不正で、ヒューズ1人だけを追求するのは矛盾があるという話に発展します。彼は公聴会のさなか、皆が記録を取り、録音し、撮影し、写真を撮る場で、他の会社名を挙げ、そこでも大金が動きながら品物は納入されていないと発言するのです。ヒューズの人生を完全に狂わせたと思えたノイローゼはいずこへ?気合を入れて応戦します。
監督、カプリオ、脚本家が言いたかったのは、3時間に及ぶ作品の中でここ1つだろうというシーンです。それまでわりとあいまいだった表現がここに来て気合、テンション 100% の一騎打ちになります。ここでカプリオを苛める議員を演じている俳優の気合もなかなかです。かつてのケネス・スターを思わせる方法でカプリオを隅に追いやると思いきや、反撃を受けて負けです。
女優との付き合いや飛行機工場のシーンばかり出てくるので私たちは画面では目をそらされてしまいます。しかしヒューズ側はしっかり準備をしてあったらしく、その上主張が単純明快だったので、勝ち目はあったのです。新聞が書き立てても気にしなければ確かにこういう戦法もありです。自分でハリウッドの雑誌にも関わっている人なので、ジャーナリズムがどういう存在なのか心得ていたのでしょう。私たちはカプリオのノイローゼ・シーンにいっぱい食わされます。
★ 映画の後のヒューズ
勝負ありの公聴会の後は新型の飛行機を飛ばしご機嫌ですが、実際のヒューズにはこの後もノイローゼが続き、最後はやせこけて死んだそうです。本人かどうか見分けるのに歯型や指紋で確認を取らなければならないほど容姿が変わり、身長190センチ近い人が40キロを割っていたという話を聞いたことがあります。
★ カプリオ
作品全体を見ると最初に書いたようにオスカーというほどの出来ではありません。注目に値するのはカプリオ。彼はタイタニックの成功に翻弄され、人生をあやまる手前まで行ったそうです。スターになりたかったとしても多少演技での評価を望んでいる人で、ロマンチックな悲劇の主人公だけでは物足りなかったのでしょう。
カプリオがどのぐらい演技ができるかは疑問でした。ギルバート・グレイプは雑誌でも認められていますし、将来性があるとロバート・デニーロの注目も浴びていますが、私は精神を病んでいる人を演じるのはありきたりの人間を演じるよりずっと易しいという持論で、おかしい部分は自分で思いついたフリー・スタイルで演じられると思うのです。普通人を演じる場合は、多数が納得するようにやらないとだめで、それだけ見る人の評価も厳しいでしょう。で、私はカプリオの評価はまだしていませんでした。アビエイターでは狂人、変人を演じているのではなく、普通の男が自分の抱えているノイローゼに苦しむというシーンを演じています。これさえ無ければ夢を追う金持ちのボンボン。ところがノイローゼが進行し、最初はちょっと気になるだけだったのが、少しずつ悪化し、日常生活に問題が起き始めるという過程を演じています。彼の俳優としての能力の裏打ちができ始めていると言えます。まだアビエイターはカプリオとしての完成品ではありません。有名になった当初のデ・ニーロと比べるとずっと未熟です。しかし伸びそうだと思わせます。
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンでも楽しい若者の冒険人生というのが全体の流れでしたが、父親との関係ではきめの細かい表現もしています。大監督の元で働いてもいじけず、徐々に自己主張を始めています。タイタニックの相手役のウィンスレットも出た当初から完成した女優で、明らかにカプリオは負けていますが、彼は今後も成長するスターと言えるでしょう。型にはめられるのを嫌いながらつぶれてしまう人ではないようです。スコシージはこれからもカプリオを使うつもりらしく、インファナル・アフェアのリメイクでトニー・レオンの役をやるとか聞いています。よそにも書きましたが、監督から注目され、使ってみようと思ってもらうことの方が4月になれば皆が忘れてしまう賞より価値があるのではないかと思います。
極楽鳥、イージー・ゴーイングのスター生活などというイメージを持っていたのですが、実はカプリオはこの作品の脚本に2000年になる前から取り組んでいたそうです。で、プロデュースにも乗り出しています。アビエイターは出来事の順に撮影されたのではないそうです。そりゃそうだわ、と思います。飛行機を大量に出すシーンなどは一気に撮ってしまわないと予算が大変です。同じ日に年齢の違うシーンもあったとか。で、せっかく上手に年を取ったメイクになったかと思うと、急に若返って見えたりする時もあります。大やけどをするので体のメイクもあり、体が若く見え過ぎるシーンもあります。アラは結構あるのです。
クライマックスの1つは公聴会の言葉の戦いですが、もう1つは飛行機墜落のシーンです。デッドコースターの事故シーン、ターミネーター 3 でトラックが近所の家を壊して回るシーンに匹敵します。空中から人家を翼で引っ掛けながら走るのです。その間に自分の飛行機もどんどん壊れて行きますし、主婦が民家で家事をしていたらいきなり横から翼で家をスライスされてしまいます。前半のクライマックスのつもりだったらしい飛行機映画のシーンは不発。ケイト・ブランシェット演じるキャサリン・ヘップバーンも不発なのですが、その分後半には期待してもいいかと思います。
全体的のできは「もうちょっと行ってもいいのでは」ですが、驚いたのは時間も予算もほとんど計画通りで、オーバーしていないのだそうです。ヒューズという人が巨大な計画を立て、どんどん時間も予算もオーバーするので、この話を聞いた時は意外でした。スコシージもオーバーして収拾がつかなくなっているのではと感じてしまうのです(昔そういう戦争映画がありましたよね、イタリア系の名前の監督で)。確かに欠点もありますが、タダ券に当たったら是非見に行って下さい。
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